殺したい相手
「死んだ後の苦しみがわかるの?知らないでしょ。何も知らないのに死にたいなんてやめてよ――。」
あ……。言い過ぎた、と気づいた時にはもう遅かった。僕は時々感情が抑えれなくなる時がある。嘘では無い、心の底から思ってること。でも、今の彼女には言うべきじゃなかったと思う。死にたいと願い人に、死は苦しいことなんだよなんて意味を成さない言葉だから。
「……レオン様。私、殺したい相手がいるんです。」
「…………僕のこと殺したいの?逆恨み?」
「…………。」
恨まれても当然だとは思う。僕にも、彼女の人生を壊した原因があるのはわかってる。……でも、今は殺されたくないな。ようやく手に入りそうな幸せが遠ざかっていくのはもうやだよ。
「……私が殺したいのは私です。」
「…………え?」
「……許せない、嫌い、大嫌いです、自分のことが。どうしてあんなことをしたんでしょう。私は私を許せないし、許したくありません。私、死んで逃げたいなんて思ってませんよ。死にたいとかじゃなくて、殺したい、殺してほしい、なんです。死は救済じゃない、贖罪です。楽なんていらない。死ぬ直前まで苦しんで、死んだ後も苦しみ続ければいい、こんな人間。おかしい……恐いですか、こんな考え。」
彼女の言葉は悲痛すぎて、何を返したらいいのか分からなかった。きっと、今何を言っても彼女の耳には聞こえないだろう。彼女の瞳には、諦めがある。生きることを諦めた人特有の。
「……普通、こんなこと考えませんよね。わかってます。レオン様は私を殺してくれますか?私を殺せますか?」
なんで笑っているのだろう、彼女の問いよりも先にそんな考えが頭に浮かんでしまった。だって、殺してほしいと願って笑ってる。可笑しい、可笑しいよ君は。
「……殺せないよ。……でも、僕も死にたいと思ったことはある。」
「…………。」
「死ぬのは苦しい、って言っても意味ないよね。ごめん、それはもう言わないよ。でもね、死んでも何も変わらない。過去が変わる訳じゃないし、誰も救われない。死に意味なんてないんだよ。」
前世で莉亜は死に意味を求めて死んだ。処刑されたいと――。あの時は妄想だと思ったけど、今なら莉亜は本気だったのだとわかる。……でも、やっぱり僕は死に意味があるなんて思えない。
「死んでも変わらないから、それなら生きた方がいいよ。死んだら何も出来なくなる。本当に何も――ずっと後悔しても何もすることができない。自分で可能性を摘むのはもったいない。そう思わない……?」
「……私は意味なんてなくていいと思います。生きている方がよっぽど辛い。……死ななかったら――生きていたら、どうやって生きていけばいいんですか。……私には無理です。きっと、レオン様が殺してくれなかったら自分で殺しますよ。」
「……君の処罰のことなんだけどね。」
彼女の顔がぴくっ、と動いた。……彼女の要望通りにはできないけど、1番いい方法を選んだつもりだ。僕は深呼吸してから告げた。
「――記憶の消去と貴族籍の剥奪だ。」




