溢れ出た感情
「……父上。」
王が去ろうとする気配を感じて、僕は呼び止めた。
言わなきゃいけないことが、まだ一つ残っている。
「……リアナは、どうなりますか。」
声が、少しだけ掠れた。それでも、取り繕わなかった。ここで平静を装う意味はない。王は、こちらを見なかった。一瞬、ほんの一瞬だけ足を止めて、それから低く息を吐く。
「……自分のよりも先に聞くのか。まぁ、いい。お前にリアナの処罰を伝えるつもりはない。話は終わりか?」
「……っ。」
教えてくれないんだ。大好きな人って知ってるはずなのに――。莉亜はどうなるの?あそこで殺さなかったから断罪されることはないはずだけど。……でも決して良い待遇では無いはずだよね。僕と同じかそれ以下か――。やめよ、考えたくない。
「……じゃあ僕の処罰を教えてください。」
「王位継承権の剥奪と子爵への降爵だ。」
「…………。」
意外と緩いね、もう少し覚悟してたんだけど。まだ完全には僕のことを捨てきれてないのかな。……まだ情が残ってるなら、交渉成功するかな。話し合いで説得出来れば良かったんだけど……。聞いてくれなさそうだもんね。
「……父上。対価を支払えば――リアナを解放することは可能ですか?」
緋色の目が、すっと細められた。王相手に意表を突くことができた――それだけで大きな成果だ。
「対価、か。お前に、何が出せるのだ?」
「僕が出せるもの全てです。」
出し惜しみするつもりなんてない。莉亜が自由になるなら、僕は何でも差し出す。もうそれしか方法は残ってないみたいだから。
「……お前の覚悟はわかった。――だが、その願いは叶えられぬ。1度許すと、国の秩序が乱れる。罪人は、自分自身で罪を償うべきだ。他人が肩代わりできるものではない。」
秩序って……。善人に濡れ衣着せて罪を償わせるなんて何が秩序だよ。どう考えてもおかしいじゃん、そんなの。
僕の心に、やるせない怒りが沸いてきた。
「……冤罪を償わせたらそれで秩序に繋がる?馬鹿みたい。事件についてちゃんと調べて、どっちの言い分にも耳を傾けてって、冤罪を無くした方が秩序を守るために大事でしょ。今のままだと、罪のない人が追い詰められるんだよ。そんなのあんまりでしょ。そうやって立場が弱い人を見捨てて仮初の秩序を作るの?それが正しいって言えるの?」
言葉遣いが荒くなっていたけど、そんなことはどうでもいい。話を聞いてくれたら――。
……でも、王は何も言わず帰ろうとした。返事もせず。ただ淡々と。
バン――!
気づいたら僕は魔力が暴走して魔術具を壊していた。それに、王の近くの床が衝撃を受けたみたいに変色している。ああ、抑えきれなかったみたい。父の護衛騎士たちが剣に手を当てたのがわかった。攻撃するつもりはないんだけどね。
「返事くらいしろよ!人の話は最後まで聞く。終わったら返事する。それが常識だろ!そのまま何も変えないつもりなわけ!?そんなことしたら、リアナみたいな被害者が増えるんだよ!?それで、本当にいいのかよ……。罪のない人が断罪される可能性だってある。そんなことしていい訳ない!もしそんなことになったら責任が取れるのかよ!?取れない、取れるわけがないんだよ。命は貴くて、他人が奪っていいものじゃ無いはずだよ……。」
「…………。」
父は僕の言葉に足を止めたけど、振り返ることはなかった。もう僕の話は聞いてくれないのかな。……どこで間違えたんだろうね。わかんなくなってくる。




