小さな安息
どれだけ飛んだのか、どれだけ必死だったのか、途中からはよく覚えていない。ただ――腕の中のリアナの体温だけを確かめながら、僕は森の奥へとひたすら飛び続けた。
木々が濃くなり、地面が落ち着いている場所を見つけたところで、ようやく着地する。リアナの身体が揺れないように慎重に抱き直し、小さな息をついた。
「……ここなら、少しは安全だ。」
返事はない。リアナはまだ処刑台から脱した直後で、顔色が悪く、息も浅い。無理していた疲れが一気に出たんだと思う。あんな状況から急に飛ばされて、身体も心も限界だ。
「すぐ、小屋を探す。君は少し休んでいて。」
そう声をかけると、リアナはかすかに頷いて木にもたれた。
森を歩き回って、ようやく見つけた。古びた木の小屋――人が住んでいた形跡はあるが、もう何年も放置されている。扉も歪んでいるし、床も軋む。いそれでも雨風はしのげる。
「……少し我慢して。」
リアナを抱えて運び込み、床に座らせると、彼女は弱々しく笑った。
「レオン様……。ありがとうございます。」
「うん。とりあえず休んでて。」
そう言いながら、僕は外へまた出て、食べられそうなものを探しに行く。狩りの経験なんて大してないけれど、魔法を使えばどうにでもなる。火を起こし、簡単なスープを作ると、小屋の中に温かい匂いが満ちた。
「……少しだけ、食べられる?」
リアナのそばに座り、器を差し出すと、彼女はゆっくりとそれを受け取った。
「……おいしいです。」
「良かった。」
そう言いながら、僕は胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じていた。
彼女は何も悪くないのに。ただ巻き込まれただけなのに。どうしてこんな目に遭わなければならないのか。その問いはもう何度も頭の中を巡っている。そして同時に、昨日の自分への怒りが湧き上がる。僕が不甲斐ないせいで。そのせいで、彼女が処刑台であんなふうに気丈に振る舞わなければいけなくなった。あんな表情はもう見たくない。させないようにしなければならない。
「レオン様……?」
「……なんでもない。」
気づけばリアナが僕を見ていた。その瞳で心が痛む。心配してくれているのが伝わるから。僕の方が、守られるべきじゃない。僕は守らなきゃいけないんだよ。こんな弱い僕でごめんね。
「今日はここで休もう。危険がないかは僕が確かめるから、安心して眠って。」
「……ありがとうございます。」
リアナは横になり、しばらくして呼吸が穏やかになる。寝てくれてよかった。昨日も十分に寝れなかっただろうし、疲れもたまってるだろう。
僕は焚き火のそばで腕を組み、彼女を守るような位置に座る。森の風が葉を揺らす音が心地よく聞こえるはずなのに、まだ胸はざわついたままだ。




