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苦しいほどの想い


 どれくらい抱きしめていただろう。莉亜の体温がじんわりと伝わってくる。彼女は細くて、壊れてしまいそうで、それでもどこか芯があって――離したくなかった。


「……莉亜?」


 胸元が妙に熱い。服が少し湿っていることに気づいてた。静かに、ぽろぽろと。声も上げず、ただ頬を伝って落ちていく涙。僕はそっと、抱きしめ続けた。


「……!……っ。」


 嗚咽が止まらないほどになく彼女を落ち着かせるように僕は優しく話しかけた。


「莉亜。僕はね、この世界に来てから辛いこと何度もあった。何を行動しても立場がついてきて、ずっと気を使ってなきゃいけなくて、寝る時でさえ誰かに見られる。ずっと息が詰まってたんだよ。でも、君が僕を救ってくれた。僕には君が必要なんだよ。だから、お願いだから僕のそばにいて。」

「……!でもっ……。」

「……?どうしたの?」

「私、また優真くんを困らせちゃう。……泣いちゃいけないのに……。」

「泣いていいんだよ。もっと僕に甘えてよ。」

「私、優真くんのこと巻き込みたくないのに……いつも助けられてばっかりで……弱いとこ、また見せて……。自分でも……もうどうしたらいいか分かんないの……!」


 搾り出される声は震えて、子どもみたいに乱れていた。そのせいで、涙の奥にある苦しさまで、手に取るように伝わってきた。


「ごめんね……っ。ほんとは強くなりたいのに……優真くんに頼らないで生きたいのに……。でも、怖くて……っ。ひとりになるの、すごく……すごく怖いの……!」


 その言葉が胸に刺さった瞬間──

 僕の中で、何かが決定的に変わった。


 迷惑なんかじゃない。重荷だなんて思ったこと、一度だってない。むしろ、僕がそばにいる理由を、全部莉亜がくれてる。けどそれを言葉にする前に、莉亜がさらに顔を上げた。


「優真くんを好きで……一緒にいたくて……でも、また迷惑かけるんじゃないかって思うと……怖くて……っ。どうしたらいいか分かんないの……!」


 涙で濡れた瞳が、まっすぐ僕を刺した。

 その瞬間、胸の奥が熱くなって、喉がひりついた。


 ——そんな顔、させたくない。


 僕はそっと莉亜の頬を両手で包み込んだ。


「……莉亜。」


 呼んだだけで声が震えた。こんなに苦しんでたなんて、僕は気づけなかった。


「僕は……迷惑だなんて思ったこと、一回もないよ。むしろ……頼ってほしい。何度でも。何回だって」


 言葉がこぼれ落ちるように続く。


「巻き込まれたんじゃない。僕が……莉亜のそばにいたいと思ってここにいるんだ。だから、ひとりで抱えようとしなくていい」


 莉亜の瞳が大きく揺れた。


 その揺れが、痛いほど愛しく見えてしまう。


「弱くなんかないよ。泣いてるのも……頼ってくれるのも……全部、僕が守りたいって思わせてくれる。僕は……莉亜と一緒にいたい」


 言葉にした瞬間、胸の奥の固く閉じていた何かがほどけていく。


 莉亜は唇を噛んで、涙をぬぐいもしないまま僕を見つめた。


「……ほんとに? 私、また……優真くんを困らせるかもしれないよ……?」


「困らないよ。むしろ……困らせてほしいくらい。」


 泣き笑いみたいな表情で、莉亜が「何それ……。」と呟いた。


 その笑いが、涙よりも胸を締めつけた。


 僕はそっと莉亜を抱き寄せた。

 肩に額が触れ、彼女の震えが腕に伝わってくる。


「莉亜……お願いだから、ひとりで泣かないで。僕がいるよ。」


 抱きしめた腕の中で、彼女はまた涙をこぼした。でもその涙は、もうさっきまでの孤独の涙じゃない。僕の胸の中に落ちてくる温かい雫だった。

 

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