逃げないで
父と別れたあと、僕はルシアンのところへ向かった。会うのは久しぶりだ。ちゃんと……兄らしく接しないとね。
「……兄上。」
「…………ルシアン。」
久しぶりに見た彼は思っていたよりも成長していて、大人びていた。
「久しぶりですね、兄上。」
「ああ、元気にしてたか?」
「もちろんです。その、兄上も……。聞きました、父上から。」
「……そうか。」
それを聞いて、目の前の弟は何を思ったのだろう。僕に失望したかな。
「……本当に諦めるのですか?」
「うん、後悔はしてないよ。」
後悔するくらいなら最初から決断していない。……僕には、無理なんだよ。
「手放したら……生活が変わるんですよ。側仕えもいなくなるし、全部自分でしなきゃいけなくなる。そんなの……。」
「心配してくれてありがとう。でも、僕は大丈夫だよ。……僕は、器が足りてないんだよ。」
「器、ですか……?」
ルシアンは静かに問い返した。
「うん。」
僕は、一度深呼吸をした。
「国王になったら、それだけ責任も大きくなる。自分の決断に、国の指針がついてきて、全部自分の責任。間違ったら、国が、国民の生活が苦しくなったら? ……僕にはできない、ごめん、ルシアン。」
弟には、ルシアンには言いたくないって思ってたのに止まらない。
こんな弱い兄でごめんね。なんで僕なんかが兄でルシアンが弟なの。自分が嫌になる、きらい。
「……ルシアンは、国王になりたい?」
……最低だよ、僕は。
「……もちろんなりたいですよ。だって、そのためにいっぱい努力してきました。どんだけ苦しくても、国のため、って頑張ってきたじゃないですか。兄上も!! そうでしょう?」
「それは……。……それでも、僕は1回逃げた。」
「あれは逃げたのですか? 愛する人を守ろうとしたのでしょう? 都合の良いように変えないでください。――もし逃げたのだとしたら、僕は兄上を軽蔑しますよ。」
微かにルシアンの声が震えていた。でも、それ以上に弟はあまりにも真剣にこちらを見つめていて、僕は何も言えなかった。弟の言ってることは事実だ。目を背けちゃいけないことくらい、わかってる。
「……ごめん……。」
「……兄上が王にならないと言うなら、僕がなります。そのために僕も頑張ってきたのですから。」
ルシアンの顔に、さっきまでの冷たい表情は見えなかった。
「ルシアン……。」
「ですから、兄上はリアナ様を大事にしてくださいね。」
「ありがとう……。」
僕はどんなに恵まれているんだろう。こんな素敵な弟がいて、大好きな人がいて。幸せだよね。




