あなたが大好きだから《リアナ》
私には、今目の前で起こっていることが理解できなかった。
セレスティアが倒れた。そして――。周りは私のことを疑いはじめた。軽蔑するような鋭い視線、わざと聞こえるように大きく話す耳障りな声。この世界に来てから何度も経験したけど、全然慣れなくて泣き出しそうになる。
「静粛に。リアナさん、話を聞いてもよろしいですか?」
学園長の声が大広間に響いた。辺りは一瞬で静まりかえった。
「私じゃないです……。私は何も――。」
反論しようとしたけど、私にはそれを言うのが精いっぱいだった。してない、って言いたいけど証拠なんてどこにもない。やってないことを証明するなんて無理。私の味方なんて誰もいない。この部屋には人が大勢いるというのに、私はひとりぼっち。私にはただ否定することしかできない。……でも、昔はそれすらできなかった。レオン様――優真くんが、私に我慢しない方法を教えてくれたから。できるようになったよ、優真くん。
「やったのはリアナじゃない!違います!何もしてません!――リアナがやったなんて証拠はありません。彼女は無実です。」
気づけば、優真くんが目の前に立っていた。優真くんは――私をいつも助けてくれる。私の事なんか放っておけばいいのに、それでも手を差し伸べてくれる。そんなことされたら、好きにならないわけがない。自分から悪役令嬢になって孤独を選んで、処刑されることを待っていたあの時、優真くんは私を見捨てなかった。私が死ぬのに巻き込まれて、私の事なんて大嫌いになってもいいはずなのに、彼はそんなことしなかった。婚約者がいる彼にこれ以上好きにならないように、って私は彼から離れたのに、それでも私を救おうとしてくれる。そんな彼のお節介なところが私を変えてくれた。優真くんは私の恩人だよ。助けられなかった、なんて言わないで。私はあなたに助けられた。あなたのそばにいたいと思ってしまった。私にはそんな資格はないのに――。
「……レオン様。」
優真くん、なんて言えない。言ったらもう戻れなくなる。壁を作らないと。優真くんは、まっすぐに私を見ていた。誰の声にも惑わされず、誰の視線にも怯まず、ただ私だけを。その姿が胸に刺さって、息が苦しくなる。どうしてそこまでしてくれるの?どうしてそんなふうに私を信じてくれるの?私は、あなたの人生を壊したのに。セレスティアのことだって傷つけたのに。
「リアナさん、来てもらいます。」
学園長が私に手を差し出した。手を取らないと、犯人だと思われる。それならもう、潔く手を出した方がいい。私はセレスティアに毒なんて盛ってない。でも、彼女のことを傷つけたのよ?そのせいでセレスティアは苦しんだ。私は、罰を受けるべき。もう悪役令嬢になって処刑されたいなんて思わないけど、ただ罪を償いたい。そう思って手を出すと、がしっと力強く、でも優しく手を掴まれた。
「リアナは何もしてない。証拠がないのに連れていくな。」
……やめて。やめてよ。私のために怒らないで。悪いのは私だから。もう優真くんを巻き込みたくない。優真くんが優しくするから、私はあなたに依存してしまう。それじゃだめなのに。
「レオン様。現状、1番怪しいのはリアナさんです。手を離してください。」
「違うって言ってるだろ!リアナじゃない。だから連れていったらだめだ。」
私じゃないけど、私は償わなきゃいけないの。罪の種類なんて関係ないよ。
「レオン様。あなたはリアナさんよりセレスティアさんの心配をしなさい。あなたが最初にしなければならないことはセレスティアさんの側にいることです。これは、教師からの命令ですよ。」
そう。セレスティアのそばにいてあげて。そうして欲しいけど、セレスティアのそばにいる優真くんを想像すると心が痛むのはどうして?心の奥底で期待してしまう。――優真くんはきっと助けてくれる。もう期待しちゃいけないのに。彼を巻き込みたくないのに。
「ごめんなさい、レオン様……。」
大丈夫。彼から離れればいいだけ。辛くてもしなきゃいけないのよ。




