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それぞれの想い

朝日がギルドの窓から差し込み、昨日の戦闘の余韻を残したまま、仲間たちはそれぞれの思いを抱えていた。


 テーブルに集まったアレン、ユージン、ルーシー、そしてリリア。フィーネはリリアの肩にちょこんと座っていたが、いつものようにふわふわと漂うこともなく、静かに様子を見守っている。


 しばしの沈黙の後、アレンがぽつりと呟いた。


「……昨日の戦闘、俺たち、全然ダメだったな」


 仲間たちはそれぞれ思い返す。獣相手なら余裕だと思っていた。だが、予想外の魔獣の襲撃に、全員が手も足も出ず、一瞬で窮地に立たされた。


「……俺の攻撃がもっと強かったら、あんなに手こずらずに済んだのに」


 アレンは拳を握りしめる。確かに自分の魔法はしっかりと魔獣にダメージを与えていた。しかし、それでも 一撃で仕留めることはできなかった。


「俺の防御がもっと頑丈だったら……」


 ユージンは苦い顔をする。彼が張った バリアが崩れた瞬間、仲間は一斉に消耗し、全員が危機に陥った。あの時、もしもう少し持ちこたえられていたら、アレンやルーシーが安全に立ち回る時間を確保できたかもしれない。


「私の回復が間に合わなかったら……もっと大きなケガになってたかもしれない……」


 ルーシーは落ち着いた声で言ったが、悔しそうに唇を噛んでいた。彼女の回復魔法がなかったら、間違いなく誰かが重傷を負っていた。回復魔法の発動速度をもっと上げられれば――そう思うと、居ても立ってもいられない気持ちになった。


 誰もが「もっと強くならなければ」と痛感していた。


 そんな仲間たちを前に、リリアは 申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 自分は何もできなかった。ただ、仲間たちが戦う姿を見ているだけで―― 最後は思わず魔力を解放してしまった。


