悲劇の聖女
パーティーも終盤に差し掛かり、談笑する人も少なくなっていった。僕とセレスティアは来賓への挨拶を終え、卓に戻って食事を楽しんでいた。
……!?突然、セレスティアがグラスを持って倒れた。大理石の床に落ちて、粉々になるガラス、鈍い音を出して倒れるセレスティア。どよめきが広がった。
「セレスティア!?」
返事は無い。手を触れても、体温がどんどん下がっているのがわかる。呼吸もさっきは荒かったのに今はしてない。
「誰か!医者を呼べ!」
叫ぶと、すぐに白衣を着た医者がやってきた。
すぐにセレスティアを触診する。
「……意識がありません。これは、……毒かもしれません。」
辺りが騒然となった。王子の婚約者が毒を盛られた――そうなるよな。でも、誰が?想像がつかない。
だが、周りは違った。だんだん視線が1人の女性に集まっていく。――リアナだ。彼女は、青ざめた顔で瞳が震えている。彼女はやってない。混乱してるだけ、そう僕にはわかった。でも、周りは動揺していると勘違いしている。
「とうとう毒を盛ったのね……。」
「晴れの舞台でやるなんて。」
根拠のない噂が膨れ上がり、教師や他の大人たちまで彼女に疑惑の目を向ける。
そして、とうとう学園長が声をあげた。
「静粛に。リアナさん、話を聞いてもよろしいですか?」
学園長が、淡々と、冷静とした声で彼女に問いかける。それは、異様に重く感じた。
「私じゃないです……。私は何も――。」
リアナは、必死に反論しようとするけど、何も言えてなかった。それが怯えているからなのに周りは犯人とばれて言い訳していると解釈してしまう。周りの目がどんどん彼女に対する軽蔑の色に変わっていくなか、気づけば僕は彼女の前に立っていた。
「やったのはリアナじゃない!違います!何もしてません!」
周りの目が痛いほど突き刺さる。でも、――そんなことを気にする余裕はなかった。
「リアナがやったなんて証拠はありません。彼女は無実です。」
「……動機が1番あるのはリアナ様では?」
「レオン殿下、お気持ちは分かりますが……。」
どの言葉も、何も頭に入ってこない。どうして誰もリアナを信じてくれないんだろう?彼女が毒なんか使えるわけないじゃないか。あんな繊細で脆い心の持ち主なのに。
「レオン様は、リアナ様に肩入れしすぎです。」
「セレスティア様が倒れたというのに、まだリアナ様のことを庇うの?」
「リアナ様はまだ反省しないのかしら。」
噂話が聞こえてくる。ひそひそと、蔑むような目でこちらを見ながら。
「レオン様……。」
リアナが小さい声で呟いた。その声は、今にも泣きそうで悲痛だった。その瞳と声だけで胸が締め付けられそうになる。
「リアナさん、来てもらいます。」
学園長は手を差し伸べた。リアナは震えながらも手を取ろうとする。僕は思わず彼女の手を掴んだ。
「リアナは何もしてない。証拠がないのに連れていくな。」
「レオン様。現状、1番怪しいのはリアナさんです。手を離してください。」
「違うって言ってるだろ!リアナじゃない。だから連れていったらだめだ。」
「レオン様。あなたはリアナさんよりセレスティアさんの心配をしなさい。あなたが最初にしなければならないことはセレスティアさんの側にいることです。これは、教師からの命令ですよ。」
彼女の手を離すと、騎士たちが壁のように立ちはだかった。
「ごめんなさい、レオン様……。」
連れ去られるリアナの声は、消えてしまいそうに震えていた。僕はもう、何をする気にもなれなかった。
気づけばパーティーは終わっていた。セレスティアが運ばれて、お開きになって……。記憶がおぼろげで夢の中みたいだ。
リアナ。僕は今も、君がやっていないって信じてる――。




