深まる噂
あの日から、僕は全力でリアナを止めようとしていた。
「あの悪女、また聖女様を傷つけたそうよ。」
「聖女様はあの方を擁護したのに……。」
「恩を仇で返すなんて、最低ね。」
「ちょっといいか。リアナはそんなことしてない。噂をこれ以上広めるのはやめてくれないか?」
「……え、ええ。」
「ごめんなさい、少し用事が……。」
噂をしていた者たちは、その場ではやめてくれるが時間が経つと元通りになっている。いたちごっこだった。誰も信じてくれない。セレスティアの信仰が深くなっている証拠だった。しかも、僕が噂を止めだしたことで、噂はますます広まっていく。
「悪女が王子様をたぶらかしたのは本当だったわ。」
「私も、王子様に噂を止められたのよ。」
「聖女様ほど素晴らしい方はいないのに……。」
王子様が悪女を庇った――悪女が王子様をたぶらかしていたと誤解が広まってゆく。本当は違うのに。リアナは悪女なんかじゃない。言ったところで信じれてくれる人は誰もいなかった。みんなにとっては僕は、悪女に洗脳された可哀想な王子様だから。
「レオン様、昨日の夜リアナ様に手を攻撃されてしまいましたわ。」
「そうか。痛みはないか?」
「ええ……。レオン様、どうしたらリアナ様に嫌われないようになれるんでしょう?」
横にいる婚約者――セレスティアが悲しそうに嘘を吐く。攻撃されたというところも自作自演だろう。リアナが今までセレスティアを傷つけていたのはわかる。たぶん、辛かったと思う。毎日毎日、嫌味を言われ続けて。それを謝るから許してなんて都合のいい話受け入れられないのも分かる。セレスティアの気持ちも分からないわけではないのだ。――でも。それでも。悪意を持って噂を広めたり聖具を壊してリアナに責任をなすりつけたり。そういうのは、してはいけないと思ってしまうのだ。たとえ今までのことが辛かったとしても、それ以上に相手を苦しめるのは、おかしい。心が歪んでいる。自分がされて苦しかったはずなのに、どうしてそれ以上にひどいことをするんだろう?そんなことをしたって、いいことはひとつも無い。自傷までして相手を貶めるなんて正気の沙汰じゃない。
もうすぐ春だ。あと半年経てば、学園は卒業する。そこまでの辛抱。でも――。卒業したら、セレスティアと結婚するんだろうか。セレスティアは、性格が悪い訳では無い。美しくて、教養もあって、聖女で、“完璧な女性”。噂を広めてるのだって、リアナのしたことで心が傷ついてやってしまったことなのだろうと思う。仕方の無いこと。リアナを傷つけるのは許せないけど、それでもセレスティアの行為を止める術はなかったと思う。――でも、セレスティアと結婚するのが怖い。そう思ってしまう。彼女は完璧。でも、何をするのか分からない。それが怖かった。王子として、婚約者にそんなことを思うなんて失格だと思う。でも、そう思わずにはいられなかった。