 仲間たちの思いが口をつく。


「次は、もっと強くなって……」

「リリアを危険な目に遭わせない!」


 ユージン、アレン、ルーシーが それぞれの決意を口にする。


 リリアは驚いたように彼らを見つめた。


「……なんで、そんなに私を気にするの?」


 するとユージンが当たり前のように答える。


「リリアは、俺たちの仲間だからな」


 ルーシーがにっこりと笑う。


「何言ってるの? それにリリアって、放っておいたらまたすぐ危なっかしいことしちゃいそうだし!」


 アレンも少し照れたように 「当然だろ」 と呟く。


 リリアの胸が じんわりと温かくなる。

 今までずっと魔力を隠し続け、戦うことすら避けていた自分。だけど――こんな風に、 みんなが自分を守ろうとしてくれる なんて。


「……ありがとう」


 リリアは少しだけ俯きながらも、笑顔で答えた。


 こうして 仲間たちはそれぞれの課題を胸に、さらなる鍛錬を決意する。

 そして リリアもまた、自分の力と向き合うことを決めるのだった。



ギルドの訓練場に朝日が差し込み、静寂の中に鳥のさえずりが響く。昨日の戦闘の記憶が頭から離れず、仲間たちはそれぞれの思いを胸に秘めていた。


「もっと強くならなきゃいけない」


その決意を抱いた4人は、ギルド内の訓練施設へ向かった。



アレンの決意:攻撃魔法の強化


アレンはギルドの広い訓練場に立ち、魔法の発動に集中していた。


「火の魔法は、俺の得意分野だ。でも……威力が足りない」


昨日の戦闘で痛感した。攻撃が当たっても仕留めきれなければ、結局は仲間が危険に晒される。


「もっと高威力な攻撃魔法を使いこなせるようにならないと」


彼は手を前にかざし、 「ファイアボルト」 を放った。炎の塊が一直線に飛び、標的に直撃する。が、標的は黒焦げになっただけで、粉砕には至らない。


「……ダメだ、まだ威力が足りない」


アレンは 詠唱の短縮 と 魔力の集中 を意識しながら、何度も魔法を放つ。 より強力な攻撃魔法を身につけるための特訓が始まった。



ユージンの決意:防御魔法の鍛錬


ギルドの別の訓練場では、ユージンがバリアの展開に挑んでいた。


「昨日の戦闘……俺のバリアが破られたのが原因で、みんなが危険な目に遭った」


バリア魔法は、 耐久力・範囲・持続時間 の3つが重要だ。特に、今回は 持続時間が短すぎた。


「もっと長く、強固に張り続けられるようにならないと……」


ユージンは 「プロテクション・ウォール」 を発動し、自分の周囲に半透明の防御膜を展開する。


「……これをどこまで持続できるか」


彼は 持久力を鍛えるため、限界までバリアを維持し続ける訓練 を開始した。

汗が額を流れるが、ユージンの決意は揺るがない。



ルーシーの決意:回復と補助魔法の習得


ギルドの回復魔法練習エリア。ルーシーは傷ついた訓練用のマナドール(魔法で作られた人形)に向かい、回復魔法の詠唱をしていた。


「昨日の戦闘……もし、私の回復が遅れていたら、誰かが本当に大怪我をしていたかもしれない……」


回復魔法は完璧ではない。発動には 時間 がかかるし、 消費魔力も大きい。


「もっと素早く、的確に……」


彼女は回復魔法 「ヒールライト」 を発動。ドールの傷がゆっくり癒えていく。だが、それでは 間に合わない場面もある。


「ただ回復するだけじゃダメ。 防御や補助魔法 も覚えなきゃ……」


彼女は 回復だけでなく、味方の動きを補助するバフ魔法の訓練 も始める。



リリアの視点:みんなの成長を見守る


訓練場の片隅で、リリアは仲間たちの奮闘を見守っていた。


「……みんな、本当にすごいなぁ」


それぞれが リリアを守るために強くなろうとしている。

それが嬉しくもあり、少しだけ申し訳なくも感じた。


「私も……もっと頑張らなきゃ」


ふと、肩の上のフィーネがクスクスと笑う。


「どうしたの? なんか嬉しそうだね」


「いや、たださ。リリア、良い仲間を持ったなって思ってね」


リリアは 照れ臭そうに微笑む。


こうして それぞれの鍛錬が始まり、仲間たちは次の戦いに向けて成長していくのだった。



訓練場の片隅、仲間たちがそれぞれの課題に向き合い汗を流す中、リリアはぽつんと座り込んでいた。


 アレンは攻撃魔法を磨き、ユージンは防御魔法の持続時間を鍛え、ルーシーは回復と補助の両方を習得しようと必死に努力している。


 そんな中、自分はどうすればいいのか――


 リリアは 腕輪をじっと見つめた。


 「みんなは頑張ってるのに、私だけ……このままでいいのかな?」


 彼女は 圧倒的な魔力量を持ちながら、それをうまく使えない。

 ずっと魔力を抑えて生きてきたから、どう制御すればいいのかも分からない。


 「……ねぇ、フィーネ」


 ふわふわと宙に浮かんでいたフィーネが、リリアの肩にちょこんと降り立つ。


 「ん? どうしたの、リリア」


 「私さ、魔力をもっと…… 自由に操る方法ってないのかな? 」


 リリアの 真剣な眼差し を見て、フィーネは少し驚いたように目を丸くした。


 「おやおや、ついに 力をコントロールする気になったのかい?」


