交わらない思い
「え……?冗談、ですよね……?」
「そんな事しないよ――。でも、受け入れてくれる?」
彼女の気持ちが変わらなくても処罰が変わることは無い。でも、彼女に受け入れてほしい、そう思う。生きたい、幸せになりたい、そう願ってほしい。幸せを願う権利くらいは誰にでもあるはずなんだよ。
「記憶の消去って……。全部、忘れてしまうということですか、?」
「うん、そうだよ。全部、貴族であったことも罪を犯したことも。忘れていいんだよ、きっと君ならやり直せる。」
「……いや、です。忘れ、たくない……。このまましにたいです、わすれるまえに。」
「…………。」
死んだら幸せになれない、でもそんなことを言っても彼女の耳には届かない。どうしたら良いのだろう?幸せの為じゃなくて、贖罪のため。そんな理由を否定できるほどの言葉を僕は思いつかない。
「私は罪を忘れてはいけないんです。忘れる前に死ぬべきです。」
「違う。」
「違いませんっ!」
初めて、声を荒げた。彼女の瞳が揺れて、感情が一気に溢れ出す。
「忘れたら……私が私じゃなくなるじゃないですか……!」
「セレスティア……。」
「忘れたくないですっ。だって私は――」
そこで、彼女の声がすっと止まった。まるで何かに気づいたように。
「…………?」
「……レオン様はそれでいいんですか?私が罪を忘れて幸せに生きて。それで良いのですか?あなたの愛した人を傷つけたんですよ、私は。私が幸せに生きて何も思わないんですか?たとえその人に記憶がないとしても、良くは思わないでしょう。」
「忘れても君は君だよ。でも、嫌いにはならないよ。嫌なのは君のことじゃなくて君がしたことだから。」
「…………そうですか。レオン様には分かりませんよね。」
うん、分からない。記憶を失うより死にたいだなんて。全てを忘れて幸せになることよりこのまま苦しむことを選ぶだなんて。理解しようとしても出来なかったし、彼女を説得することすら出来なかった。
「……ごめん。」
「レオン様は悪くないです。」
「ごめん、ごめん――。」
「レオン様――。」
「処罰を変えることは出来ないし、君を殺すことも出来ないよ。君が望まないことだって言うのは分かってる。でも、そうするしかないんだ。」
嫌われてもいい。恨まれたっていい。それは彼女の思いを変えられなかった僕の責任だから。
「……いや、ですっ。」
「ごめん……。」
「……や、だ。おねがいします……。」
ごめん、セレスティア。そう思いながら、僕は地下牢を去ることしか出来なかった。
「レオン様……?お願いします――。れおんさま、れおんさま――」
彼女の悲痛な叫びは僕が地下牢に繋がる扉を閉めるまで、ずっとずっと空虚な世界に響いていた。




