表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/84

恐ろしい笑顔《ミレイユ》


 私がセレスティア様の部屋の掃除をしている時、その方はやって来ました。


「ミレイユ、話がある。」


 そこに居たのはレオン殿下――セレスティア様の婚約者でした。あのことを聞かれるかも――。と思い、私は咄嗟に逃げようとしました。


「レオン殿下っ……!すみません、仕事があってっ……!」

「ミレイユ。聞きたいことは一つだけだ。少しでいいから時間を貰えないかな?」


 レオン殿下の声は怒りを感じさせる低い声で、微笑んでいて口調も優しいのに、何故か私の心臓が締め付けられそうでした。殿下は、優しく微笑んでいます。ですが、その中に静かな怒りがあるのを感じます。

 殿下が歩き出したと思うと、ドアの前を塞ぎました。ドアを塞がれれば、私は逃げようがありません。


「――セレスティアが飲んだ毒の出処を知っているか?」

「し、知りませんっ。毒を盛ったのはリアナ様では……?」


 やっぱりこのことでした。毒の出処なんて知りません。でも、毒を盛ったのは――セレスティア様です。私は見てしまったのです――セレスティア様がリアナ様のお部屋に毒の瓶を置くところを。


「嘘はつかなくていいよ。知っているだろう?」

「わ、私は何もっ……。」


 言えません、言ったらセレスティア様に――。


 セレスティア様は、優しいお方です。側仕えの私にも優しく微笑んでくれて、いつも私のことを気にかけてくれるのです。そんなお方ですが、この前だけは様子が違いました。あの日のことを思い出すだけで、体が震えます。


 ────────────────────


 セレスティア様がリアナ様のお部屋に瓶を置いた瞬間――私は見てはいけないものを見たのだと悟りました。足がすくんで動けず、気づかれませんようにと祈ったのに。


「……ミレイユ?」


 その細い声に背筋が凍りました。ゆっくりと振り返ると、セレスティア様がこちらを見ていました。いつもと同じ整った微笑み……のはずなのに、目が笑っていませんでした。


「い、今のは、その……私、何も……!」


 言い訳を言おうとした瞬間、セレスティア様の指先に青白い光が宿りました。


「“何も”……ね?」


 次の瞬間、光が弾け、私は視界が揺れたと思ったら床に倒れ込んでいました。


「――っ! ひっ……!」


 胸が焼けるように痛く、呼吸がうまくできません。セレスティア様はゆっくりと近づき、倒れた私を見下ろしました。その笑顔は穏やかなのに、ぞっとするほど冷たいものでした。


「ねぇ、ミレイユ。見たの?」

「み、見てません……っ、本当に……!」

「嘘がばればれよ。私はあなたのご主人様よ?あなたの嘘なんてすぐ分かるわ。」


 そう言うと、セレスティア様はまた指を動かし、小さな衝撃が胸に走りました。痛みが走り、私は声にならない悲鳴をあげました。


 逃げたい、でも足が動かない。セレスティア様が怒ったのは初めてでした。いつもは優しいのに――。


「言わなくていいわ。あなたが黙っていてくれるなら、それでいいの。」


 セレスティア様はしゃがみ込み、私の顔の近くに手を伸ばしました。その手がふわりと光り、今度はあたたかい魔力が流れ込んできます。


「……治癒、魔法……?」

「ええ。あなたに傷が残ったら困るじゃない。」


 優しげな声なのに、背筋が凍りました。傷をつけ、そして優しく治してくる。その手つきは、まるで私が物のようでした。


「忘れなさいね、ミレイユ。見たことも、聞いたことも。」

「……は、はい……絶対に……言いません……。」


 その時の私は、涙で視界が滲んでいました。ただ頷くしかできませんでした。


 ────────────────────

 その後のセレスティア様は、あの日のことを話すことはなく、いつも通り優しくて、私はその事が恐怖で仕方ありません。

 

「セレスティアに口止めされているのか?」

「し、知りませんっ……。」

「言いたくなかったら無理に言わなくていい。でも、今この瞬間もリアナは地下牢に一人でいるんだ。寒さと恐怖の中で、ひとりで戦っている。それでも君はセレスティアに従い続けるか?」

「や、やめてください……。」


 リアナ様のことは、気の毒だと思います。でも、私は我が身かわいさにいう事ができないのです。レオン殿下は、怖いです。笑顔でこちらを詰めてくる。でも、こちらに危害を加えることは無いと思うのです。ただの想像ですが……。だから、セレスティア様に逆らうことなんてできません。いつもは、優しいのです、すごく。でも、未だにあの時のことを思い出して泣きそうになります。


「……わかった、もういい。怖い思いをさせてすまなかった。知ってるのに隠したんなら――許さないからね。」


そんなこと言われても無理です。私はどうすれば良かったんですか?セレスティア様に逆らうと痛いです。できることなら反抗なんてしたくない。それでもレオン殿下は私に真実を言えと?できません、そんなの。レオン殿下は、――セレスティア様に似ています。笑顔でこちらに責めてくる。セレスティア様の犯行を見なければ、私はこんな思いをせずに済んだのでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