 リリアは腕輪を握りしめながら、少しだけうつむいた。


 「うん……みんな、私を守ろうとしてくれてる。でも、それって本当はおかしいんだよ。私の方が…… ずっと強いはずなのに」


 仲間たちは、自分のために強くなろうと努力している。


 それなのに、自分は「 制御ができない 」というだけで、何もできずに守られるばかり。


 それが、 すごく悔しかった。


 そんなリリアの決意を感じたフィーネは、ふわりと微笑んだ。


 「いいね、その意気だよ。じゃあ、まずは 君の魔力を封じている腕輪の術式を解析することから始めよう」


 「……え? 腕輪を解析する?」


 リリアは驚き、反射的に腕輪を見つめる。


 「うん。君の魔力が暴走しないように、 この腕輪に特殊な術式が組み込まれている はずだ」


 「なるほど……それを解析して、書き換えれば、 魔力を自分の意志でコントロールできるようになるってこと?」


 「その通り」


 フィーネは 真剣な眼差し で続けた。


 「でも、そのためには この腕輪を作った人のことをもっと知らなきゃいけない」


 リリアの胸が ぎゅっと締め付けられる。


 「……つまり、 私のママ のこと?」


 リリアの母――世界最強の魔法使い と呼ばれた女性。

 幼い頃に別れて以来、リリアは 母の本当の姿を知らない。


 フィーネはコクンと頷いた。


 「うん。腕輪に施された術式は、 君の母親が作ったもの。それを理解しないと、解析も改変もできない」


 「……でも、ママのことを知るって言っても……どこから?」


 リリアは困惑し、視線を落とす。


 すると、フィーネが優しく微笑みながら リリアの額に手を当てた。


 「なら、君の記憶の中に答えを探そう」


 リリアの記憶――幼い頃の断片的な記憶の奥深くに、何か手がかりが眠っているはず。


 フィーネの 魔法が発動 し、リリアの意識がゆっくりと沈んでいく――


 母との記憶を辿る旅が、今始まる。


ふわりと意識が沈んでいく感覚。

 まるで深い水の底へと落ちていくように、リリアの視界が暗転し、次の瞬間、まばゆい光が広がった。


 ――そこは、5歳の頃の記憶だった。



「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」


 幼いリリアの悲鳴が、辺りに響き渡る。


 彼女の 小さな手から放たれた虹色の魔力 が、爆発的な勢いで周囲を包み込み、 ドォン! という轟音とともに、近隣の家が次々と破壊されていった。


 「リリア!! 落ち着いて!!!」


 駆けつけた母の叫び声。

 しかし、リリアは 自分の魔力を制御する術を知らなかった。

 暴走した魔力は収まることなく、さらに拡大しようとしていた。


 「お願い……止まって……!」


 必死に自分を抑えようとするが、 魔力はまるで意志を持っているかのように暴れ回る。


 そこへ、母がすっと手を前に出し、一瞬で術式を展開 した。


 「収束コンバイン


 その言葉とともに、暴走する魔力が母の手に吸い込まれるように消えていく。


 しかし、周囲を見渡すと――


 3軒の家が倒壊し、地面には無数のひび割れが走っていた。


 「……っ、大丈夫、みんな無事……?」


 リリアは涙目で母を見上げる。

 母は 優しく微笑みながら 頭を撫でた。


 「大丈夫よ、リリア。ママがなんとかするからね」



 すぐに母は 地面に魔法陣を展開 し、倒壊した家々へ向かって 手をかざした。


 「リペア」


 魔法陣が輝き、崩れた家々が ゆっくりと元の形へと戻っていく。


 「すごい……!」


 幼いリリアは感嘆の声を上げたが、すぐに母の様子がおかしいことに気づいた。


 「……っ、さすがに、これは……きつい……」


 母の額に 汗がにじみ、息が荒くなっていく。


 倒壊した建物は 3棟もある。

 すべてを元通りにするには 膨大な魔力が必要 だった。


 ――やがて、最後の修復が終わった瞬間、母は ふらりと崩れるように倒れた。


 「ママ!!!」


 駆け寄るリリア。

 母の呼吸は乱れていたが、意識はあった。


 「……ちょっと、頑張りすぎたかな」


 母は苦笑しながら、リリアの手を握る。


 「大丈夫よ。少し、休めば……すぐに元気になるから」


 しかし、母は そのまま2日間昏睡状態になってしまった。



 駆けつけたギルド員が 騒ぎの原因を現場付近にいた目撃者から確認する。

 目撃者の証言によると、 「見たことのない虹色の爆発が発生し、その後すぐにリリアの母が駆けつけ、討伐した」 という話になっていた。


話を整理したギルド員は、「幻獣の襲撃」と誤認して迅速に処理をした。


 当然、リリアの 魔力暴走が原因だったとは誰も気づかなかった。


後日、目を覚ました母の元へギルド員が報告に来る。


 「今回の事態は突発だったため、正式な討伐依頼を発注することができなかった。よって、報酬の支払いは後日になる」


 ギルドの員がそう説明し、母の名前を呼んだ。


 「―― エレノア・エルフィス 殿、本当にご苦労だった」


 (エレノア……ママの名前)


