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自殺しようとする同級生を助けたら乙女ゲームの世界の王子になりました  作者: 夜月海歌


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新しい生活

「全部運び終わったかな?」

「うん、たぶん――。」


 言いかけたところで、廊下の奥から重たい箱を抱えた使用人が慌てて現れた。


「あ、まだあったみたい。」


 莉亜がくすっと笑う。


 木箱は思ったより大きく、両腕で抱えると視界が塞がるほどだ。どうやら王都から持ってきた書物らしい。


「それは書斎に入れといて。整理は自分達でやるから。」


 そう言うと、側仕えは頭を深く下げて去っていった。


 側仕えも引っ越しが終わったら王城に戻るんだよね。少し、不思議な気分。屋敷の中はまだ少し落ち着かない。荷があちこちに置かれ、床には布が敷かれたままだ。


「……本当に来たんだね。」


 莉亜が小さく呟いた。


 窓の外には森が広がっている。王都の塔も、石畳も、喧騒もない。


「後悔してる?」


 僕は莉亜に問いかけた。

 

「ううん。新しい生活、楽しみ!」


 即答だった。


「良かった。僕も楽しみ――。」


 新しい辺境伯の屋敷は王城と比べたら小さくて窮屈かもしれないけど。それでも二人では使い切れないほど広い。


「あ、これ私の荷物だ。」

「この瓶が入ってるやつ?」

「そう。ありがと。」


 瓶の中には乾燥させた植物がいくつか入っていた。ハーブとかかな。


「全部、王都で育ててたやつ?」

「うん。持ってこれる分だけね。」


 莉亜は箱を抱えたまま、窓辺へ歩いていった。光に透かすように瓶を持ち上げると、乾いた葉がかすかに揺れた。


「ここの土でも育つといいな。」

「確か気候、だいぶ違うんだよね。」

「だから試してみたいの。寒さに強い種類と、弱い種類、ちゃんと分けて――」


 話しながら、もう頭の中で段取りを組み立てているらしい。王都にいた頃より、どこか楽しそうだ。


 その横顔を見て、胸の奥が少しだけ軽くなる。


 王城では、いつも誰かの視線があった。評価、期待、噂。ここにはそれがない。


 それはどんなに幸せなことなんだろう。


「庭、見に行く?」


 僕が言うと、莉亜の目がぱっと明るくなる。


「行く!」


 廊下を抜けて裏庭に出ると、踏み固められた土と、まだ手の入っていない空き地が広がっていた。遠くに低い石垣、その向こうに森。


「ここ、全部使っていいのかな。」

「使っていいも何も優真くんの土地だよ?」

「あ、そっか。」

「……ここは日当たりいいからフェリュットかな。シュランメの方がいいかも。」


 真剣に地面を見つめながらぶつぶつ言っている。


 その様子があまりに自然で、思わず笑ってしまった。


「なに?」

「いや、研究者みたいだなって。」

「なにそれ。私は聖女ですー。」


 少し頬を膨らませたところも可愛い。


 冷たい風が吹き抜ける。王都よりずっと鋭い。思わず外套の襟を直すと、莉亜がこちらを見た。


「寒いね。」

「うん、風邪ひくかも。」


「じゃあ、早く温かいお茶作らなきゃ。」


 そう言って笑う。


 その言葉だけで、この場所が少しだけ“家”に近づいた気がした。


 

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