表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/83

森の外へ

森の外から、かすかな街道のざわめきが届き始めた。

もうすぐ森を出る。そう思うだけで、胸の奥がきゅっと強くなる。ここから先は、平民とすれ違うことになる。人の目がある以上、油断なんて一瞬もできない。


莉亜が僕の隣で足を止め、袖を見下ろした。

 

「……ねえ優真くん。この格好のままじゃ、絶対バレるよね。」


刺繍の入った薄紫のドレス。森を歩いたから汚れが酷いけど、それでもまるで光を吸い込むように綺麗で、どうしても人目を引いてしまう。僕は頷き、彼女の前に一歩出た。


「うん。まずは僕から変えるね。」


小さく息を吸って魔力を流すと、光が身体を包み、服は王族の華やかなものから質素な麻の衣服に変わった。自分で言うのも変だけど、どこにでもいる青年にしか見えない。この服に剣はだいぶ変だけど捨てる訳にはいかないよね。騎士団が持ってる剣は魔法に耐性があるから……。戦う時、出来れば防御魔法をずっと使っていたいけど、それは難しい。魔力も体力もいっぱい使うからだ。だから、この世界の戦闘は剣技が基本だ。例えこの格好に馴染まなくても、捨てることはできない。


「優真くん似合ってる。」

「そう……?良かった。」

「じゃあ、次は私の番だね。」


莉亜が指先を上げると、柔らかい光が彼女の身体を包んだ。ドレスはふわりと色を変え、森に溶け込むような落ち着いた緑の旅服に置き換わる。地味なはずなのに、どうしてこんなに綺麗に見えるんだろう。


「どう?」

 

くるりと回って僕に見せてくる。


「……すごく似合ってるよ。」

 

言葉が喉の奥で勝手に形になって莉亜は少し困ったように笑って、視線をそらした。でもその横顔に、ふとした不安がほんの影みたいに見えた。


言葉は要らなかった。僕はそっと手を伸ばし、莉亜の肩に触れた。


「……!」


莉亜が驚いたように僕を見た。目が合った瞬間、胸の奥にある決意が自然と口に出た。


「……この先、危険は増えると思う。でも大丈夫。僕がいる。絶対に、莉亜をひとりにしない。」


偉そうに言うつもりなんてなかった。ただ本当に、そうしたいし、そうすると決めているだけだ。莉亜はゆっくりと瞬きして、小さく微笑んだ。

 

「うん。優真くんのこと、信じてるよ。」


その言葉が、胸の奥に静かに落ちていった。守らなきゃ、じゃなくて――守りたい。何度目かわからないその感情が、こんなにもはっきりしている。もう二度と同じ過ちを繰り返したくない。そんな思いが根本にあるのかもしれない。


「……行こうか、莉亜。」

「うん。」


並んで歩き始める。森の出口が見えた。服は変わっても、彼女を守りたい気持ちは変わらないまま、僕たちは新しい世界へ足を踏み出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