彼女を守るためなら
次の日の朝、僕は雨音で起きた。建物の外に響く雨音、ぼろい建物に雨漏りする音。幸い莉亜が寝ているところは雨漏りしていない。でも、ほかのとこは雨漏りひどいから直しておこうかな。
僕は魔法で屋根の修理を始めた。屋根に手をかざすと、手からふわっと光が出てたちまち屋根が綺麗になってゆく。綺麗だよね、魔法って。みんなを幸せにしてくれるし、役に立つ。そんなことを思いながら、僕は着々と修理を進めていった。
「……優真くん?」
「あ……莉亜。ごめん、起こしちゃった?」
「ううん、大丈夫。おはよう、優真くん。」
「おはよう、莉亜。」
「……雨、降っちゃったね。」
「うん……。今日は歩くの諦めてここにいよっか。」
「うん、わかった。」
昼ごろ、雨は相変わらず降っていたけど、朝よりずっと弱くなっていた。廃教会の中には焚き火の温もりと、昼の淡い明るさが広がっている。
「ねえ優真くん。帝国の街って、屋台多いのかな。」
「多いんじゃないかな。」
「じゃあさ、甘いのもあるかな?」
「あると思うよ。」
「……食べたい。」
莉亜がきらきらした目でこちらを見てくる。あぁ、幸せだな。
「何食べたいの?」
「……マカロン。」
「いいね、あったら絶対食べようね。」
「うん!他にもあるかな……?この世界にいると前世のものが恋しくなってくるんだよね。帝国は文化が違うからあったりして。シュークリームとかパフェとか……。」
……!
「……莉亜、静かにして。」
「……?」
――結界が解かれた。自然に結界がなくなるわけが無い。人為的だ。平民は魔力がないから解けない。――騎士団?
「……優真くん?」
「大丈夫、動かないで。」
「…………。」
僕の真剣な顔で、莉亜は気づいてくれたみたい。彼女はすぐに静かにじっとしてくれた。ありがとう、莉亜。僕は彼女に闇魔法をかけて、彼女の姿が見えないようにした。これでとりあえずは大丈夫。あとは騎士団が交渉に応じてくれればいいけど。 ごめんね、莉亜。もしかしたら、一緒に帝国行くのは無理かも――。
僕は剣を構えて騎士団の方に向かって歩き出した。
「……レオン殿下。」
騎士団長のトロイ・ヴァレンティーノが重々しく口を開いた。こちらに驚いているみたいだ。服が平民っぽいから?莉亜がこの場にいないから?思いつく理由はいっぱいあるけど、今はそんなこと考えている場合じゃない。
「リアナはここにいないよ?」
「……!!」
騎士たちが息を呑むのがわかった。もちろん、嘘だけどね。会話の主導権は握らないと。そのためなら、いくらでもかまをかけるよ。
「トロイさん、王命が出たんでしょ?」
「……なぜそれを?」
「教えるわけないじゃん。」
騎士団の後ろの方にエリオットがいるのが見えた。大丈夫、親友のことを裏切るつもりはない。
「僕のこと、拘束しないの?しようと思ったらいつでもできるよね。」
「…………。」
騎士団は僕の様子を伺っていた。その方が、僕にとってもありがたいんだけどね。
「トロイさん、僕と交渉しない?」
「……ものによるかと。」
「リアナの居場所教えるから、彼女を帝国まで送ってくれないかな?僕の命が代償だよ。もちろん、リアナが帝国に行くのを見届けてからだけどね。」
「……!……それは、できかねます。」
「どうして?悪い話じゃないと思うんだけど。」
「我々には、任務があります。王命に背くことは……できません。」
「そっか……。残念だね。」
本当に残念。罪のない人たちを傷つけるなんてしたくないし、もちろん傷つけられたくないよ。交渉が成立すれば平和に解決できたのにね。まあ、そう上手くいかないか。僕が果たすべきことは、莉亜を守ること。そのためには、僕が死んじゃだめだ。できるかな?騎士団相手になんて戦いたくないんだけど……。戦うといっても、相手を倒すことが目的じゃない。なるべく傷つけずに戦いたいよ。目的を履き違えないようにしないとね。
僕は深呼吸して、剣を持ち直した。




