彼女についた小さな嘘
夜になると、森は一気に静けさを取り戻した。焚き火がぱちぱちと音を立てるだけで、他には何も聞こえない。森の奥まで来たせいか、騎士たちの気配もない。でも、いつ来るかは分からない。
僕は小屋の外に立ち、周囲に魔力を巡らせながら警戒する。何かが動けばすぐ分かるように、感覚を研ぎ澄ませていた。
なのに、心だけは落ち着かない。
ひとつ息を吐き、軋む扉を開けて小屋に入ると、リアナは起きていた。焚き火の明かりが、彼女の横顔を柔らかく照らしている。
「寝られない?」
「……少し、考え事をしていて。あの……私のせいで、レオン様まで。」
その言葉に、僕は思わず眉をひそめた。
「違う。もうそんなこと言わないでよ。僕が助けたかったからやったんだよ。」
リアナがまぶしそうに目を伏せる。
「でも、レオン様まで罪に――。」
「大丈夫。リアナが気にする必要はないよ。明日から、ネイベン帝国に行かない?そこまで行ったら、もう追って来れないと思う。」
ネイベン帝国――この王国の東にある帝国である。王都から国境門が近くて行きやすい。それに、帝国と王国の関係は良いとは言えない。外交はほとんど途絶えていて、国境門を通るのは旅商人や平民だけ。
「……ネイベン帝国?この国から離れるのですか?」
「うん。嫌かな?」
「いえ、そんなことはありません。でも……。レオン様はそのお立場を捨てることになるでしょう?」
「そんなのいいよ。僕はリアナと安全に暮らしたい。それで十分。」
「……。」
リアナは少し納得していないようだったけど、それが僕の本心だった。1番大事なのはリアナだよ。君が幸せに暮らしてくれるんなら、それ以上は望まない。それに、立場なんてあっても足枷になるだけだ。
「リアナ、帝国に行くには、平民になりすまさなきゃだめだよね。だから、もう敬語はやめてよ。あと、優真って呼んで、莉亜。」
「……!……優真くん、?」
「うん、その方がいいよ。」
照れながら言う彼女はものすごく美しくて、永遠にその時間が続けばいいな、と願ってしまう。
「そろそろ寝よっか。」
「うん。優真くんも寝るの?」
「莉亜が寝たら寝るよ。」
彼女に嘘をついてしまった。まだここも安全とは言えない。騎士団が森を捜索しているかもしれないからだ。だから、しばらくは寝れないかも。でも、君は心配しなくていいよ。僕は君の心配した顔より笑顔がみたい。
莉亜が寝たのを確認して、僕は剣を持って外に向かって歩き出した。




