静かな復讐
「――動かないでください。」
そう、背後から声が聞こえ、僕の首に冷たいものが突き立てられた。
心臓の音がやけに大きい。
逃げなきゃ――刺されないうちに。
そう、思ったとき。
「え……?」
視界が揺れた。真っ白な天井が目に入る。
次に来たのは痛み。右脚の、ある場所から熱が、痛みが広がってゆく。痛みが、どんどん思考を支配していく――。
斬られるくらいなら、逃げる前に魔法を使うべきだった……。もう遅い、けど。
「逃がすわけないでしょう。」
襲撃者の声がした。淡々な声。その声の持ち主は、見覚えのある少女だった。
――ミレイユ?
そこにいたのは、セレスティアの側仕えだった少女。なんで、? もう、終わったことなのに……。
分かんないけど、とりあえず何とかしないと――。僕は小刻みに震えている手に魔力を込めた。
「…………っ!」
でも、そんな抵抗は遮られた。
手に、鋭い痛みが走る。痛い。わからない、なんで。せっかく幸せだったのに。どうして。奪わないで。
「なんで……。」
その瞬間、彼女の冷たい表情が変わった。軽蔑、失望――そんな目だ。
「ご自分のしたことが分からないのですか?」
自分のした事? ミレイユは、僕がセレスティアの記憶を無くしたことを憎んでいる? それで――。
「…………、かはっ……。」
息がうまく吸えない。
腹部に、遅れて痛みが広がる。
ああ、とぼんやり思う。
刺された。
服が、あたたかい。
鉄の味が喉に絡む。
視界が揺れる。
「……なん、で……」
問いかけたつもりだった。
けれど声にならない。
このまま、死ぬのか。
急に。
なにも分からないまま。
いやだ。
まだ――
でも、痛い。
お腹が、背中が、内蔵が、指先が、全部全部痛くて。
息が苦しくて。
「…………え?」
口の中に、何かが入ってくる。
冷たい液体みたいな。
――毒?
でも、血の味しか分からなくて、苦いのか甘いのかも分からない。
……このまま飲んだら楽になる? 苦しまなくて、済む?
頑張って、飲み込まないと。
「……っゔ、」
でも、無理だった。
身体が、勝手に吐き出す。楽になることすら、許してくれない。
「…………ぅぐ、」
また、彼女に強く顎を押さえられて。
自分で飲み込むことも、吐くことも許されない。
死にたい。苦しいのは、いやだ。早く飲み込んで楽に――。
しにたくない。もっと、もっと生きてたい。莉亜と、いっぱい話して、笑って。
…………あ。
――痛くない?
さっきまで、感じていたはずの痛覚がない。なんで。
……もう死んでる? 毒、効いたのかな。
――違う、感覚がある。
手を、動かそうとしても出来なかった。縄で、縛られている。無理だ、動かせない。
「毒だと思いましたか?回復薬ですよ――リアナ様が作った。」