 リリアは 久しぶりに聞く母の名に心が締め付けられる。


 母は 困ったように笑いながら、報酬の話を聞いていた。


 しかし、その報酬を受け取ることはしなかった。


 (本当は、私が原因で起こした騒動ですから……)


 母は 罪悪感を抱えながら、ギルドに報酬の辞退を申し出た。


 「その分は、街の復興に役立ててほしい」


 ギルドの監視員は驚いたが、最終的には 母の意思を尊重し、報酬を復興資金として街に寄付することになった。



翌日、少し魔力の回復した母はリリアに優しく語りかける。


「……リリアの魔力量は、規格外すぎるわね」


 母―― エレノア・エルフィス は、倒壊した家々の修復を終え、すっかり衰弱した身体を椅子に預けていた。


 そんな母の前で、幼いリリアは 不安そうに小さく身を縮めている。


 「ママ……ごめんなさい……」


 申し訳なさそうに俯くリリアの頭を、母は 優しく撫でた。


 「謝ることじゃないわ。あなたが悪いんじゃない。……でもね、リリア」


 母の表情が わずかに曇る。


 「このままじゃ、きっと……あなたは “普通の女の子”として生きられなくなる わ」


 その言葉に、幼いリリアは きょとん と母を見上げる。


 「ふつう……?」


 母は 少しだけ苦しげに微笑んだ。


 「リリアの力は、桁違いなの。……きっと、何もしなくても、“異常” だと気づかれてしまう」


 リリアの 無自覚な強大な魔力量 は、すでに “世界の理” すら超えかけていた。


 「私は、あなたに…… “普通の子” として生きてほしいの」


 幼いリリアには、まだ意味が分からなかった。

 でも、母が とても悲しそうな顔をしている ことだけは、はっきりと理解できた。



「だから、これは ママのわがまま なのだけれど……」


 母は ひとつの腕輪 を手に取り、その表面を ゆっくりと撫でた。


 「エンクレイブ・セイル」


 母が呪文を紡ぐと、腕輪に 複雑な術式が刻まれていく。

 それは 魔力の流れを抑制するための術式 だった。


 「これは、 魔力抑制の封印 を施した腕輪よ」


 母は そっとリリアの小さな腕にそれをはめる。


 「これがあれば、あなたの魔力量は他の人と変わらないくらいに抑えられる」


 リリアは 不思議そうに腕輪を見つめる。


 「この腕輪、つけるとどうなるの?」


 母は そっとリリアの手を握りしめた。


 「……あなたはきっと、いつか 自分の力と向き合う時が来る 。」


 柔らかくも、どこか強い意志を感じさせる母の声。


 「その時は…… 恐れないで、自分の力を信じなさい」


 リリアは その言葉の意味を理解できないまま、ただ 母の温もりに包まれていた。



 ――視界が ゆっくりと白く染まる。


 そして、次の瞬間―― 現実の世界 へと戻ってきた。


 気づけば、リリアの前には フィーネが優しく微笑んでいた。


 「……おかえり」


 リリアは、ふわりと目を瞬かせる。


 (ママ……)


