森の外へ
森の外から、かすかな街道のざわめきが届き始めた。
もうすぐ森を出る。そう思うだけで、胸の奥がきゅっと強くなる。ここから先は、平民とすれ違うことになる。人の目がある以上、油断なんて一瞬もできない。
莉亜が僕の隣で足を止め、袖を見下ろした。
「……ねえ優真くん。この格好のままじゃ、絶対バレるよね。」
刺繍の入った薄紫のドレス。森を歩いたから汚れが酷いけど、それでもまるで光を吸い込むように綺麗で、どうしても人目を引いてしまう。僕は頷き、彼女の前に一歩出た。
「うん。まずは僕から変えるね。」
小さく息を吸って魔力を流すと、光が身体を包み、服は王族の華やかなものから質素な麻の衣服に変わった。自分で言うのも変だけど、どこにでもいる青年にしか見えない。この服に剣はだいぶ変だけど捨てる訳にはいかないよね。騎士団が持ってる剣は魔法に耐性があるから……。戦う時、出来れば防御魔法をずっと使っていたいけど、それは難しい。魔力も体力もいっぱい使うからだ。だから、この世界の戦闘は剣技が基本だ。例えこの格好に馴染まなくても、捨てることはできない。
「優真くん似合ってる。」
「そう……?良かった。」
「じゃあ、次は私の番だね。」
莉亜が指先を上げると、柔らかい光が彼女の身体を包んだ。ドレスはふわりと色を変え、森に溶け込むような落ち着いた緑の旅服に置き換わる。地味なはずなのに、どうしてこんなに綺麗に見えるんだろう。
「どう?」
くるりと回って僕に見せてくる。
「……すごく似合ってるよ。」
言葉が喉の奥で勝手に形になって莉亜は少し困ったように笑って、視線をそらした。でもその横顔に、ふとした不安がほんの影みたいに見えた。
言葉は要らなかった。僕はそっと手を伸ばし、莉亜の肩に触れた。
「……!」
莉亜が驚いたように僕を見た。目が合った瞬間、胸の奥にある決意が自然と口に出た。
「……この先、危険は増えると思う。でも大丈夫。僕がいる。絶対に、莉亜をひとりにしない。」
偉そうに言うつもりなんてなかった。ただ本当に、そうしたいし、そうすると決めているだけだ。莉亜はゆっくりと瞬きして、小さく微笑んだ。
「うん。優真くんのこと、信じてるよ。」
その言葉が、胸の奥に静かに落ちていった。守らなきゃ、じゃなくて――守りたい。何度目かわからないその感情が、こんなにもはっきりしている。もう二度と同じ過ちを繰り返したくない。そんな思いが根本にあるのかもしれない。
「……行こうか、莉亜。」
「うん。」
並んで歩き始める。森の出口が見えた。服は変わっても、彼女を守りたい気持ちは変わらないまま、僕たちは新しい世界へ足を踏み出した。




