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庇いきれなかった心

ルシアンと別れてから、学園の中庭を散歩していた。王族の立場――。わかる。言ってることはわかるのだ。ルシアンから見たら、僕はそういう風に行動してるって見られるのは当然だと思う。――でも、リアナは悪くないんだ。僕が守らなかったら誰が守る?誰かが庇ってくれるのか?たとえ周りが変わらなくても僕が諦めたらリアナは独りになってしまう。それだけは、それだけは絶対に嫌。彼女の心は繊細なのだから。



 夜の学園は静まりかえっている。そこに、ぼんやりとした明かりがあった。


「……リアナ。」

「レオン様?」


 リアナの顔は涙で濡れていた。それに――。


「リアナ?泣いていたのか……?それに、その手の傷はなんだ?」

「気のせいです。泣いてなんかいません。ね?」


 彼女はいつも強がる。今も涙をふいて何事も無かったかのようにする。


「リアナ。その傷は?セレスティアか?」

「違います。……彼女では、ないです。」

「……?誰だ?」

「それは……。言ったら怒るでしょう?」

「ああ。君を傷つけたんなら誰であろうと許さないよ。」



 リアナを傷つけたら。そんなの、許すわけないじゃないか。婚約者――セレスティアのことだって許していないのだから。


「レオン様、このくらいの傷、治せるので大丈夫です。いつも治してるので。」

「……いつも?いつも傷つけられているのか?」

「……違います、そういうわけじゃ……。」

「リアナ。……隠さないで教えてくれないか?」

「………………りすかです。」

「りすか?そんな人いたか?」

「リストカット。わかるでしょう?」


 その言葉を聞いた瞬間、時間が止まった気がした。

 夜風が頬を撫でても、何も感じない。僕の中で、何かが崩れ落ちた。僕は理性を捨てて彼女を抱きしめていた。


「……レオン様。大丈夫です、自分でやったことですから。」

「違う、違うよ。ごめん、守るって言ったのに全然守れてなかった。ごめん、君のこと守れてなかった。もっと寄り添うべきだったよね。ごめん……。」


 自分の目から涙が止まらなかった。莉亜のことを守るって決めたのに。何も守れてなかった。


「レオン様、あなたは悪くありません。それに……。婚約者がいる方は他の女性に抱きつくべきではないと思いますよ?」

「わかってる。でも、大切なんだ、君のことが。」

「……!!私が、大切?」

「もちろん。」

「……。私なんかでいいのですか?」

「なんか、じゃない。僕にとっては君がいちばん大切なんだ。リアナが喜んでたら嬉しいし、悲しそうだったら僕も悲しくなる。だから、僕は君が大切なんだよ。」

「……私が大切。……レオン様、私もレオン様が大切な人です。」

「莉亜、君のことが好きだ。」

「……れおんさま?……私は、私もレオン様のことが好きです。」


 僕はもう、自分の気持ちに嘘をつけなくなっていた。莉亜の、自分よりも相手のことを考えているとこ。相手を傷つけるぐらいなら、自分が我慢することを選んでしまうとこ。本当は嘘が下手で、すぐわかってしまうとこ。全部、全部大好きだ。

 セレスティアが婚約者。わかってる。……でも、彼女のことを好きにはなれなかった。婚約者がいるのに、他の人をすきになってしまった――最低だよね。ルシアンの言う通り。正しいのは、自分の気持ちを押し殺して、リアナと関わらずにセレスティアの側にいてあげることだよね。王族としてそうしなきゃいけないのはわかってる。でも、それ以上に莉亜のことが好き。もう、戻れないよ。彼女が一人で抱え込むのを助けるだけだから許して。リアナを抱きしめたまま、そう思っていた。

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