 胸の奥が ぎゅっと締めつけられる。


 今まで 思い出すことがなかった記憶。


 そこには、母が 自分をどれだけ大切に思っていたか の 答え があった。


 「ママに……会いたい」


 小さく、でも確かな声で、リリアは呟いた。


 フィーネは、まるで 全てを悟ったように 優しく微笑む。


 「それなら、まずは…… 腕輪の術式を解析することから始めようか」


 リリアは 強く頷いた。


 ――今度こそ、本当の意味で “自分の力” と向き合うために。


リリアは 腕輪を外そうとした。


 その瞬間——


 「……っ!!?」


 リリアの体から とてつもない魔力が溢れ出した。


 室内に 強烈な圧がかかり、床がわずかに軋む。

 周囲の空気が震え、まるで暴風の前触れのような感覚 が走る。


 「ちょ、ちょっと!?」


 フィーネが 慌ててリリアの腕を押さえた。


 「……しまった、腕輪の封印を解いた途端に、こんなに魔力が溢れるなんて……!」


 窓の外を見ると、 街の人々が不思議そうに辺りを見回している。

 普段はまったく魔力を感じさせなかったリリアが、一瞬とはいえ 街全体に影響を及ぼしかねない魔力の波動を放ってしまった。


 「このままだとバレる……! フィーネ、どうしよう……?」



 「仕方ないなぁ……」


 フィーネは 目を閉じて両手をかざした。


 「エクス・ディメンション!」


 次の瞬間——


 リリアとフィーネの周囲が 柔らかな光に包まれた。

 周囲の景色がゆらぎ、空間が歪むような感覚が広がる。


 そして、気がつけば 二人はまったく別の場所に立っていた。


 「……ここは?」


 「私の魔法で作った 『世界と遮断された空間』 さ。ここならどれだけ魔力を解放しても誰にも気付かれないよ」


 リリアは 驚きながらも、安心したように頷いた。


 「ありがとう、フィーネ……! ここでなら、思い切り術式の改変ができるね」



 リリアは 腕輪を外し、両手でそっと包み込むように持つ。

 すると、腕輪が 淡い光を放ち、緻密な魔法陣のような紋様が浮かび上がった。


 「すごい……こんなに細かい術式が組み込まれてたんだ……」


 フィーネが くるくると腕輪の魔法陣を回転させながら解析を進める。


 「ふむふむ、やっぱり お母さんが作った封印 だけあって、相当高度な術式だね」


 「簡単に解除できるものじゃないってこと?」


 「まあね。でも、 制御する仕組みはしっかりしてる から、“出力を自由に調整できるように組み直せば” コントロールできるようになるよ」


 リリアは 真剣な表情で頷いた。



 「でも……」


 リリアは 少し困ったような顔をする。


 「もし、一気に解放しちゃったら…… 急成長しすぎて怪しまれるよね 」


 今まで魔法がまともに使えなかったリリアが、いきなり 最上級の魔法を扱えるようになったら……

 さすがに周囲から 怪しまれるのは確実 だった。


 「うーん、確かに急激な変化は目立つかもねぇ」


 フィーネが しばらく考え込む。


 「なら、少しずつ調整していけばいいんじゃない?」


 「……少しずつ?」


 「そう。腕輪の術式を全部消しちゃうんじゃなくて、 出力を抑えながら徐々に慣らしていく感じで」


 「それなら……」


 リリアの表情が 徐々に明るくなる。


 確かに、 “いきなり強くなる” のではなく、“少しずつ成長していく” ように見せれば 怪しまれることはない。


 「なるほど……!じゃあ、腕輪の術式を書き換えて、“魔力量の調整機能” をつければいいんだね!」


 「正解♪」


 フィーネが 小さくウインクをする。



 リリアは 深呼吸をして、両手を腕輪にかざす。


 「今度は……私が、自分の術式を組み直す番だね」


 母が残した 魔力抑制の術式。

 その構造を理解したリリアは、そこに 新たな術式を上書きしていく。


 「リミット・レギュレーション……エディット」


 呪文とともに、腕輪が 再び光を放つ。

 フィーネは 興味深そうにリリアの手元を見守っていた。


 「おお~、やるじゃん。ちゃんと制御機能を組み込めてるね」


 腕輪の表面に 新たな魔法陣が浮かび上がる。


 元々の封印術式を改変し、リリア自身の意志で魔力の放出量を細かく調整できるようになった。


 「ふぅ……」


 リリアは 小さく息をついた。


 「これで、魔法を自由に使えるようになった……!」


 「いやいや、“自由” とはまだ言えないでしょ」


 フィーネが 小さく肩をすくめる。


 「今の段階じゃ、あくまで “調整できる” ようになっただけ で、実際にどう運用するかは、これからの課題だね」


 「……そっか」


 リリアは 納得しながらも、どこか嬉しそうに腕輪を撫でた。


 (これで……これで、みんなと一緒に戦える……)




 「さて、準備は整ったね」


 フィーネが くるりと宙で回転しながら微笑む。


 「でもリリア、これからは少しずつ”魔力の制御”を練習していかなきゃだよ?」


 「うん……!」


 リリアの 瞳には力が宿っていた。


 これまで “魔法が使えない少女” だった。

 だが、これからは “自分の意志で魔力を操る少女” になる。


 そして―― 本当の力に向き合う時が、徐々に近づいていく。

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