向き合わなければいけない相手
あの日、セレスティアは何も言うことなく去っていった。それから僕は、ずっと考え続けた。不安とか後悔とか自分の弱いところを塗り替えるみたいに。幸い、考える時間はいくらでもあった。
……でも、莉亜と幸せに暮らしたかった。前世の世界でも、この王国でも、帝国でも、どこでもいい。他愛のないことで笑ったり、本の感想を言い合ってみたり。そんな、彼女に何も心配させなくていい、平和な日常を過ごしたかった。莉亜の幸せそうな顔を、毎日眺めてたかった。
だめだよね、こんなこと考えたら。わかってる、わかってるはずなのに止まらない。涙がでてきた。なんでだろ、泣きたい訳じゃないのに。こんなことしてる暇ないよ、そう心の中では思っているのに。……こんなんだから莉亜を守れなかったんだよね。僕がもっと強かったら良かったんだよね。身体と、心もかな?僕が強かったら、莉亜のこと守って帝国までいけたんだよ。心が強ければ、こんなことになる前にセレスティアを止めれたかもしれない。僕が君を守んなきゃいけなかったのに……。何一つできなかったよ。
考え続けていると、時間の感覚が曖昧になっていった。朝なのか夜なのかも分からない。ただ、牢の中はずっと同じ色で、同じ温度で、同じ静けさだった。
……莉亜は、今も地下牢にいる。
それだけの事実が、頭の中で何度も何度も繰り返される。思い出すたびに胸の奥が少しずつ削れていくのに、やめられない。やめちゃいけない気がする。忘れたら、それこそ本当に最低だ。
手首の魔術具に視線を落とす。これがある限り、魔法は使えない。もし壊して使えたとしても。……僕は誰かを傷つけてしまうかもしれない。あの時は誰も死ななかったけど、誰かが僕のせいで死んでしまったら?そうしたら、僕はもう人じゃなくなるよ。人の姿をした心のない怪物かな?そうはなりたくないよ。誰も傷つけずに莉亜を助けることが1番。誰かを守るためでも、他の人を傷つけることは許さない。莉亜が殺されそうになったら僕はそれをしてしまうかもしれないけど。そうしたら、それ相応の覚悟はある。怪物になる覚悟も、罪を受け入れる覚悟も。
「……レオン。」
冷酷な、落ち着いた声がした。この王国で1番敵に回したらいけない相手。できることなら話さないで逃げちゃいたい。でも、今は向き合うしかない。
「……父上。」




