第101話 気分転換
人がひしめき合う街中。
少し外れた路地裏に入り、奥まで進むと、扉があった。
合言葉を口にし、扉を開ける。
「日向か」
百合はソファに寝転がり、スパーと、シーシャを吸った。
「珍しいな、日向が来る」
百合は未だ拙い日本語で、日向に妖艶な笑みを浮かべた。
「最近どうだ、成果があんまりじゃないの」
「大学とか弓道が忙しくて」
「やる気、ない?」
「ないわけじゃないよ。
でも勉強や射撃とか弓道に時間を使いたいんですよね」
「ふーん…」
百合は興味が無さそうにシーシャを吐いた。
「最近、ミヤコと仲良いな。
お前にも、仲良くできるやついたのか」
「いたみたいだね」
「誰もお前となんて友達になりたいわけない」
ケラケラ笑う百合に日向も笑みを浮かべた。
「そうですね」
「ミヤコが底辺でよかったな」
「話はそれだけですか?」
「ああお前をからかえて満足」
「ならよかった。
僕帰りますね」
返事をせず笑う百合に背を向け、日向はシーシャスタンドをあとにした。
「日向くん」
「梅くん」
すごい荷物だね、と日向は持とうか?と提案する。
「大丈夫ですよ、貴方は紳士的ですね」
「そうかな」
ああ、あの袋には一体何人の女の子だったものが入っているのかな、と日向は考えた。
これから百合と梅の晩餐会が始まる。
2人の世界を邪魔をするのはよくないな、と日向はさっさとその場を去った。
拠点に戻れば、ミヤコが部屋の真ん中でぺたりと座り込み涙を流していた。
「ミヤコちゃん」
「……日向」
ハンカチを手渡すと、ミヤコは小さくありがとう…といい、受け取った。
「なにかあったの?」
「嫌なの」
「なにが?」
「解体するのが、もうこわいの」
「どうしたの?」
「さっき解体した子が、姉妹だった」
「そっか…」
「息が詰まるわ…
私…どうしたらいいの…」
「………それなら…気分転換しに行こうよ」
「え…気分転換…」
「そう。
ミヤコちゃんの行きたい場所に行こうよ」
現実はどうしたって変わらない。
なら、どう向き合うかが大事になるよね、と日向は言った。
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「ここ、よく家族で来たの。
私が大好きで」
小さなカフェが併設されているケーキ屋にミヤコは日向を連れてきた。
「そうなんだ。
ミヤコちゃん、なに好きなの?」
「…チーズケーキ。
なんでも美味しいのよ」
「じゃあミヤコちゃんのおすすめ教えてよ」
「…このチョコレートのやつも好きよ」
「じゃあこれで」
「美味しい」
久々に食べたな、ケーキ…と日向はつぶやいた。
「日向は?」
「ん?」
「行きたい場所とか、好きな場所とか…ラナさんには会いに行かないの?」
「行くよ。
これからラナが好きだった場所に」
「そうじゃなくて」
「?」
「貴方が行きたかった場所や好きなところ」
日向は腕を組んで、うーんと唸った。
「僕はラナさえ喜んでくれたらそれでいいし」
「…まだ、見つけてないってことね」
「そんなことないよ」
「そんなことあるわよ」
「そうかな。
ミヤコちゃんは他にどこ行きたいの?」
これ以上今の日向からは答えを得ることはできないと思い自身の好きな場所を挙げることにした。
「美術館とか好きよ。
あの値段で文化や芸術を楽しめるんだもの」
「じゃあ行こうか」
お茶も済んだし、と日向はタクシーアプリを開いた。
美術館の公園で親子が大道芸を見たり、一緒にアイスクリームを食べる姿をミヤコは見つめた。
一緒によくこの公園に来て、妹とシャボン玉で遊んだり、父と鬼ごっこをしたり、姉とかくれんぼしたりした。
たくさんの展示会に母は連れて行ってくれた。
「昔、人体の不思議展に行ったの。
まさかこんな形で人体に触れるなんて思わなかった」
検事や検察官を目指していたから行ったのにね、とミヤコは笑った。
「ふーん…
でもミヤコちゃんの腕が確かなのは間違いないしね」
「私は…本当は…」
「こんなはずじゃなかった?」
「ええ…」
「きっと、それは、僕もそう」
多分ね。
そう日向は付け足した。
「日向……あのね。
私の本名は、赤井マリア。
あの日、あったこと聞いてくれる?」




