幸せな思い出《セレスティア》
「こちらこそ。聖女のあなたと婚約できてとても光栄です。」
あなたとの最初の出会いは形式的なものだったけれど。リアナ様から初めて私を守ってくれたこと。辛い時に私に寄り添ってくれたこと。私がリアナ様に傷つけられたと嘘をついた時も私の心配をしてくれたこと。――私を聖女ではなく“1人の少女”として見てくれたこと。
私はあなたに恋しました。あなたは私のことが嫌いかもしれないけど、私はあなたの優しさに心を奪われたんです。
……でも、あなたは最初からリアナ様を愛していたんですね。前世からだなんて、私には入る隙がないじゃないですか。叶うはずのない恋だったんですよね、きっと。でも、あなたとの思い出は忘れません。リアナ様ですら立ち入ることのできない大切なものですから。
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「――記憶の消去と貴族籍の剥奪だ。」
記憶の消去……?うそ、うそって言って。
「え……?冗談、ですよね……?」
冗談って言ってくれたら、否定してくれたらどれほど良かっただろう。そんな幻想はすぐに打ち砕かれた。
「そんな事しないよ――。でも、受け入れてくれる?」
出来るわけない、だって。私は、私は――。
「記憶の消去って……。全部、忘れてしまうということですか、?」
「うん、そうだよ。全部、貴族であったことも罪を犯したことも。忘れていいんだよ、きっと君ならやり直せる。」
忘れたくないです、記憶を忘れたら、私は――。
「……いや、です。忘れ、たくない……。このまましにたいです、わすれるまえに。」
「…………。」
「私は罪を忘れてはいけないんです。忘れる前に死ぬべきです。」
「違う。」
「違いませんっ!」
レオン様は何も理解していません……。私にとって、思い出は命よりも大切で、かけがいのないものなんですよ――。
「忘れたら……私が私じゃなくなるじゃないですか……!」
「セレスティア……。」
「忘れたくないですっ。だって私は――」
――レオン様のことが大好きだから。今でもあなたの事が大好きなんです。迷惑とわかってるけど、それでもあなたの事が大好きで。……でも、言えませんよね。そんなことを言ったらレオン様を困らせてしまいます。だから、心の中で想うことは許して頂けませんか?自分勝手なのは分かってます、でも忘れたくないんです。
「……レオン様はそれでいいんですか?」
私は卑怯です。あなたを責める言い方に逃げたんですから――。
「私が罪を忘れて幸せに生きて。それで良いのですか?あなたの愛した人を傷つけたんですよ、私は。私が幸せに生きて何も思わないんですか?たとえその人に記憶がないとしても、良くは思わないでしょう。」
「忘れても君は君だよ。でも、嫌いにはならないよ。嫌なのは君のことじゃなくて君がしたことだから。」
忘れたら私じゃないです。レオン様のことを忘れたら、私は何になるんですか?私は何を考えて生きればいいんですか?この罪を忘れてしまったら、リアナ様に失礼です。私は、彼女に酷いことをしたんですよ。レオン様が1番わかってるはずです。それなのに罪を忘れてなんて、あまりにも残酷じゃないですか……?
「…………そうですか。レオン様には分かりませんよね。」
「……ごめん。」
「レオン様は悪くないです。」
レオン様は幸せになってください。ご自分の悪いところなんて考えなくていいんです。あなたは、優しい人なんですから。
「ごめん、ごめん――。」
「レオン様――。」
「処罰を変えることは出来ないし、君を殺すことも出来ないよ。君が望まないことだって言うのは分かってる。でも、そうするしかないんだ。」
忘れたくない、殺して、殺して――。
「……いや、ですっ。」
「ごめん……。」
「……や、だ。おねがいします……。レオン様……?お願いします――。れおんさま、れおんさま――」
どうして階段を上がっていくの?私を殺してよ、忘れたくない、わすれたくない、わすれ、たくない――。




