第十話 大人を舐めるな
金鞠蜜樹は自身のブルーカラーの綺麗に施されたネイルを眺めて、ため息をついた。
「日向ちゃん、仙ちゃんてどうなっちゃうのかなぁ」
「さぁ。僕には関係ないし」
薄情だなぁ、と樹が言っても日向は、そう?と表情を特に変える事なく、医学書を読み耽っていた。
「日向くん、髪の毛に切れ毛が」
そう白衣の男言われ、日向は自身のピンク髪の毛先をそっと触る。
「また切れちゃった」
「ブリーチしすぎなのよ、いいトリートメント教えたげる!」
「いい。僕は今使ってるの変えたくないし」
「えーなんでよ、髪質にあってないのに」
「いいの、全部同じ成分でいたいの」
「意味わかんない」
「いいかな、今日はかわいい子を紹介しますよ」
白衣の男が柔らかく、扉の方に指を差した。
その言葉に、蜜樹と日向はバッと扉の方を向いた。
そこには小さくて可愛らしい少年———ゆうりがいた
「…どうも」
「えーかわいい!あたし金鞠蜜樹!
なにちゃんて言うの?」
「ち、近っ」
樹はこの組織には珍しい高校生が入ってきたと、興味津々で声をかけた。
「あっちはね、日向ちゃん!」
対照的に日向はあまり興味がなさげに小さく会釈をした。
「片栗、ゆうり…です」
少し顔を赤らめ、自己紹介をする姿がかわいく見えたのか、蜜樹はぎゅっとゆうりを抱きしめた。
「かわいー、照れてる!
よろしくね!」
「や、やめ、離せ!」
自分よりも身長の高い(170センチくらいだろうか。ヒールも高く、180センチほどに見える)女性にいきなり抱きしめられ、ゆうりは混乱する。
いきなり抱きしめてくるなんて、なんなんだこの女は!?
と、ドキドキする胸を抑えながらゆうりは樹を睨みつけた。
それがまた蜜樹の心に刺さったのか、ニヤニヤと笑みを浮かべ始めた。
「ねぇーかわいい!
もっとからかいたくなっちゃう」
「な、なんなんだよ!」
「さぁ、ゆうりくん」
「?」
「デバイスを持っていますよね?」
「!」
これを渡したら、もう陽翔と涼太とは…………
「美しい友情だ」
「と、友達じゃ…」
「大丈夫。壊したりなんかはしないよ。
預かるだけだ。
君は明日も安心して、学校に通うといい。
そこの二人と同じように」
「え………学生、なのか」
「うん、私は美容学生、日向ちゃんは医学部に通ってるの」
「そう、なのか……」
「俺は…………」
グッと拳を握る。
わからない。
答えがないものは……苦手だ。
白衣の男は、答えを急かさなかった。
「そうだね」
「難しいよね」
まるで、正解を知っている教師のように言う。
「しばらく、考えなさい。それが君の最初の仕事です」
—————-
ゆうりが適合しなかった。
ゆうりの、あんな顔、初めて見た。
「なにか…俺に出来ること」
陽翔はゆうりが好きそうなもの、喜びそうなものを唸って考えたが、いい案は思い浮かばなかった。
「幼馴染なのに」
ゆうりを傷つけてしまったかも。
そう思うと、いつもの牛乳も、味がしないような気がした。
「…ゆうり」
お前はいつも不機嫌そうに顔を歪めて…涼太を睨んで…でも、知っている。
お前が文句を言いながらもいつも俺たちを見守っていたこと。
俺たちには、ゆうりが必要なんだよ。
—————
無断外泊をした。
学校を1日サボった。
だけど、父さんと母さんから連絡はなかった。
「………そうだよな」
顔に泥を塗るかも、と思っていたが、もはやそんなこと気にしないくらい自分はどうでもよかったんだ。
—————
「ゆーりは…今日も学校来てないのか」
「うん…」
ゆうりは3日学校に来ていなかった。
皆勤賞常連のゆうりが、3日も休むだなんて。
ゆうりと、話したい。
心の底から、そんな風に思ったのは初めてかもしれない。
「ゆうり…」
「はーん…
あのかわいい少年にずいぶんご執心なんだな、竜胆陽翔は」
————
仙はそう呟き、ニヤリと笑った。
————-
ゆうりが学校に来なくなって、5日。
放課後。
陽翔が下駄箱を開けると一通の手紙が入っていた。
「古風」
「ラブレターか?」
「……!ゆうり?」
「えっ」
「『放課後、裏庭に来い、話がしたい』…?」
「なんだこれ?」
「さぁ…行ってくる」
「ま、待てって!
これ本当にゆうりなのか!?」
「それな」
「もし、偽物だったら」
「だから行くんだよ」
「え?」
「ゆうりを語る奴は許さない」
「来たな、竜胆陽翔」
「だよね」
やっぱりおじさんか。
と、陽翔はため息をついた。
「ゆうりのフリするなんて、どういうつもりだよ」
「まさか、ゆうりになんかしたのか!?」
「いや?でもあの子がなにしてるか知らないのか」
「?」
「どういう…」
その瞬間。
涼太は背後から、黒い服の男にナイフで刺された。
「!?涼太…!?」
涼太に駆け寄ろうとすると、黒い服の男に、陽翔は首元にスタンガンを当てられた。
「なん…だっ!?お前……」
「おじさん、これでもホスト何店舗も経営してんだよ。
金さえ払えばなんでもしてくれる奴の人脈なんてたくさんあるんだよ」
「あまり大人を舐めるなよ」
「ぐ…っ、涼太しっかり、しろ…!」
陽翔はデバイスを手に変身しようとするが、仙に手を踏みつけられ、黒服の男にまたスタンガンを当てられる。
「さぁ、いこうか。
竜胆陽翔」




