第100話 秘密増えちゃった
「陽翔〜!!」
神ー!とあおいは叫んだ。
「超主人公で神!」
ドヤ顔を浮かべる陽翔に、日向はだるそうに睨んだ。
「痛いんだけど」
「ごめん」
謝る気ないだろ、と日向はぽそりとつぶやく。
「あ、こうき、変身しといたら?」
「あ…うん」
「うん、じゃないよ」
いつもの日向よりも、数度が低い声に、こうきと梅が驚いた表情を浮かべた。
日向にもそんな感情、あったんだ…という風に。
日向が苛立ったように、手術用トレイに置かれたメスを手に取り、陽翔に投げた。
「あ、こら日向くん」
「わ、あぶな」
陽翔はメスを避け、乗ってきたLOOPに乗った。
「院内でLOOP乗らないでください」
「これで乗り込んでみたかったんだよね」
「は?
殺すよ」
「あぁもう、やめなさい2人とも!」
「やばい、オレもついてけないわ」
「陽翔…」
あおいとこうきですら、陽翔の行動についていけず困惑してる。
あぁ、もう!と梅は廊下に顔を出し、ため息をついた。
「あ、なにやってるんですか」
「止血」
「いや見たらわかりますけど」
いつからこんな自由な空間になったんだっけ?
とみもは考え始めた。
「っしゃあ!
包帯巻けた!」
「よかった、そんな傷深くなくて」
「ちょっと、勝手に包帯使わないでくださいよ」
「私帰っていい?」
陽翔のせいで完全に自由になったあおいとこうきに頭を抱える梅。
「私、いる?」
「いらないとは言いましたけど、帰すわけなくないですか」
「いや、もういいじゃん
帰らせてよ」
「いやよくないでしょう」
「こんなとこもういたくない。
帰ってレッスン行きたい!」
梅は冷たい表情を浮かべ、みもにそれ以上喋るなというように、メスを投げた。
「い、っだぁぁぁぁ!」
あおいはみもを守るように抱きしめ、背中に刺さったメスを抜いた。
「痛すぎるんですけど!?」
「な、なんで…」
「レッスン、ちゃんと受けてほしいからだよ」
「はぁ…」
梅は釈然としない声をあげ、あおいにメスを投げようとする。
「もうやめろ」
「あぁ…」
こうきの持つ剣の先を顎に突きつけられ、動きを止めた。
「どこからそれを」
「梅の部屋から。
あおいが囮になってる間に」
「誰が囮やねん」
「まだあったなんて、思わなかったよ」
「ありますよ、私は未練がましいので」
「知ってる」
「こうきくんに、剣を持たれたら勝ち目はないですね」
「なにを白々しい…」
こうきは自分よりも背丈が高い梅を睨んだ。
「よし、こうきが囮になってる隙に逃げよう、みも。
大丈夫、オレが守る」
「誰が囮だ!」
「だ、大丈夫なの?」
「あいつ強いから大丈夫!」
あおいはメスを抜き、痛みに耐えながらみもの手を引いた。
「あーあ、行っちゃいました。
こうきくんのせいですよ」
こうきは剣を持つ手に力を込めた。
「いいか、喋ったら肌が傷つくぞ」
「それは困ります」
フフッと笑う梅にこうきは唇を噛んだ。
「てか、陽翔どこ行った…」
あいつまだ院内にいんのか?と思ったけど、いなさそう、出口ぶっ壊してるし…とつぶやくあおいの横顔をみもは見つめた。
「ねぇ………
どっかで、会った?」
「え、?いやぁ、ないよぉ!」
あおいは院内を出てすぐにタクシーを拾い、みもを乗せた。
「ちゃんと家まで帰って、明日からはまた頑張れよ!」
そう言い、院内へと戻ってしまった。
「お客さん、あれなに?」
タクシーの運転手にそう聞かれる?
コスプレ?あの血なに?
「……わかんないけど…」
なんだか、気に入るような、気に入らないような。
身を挺して守ってくれた…
「……王子様、かな」
そう、みもはこたえた。
「こうきくん、2人きりですね」
「言うと思ったよ…」
こうきは嫌悪感を露わにした。
多分陽翔はあの感じではもう外に出てるし、あおいはきっとみもを安全な場所に導いているはず。
院内には今人がいないはずだ。
「金鞠や他の子に酷いことしてないだろうな」
「したことないって言ったでしょう」
「嘘をつく奴は嫌いだ」
「嘘じゃないですよ」
「そうやってまた人を囲うんだろ…」
「そうだそうだ!
貯金返してやれ」
「あおい…、フラフラじゃないか」
出血過多であおいは目眩がした。
でも、こうきを置いていくなんて性に合わない。
「しつこい奴は、嫌われるんだよ!」
こうきに剣を突きつけられ、動けない梅をあおいは横から殴った。
「あーすっきりした!」
「痛いですね」
「思ってないだろ」
「あなたに殴られる謂れはないので」
「オレだってお前に刺される謂れはないし!」
梅のメスをあおいは床に投げた。
「あ、あおい」
「あ、陽翔お前どこまで行ってたんだよ」
「街一周してきた、あいつめっちゃなんか物投げてくるんだけど」
「街一周!?」
あのピンクのやつとそんな鬼ごっこしてたの!?
と、あおいは目を丸くした。
「だから院内でLOOP乗らないでください!」
「待てよ」
「日向くん、落ち着きなさい」
「よし、陽翔、こうき。
逃げるぞ。
あ、こうきは普通に走ってこい」
「な、なんで…!」
あおいは陽翔の後ろに乗り、陽翔にGOサインを出した。
「ふ、ふふ…陽翔くんはななめ上をいきますね。
ああ、面白い…!」
「僕もLOOP借りてくる」
「ダメです、片付けなさい」
全く!と梅は日向の頭を叩いた。
「それにしても、こうきくんの走り方、フォームがよかった…」
「どうでもいい…」
日向は叩かれた頭をさすり、陽翔のことを思い出し苦い表情を浮かべた。
「次は絶対殺す」
———
「疲れた…
こんな疲れてるのに、今日はライブ…
頑張るか…」
あおいは楽屋に入る前に、パンと顔を叩いた。
「おはようございまーす」
「おはようー」
「おはよ」
「みも、おはよ」
「………」
あおいはみもに挨拶をするが、いつも通り無視された。
ま、いいけどね。
着替えよ…と思い、カーテンを閉めて着替え始める。
「私、好きな人できたの」
「え、どんな人?」
へぇ、みもが。
好きな人ができたのか。
珍しい事もあるもんだな、というか、あんなことがあったのにもう恋愛してんのか。
すげーな若者は。
と、着替えながら聞こうてきた会話に耳を傾けた。
「青い服が似合う、王子様」
「なにそれ、どういうこと」
「私のこと、助けてくれたの。
タクシーに乗せてくれて」
「はぁー?」
オレもはぁー?の気持ち。
カーテンを開け、椅子に座ると、みもは舌打ちをした。
「…ほんとにかっこよかった。
メスが刺さってるのに、私を助けてくれて」
「…………」
陽翔、こうき。
オレは21歳、性別を偽りアイドルをしていることをメンバーに隠している。
絶対にファンもともかく、メンバーにもバレちゃいけない。
その秘密が、もう一つ、増えてしまった。
「また会いたい」
もう、会ってるよ。




