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105話 現実





「さすがにお金稼がないと…」



梅のために、妹を探す為に居着いたものの、持ってきたお金は盗られてしまっていたし、このまま呑気に生きてよいのだろうか。




とはいえ、就労ビザもないのにどう働けと。




倹約家であり、お金を稼ぐこと自体がそもそも大好きだったからこの状況にすごくソワソワする。




就労ビザもないし、言葉だって挨拶くらいしか話せない。

これでどうしようと言うのか。




「どうしました?」




そんな自分の様子を見て、梅は声をかけてくれた。




「さ、さすがに…お金を稼がないと思って…

全く資金がないのに、妹は探せないし…」




「なるほど……」




別にいいんですけど…と梅は口に手を当てた。




どうしよう、困らせてしまった。

どうにか、日本人でも働ける場所探さなくては。



「なんでもないです、大丈夫です」



「そうですか」



特別気にするわけでもなく、梅はPCで作業し始めた。




PCでの作業が終わったのか、梅は伸びをしてふぅ、とため息をついた。




「ちょっと席を外しますね」




「はい…」




梅がいなくなり、マリアはPCを勝手に使い始めた。




「えーと…日本人…働ける場所…」




「カラオケ…日本人OK…?」




翻訳機能を使いながら辿り着いた求人。


そこにはカラオケルーム、日本人大歓迎と書かれていた。





「カラオケ…よし、ここにしよう…」




「私、仕事始めます」



「え…?」




梅の顔にはなんだ?急にと書かれているように見えた。




「はい、カラオケ屋さんで働きます。

さっき電話したら、日本語話せる人いて。

日本人大歓迎て」




「カラオケ………?」




「はい、大丈夫です。

梅さんに負担かけすぎなので」




「はぁ…DT中でしょう…?」




「大丈夫です、気を遣ってくれてありがとうございます」




「あ、いえ…カラオケ屋…ですか…?」




「はい、だから大丈夫です」




そのやり取りを見て百合は腹を抱えて笑い始めた。




「明日から働きます」




「あ……そうですか」





DT中だからまだ動くな、と止める梅を振り切り、指定された場所に到着すると店内は薄暗く、高級そうで綺麗な装飾だった。




随分、日本のカラオケ店とは違うな…と感じた。





「名前なんにする?」




「は?名前?」




「そ。みんな名前変えてるよ」




そうなのか…。

梅に言われた、「住めば都」という言葉がなんとなく思い浮かんだ。




「ミヤコ…とか…?」




「日本人ぽくていいね」




ここで待機するように言われ、部屋に入るとみんな綺麗で身長が高い美女ばかりだった。




「………??」




なぜ、待機する必要が…?

それにみんななんだかすごく綺麗だし、着飾っている子ばかり。

これではまるで…




「キャバクラみたい…」




そう口に出すと、女性はみんなミヤコに目を向けた。




『珍しい…』




『日本の子だ』




なにやらヒソヒソと噂話をされている気がする。

本当に日本語のみしか話せないが大丈夫だったろうか。




「ミヤコさん」




「あ、はい」




男性に呼ばれ、ついて行くとここに入ってと言われた。

中に入ると複数人の男性がいた。




『日本の女の子?』




『かわいいね、顔ちょっと浮腫んでるけど…』




「私、なにしたら…」




「じゃ」




「えぇ、ちょっと!」




ミヤコの質問には答えず、スタッフは去ってしまった。




『大丈夫?』




『座りなよ』




なんとなくジェスチャーでわかった。

とりあえず男性の隣に座ると、デンモクを渡された。




『日本の曲聴かせてよ!』




「あ、えーとjapanese only…」




そう言うと、男性たちはキョトンとした後、手を叩いて笑い始めた。




『いや日本語もっと聞かせてよ!』




男性にグラスを渡され、なんの気なしに飲むとかなり度数が高いお酒で驚いた。




この人たち、こんな強いお酒を笑いながら飲んでる…




それから何杯も飲まされ、もうその後は仕事にならなかった。

店からそんな状態なら今日はもう帰れと送ってもらった。




「頑張らなきゃ…」




「マリアさん」




梅が口に手を当てながら、怒りの表情を浮かべていた。




「ミヤコですよ〜」




「はぁ?

あなたDT中なのにお酒を飲みましたね」




え…怒ってる…?

いつもの梅とは違い、嫌悪感を抱いたような目で見られた。





「ミヤコとしてまた仕事頑張りますから、怒らないでください」




「は…?

そんなことはどうでもいいです。

よくも、経過途中に飲酒をしましたね」




「あの…これもらった日給です」




ミヤコが日払いで出たお金を梅に手渡そうとすると、梅は目を見開いた。




「いりません。

あなたはなにもわかっていない」





「そんな…」




「私は止めたのに、なぜわからない。

芸術を理解できないのか」




声を荒らげていないのに、こわい。

どうしよう、なにがだめなのか酔っ払った思考回路ではわからない。

見捨てられたくない。





「お願いです、許してください、見捨てないでください」




「………」




涙を流しながら土下座をした。




「…もういいです。

泣いたら余計に腫れてしまう。

さっさと寝なさい」




「私、頑張りますから…」




「もういい!

わかりましたから、明日からはこの仕事は行かないように。

そのお金は自分で好きにしなさい」




もうDT中は大人しくしてよう。

そう誓った。





月日は流れ、完全に顔が安定してきたミヤコは、またカラオケ店に出勤し始めた。




「全く…何度言っても、理解しない…」




「いいんじゃない?

ああいう馬鹿が働くにはぴったりな場所」




「そうでしょうか…。

扱いづらくなってきましたよ…」




私としては有能な秘書になってほしかったんですけど、これ以上あなたからはもらえないと給料を受け取らないんですよ、全く…と梅はため息を吐いた。




「ああいう馬鹿はなに言っても聞かないわよ」





「はぁー……段々とメンヘラ化もしてきましたし…」




関係性を考えなくては…と梅は面倒くさそうにつぶやいた。





———



段々と言葉もわかるようになり、聞き取れるようになってきた。

きちんと意思疎通が取れるとかなり嬉しかった。




「あら、百合ちゃん。

おはよう」




『ふっ。

妹がとっくの死んだとも知らず、阿保な女』





「え………?

なんて………?

死んだ…?」






『あら…だてに法学部は出てないってことね』




『どういうこと?

冗談でしょう?』





『冗談〜?

馬鹿な女!

アンタが整形してた頃には、妹はとっくに死んでまーす!』




きゃははは!と、心底楽しそうに笑う百合が悪魔に見えた。





『私はね、かわいい女の子が大好物なの。

ごちそうさまでした〜!

泣き叫ぶ声が1番美味しかったわ!』




視界が曲がった気がした。

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