初討伐クエスト
ギルドの広間は、今日も多くの冒険者で賑わっていた。
リリアたちは受付のカウンター前に並び、クエストを受ける前にギルドの基本情報を改めて学ぶことにした。
「さて、討伐クエストを受ける前に、モンスターについて説明しておくわね。」
受付嬢のリーナが手元の資料をめくりながら話し始める。
「モンスターは大きく分けて、次の七つのカテゴリに分類されるの。」
獣
普通の動物に近い存在で、魔力は持たない。
しかし、力が強かったり、集団行動をするため、油断は禁物。
魔獣
魔力を帯びた獣で、人間を襲うことが多い。
攻撃魔法を放つものもおり、初心者の討伐対象としては中級以上の実力が求められる。
魔獣亜種
魔獣の進化形で、通常の魔獣よりも強力。
魔獣が環境や経験によって成長し、特異な能力を持つことがある。
討伐報酬が高いが、G〜Fランクの冒険者にはまず無理。
幻獣
伝説級の存在で、ほとんど討伐依頼が出ない。
一説では、幻獣は人間との意思疎通が可能なものもいるとか……。
幻獣亜種
幻獣の変異種で、さらに特殊な能力を持つ。
召喚術や高度な知性を持つ個体も報告されている。
竜族
知性を持つ最上位の存在。人間と関わることは稀。
彼らと対等に話すには、特別な称号や実力が必要。
竜族亜種
竜族の中でも突然変異的な力を持つ者。
ほとんどが極めて凶暴で、人間に敵対的。
竜族が持つ誇りや理性を失い、力のみを求める存在。
リーナの説明を聞きながら、リリアはじっとその内容を頭に刻み込んでいた。
「ところで……」
リーナはふと声を落とし、少し神妙な表情になる。
「かつて、この国には一人の最強の魔法使いがいたのよ。」
「……?」
リリアは息を呑む。まさか、と思ったが——
「その人は、冒険者ランク SSランク で、未だかつて彼女を超えた者はいない。」
「SS……?」
ユージンが眉をひそめた。
「その上に、SSSランクがあるんじゃないのか?」
「あるにはあるけれど……」
リーナはゆっくりと首を振る。
「SSSランクは、今まで誰も到達したことがない幻のランク。
だけど彼女は、SSランクとして、すべての冒険者の憧れだった。」
リリアはじっと話を聞いていた。
「彼女の最後の戦いは……竜族亜種との戦闘 だった。」
その瞬間、リリアの心臓が大きく跳ねた。
(ママ……)
「その戦いの詳細は伏せられている。でも、ただ一つ分かっていることがあるわ。」
リーナは神妙な面持ちで言った。
「その戦いを最後に、彼女は行方不明になった……。」
「……」
リリアは拳をぎゅっと握りしめた。
「でもまあ、そんな強い人と張り合うような相手がいるってことだな。」
アレンが腕を組む。
「そうね。ただ、今の話はあくまで伝説。あなたたちには、まず 基本的な獣討伐 から始めてもらうわ。」
リーナは微笑みながら、受付の書類を差し出した。
「では、クエストの受注をどうぞ。」
リリアたちは顔を見合わせ、大きく頷いた。
ギルドの受付で、新たなクエストを受け取るリリアたち。
「今回は初心者向けの獣討伐クエストね。」
リーナが提示した依頼書には、対象となる獣の特徴や討伐のポイントが記されていた。
「討伐対象は、大型の魔力を持たない獣。基本的にはそこまで危険じゃないけど、油断は禁物よ。」
「ふむ、ちょうど実戦経験を積むのに最適なクエストってわけだな。」
アレンが依頼書を確認しながら頷く。
「報酬は低めだけど、まずは経験を積むことが大事だよね!」
ルーシーもやる気に満ちた表情を見せた。
「それじゃあ、いよいよ初めての討伐クエストに出発ってことか!」
ユージンが腕を組みながら意気込む。
「うん! 頑張ろう!」
リリアも、仲間たちとともに初めての討伐クエストに挑む決意を固めた。
ギルドを後にし、街の外へと向かうリリアたち。
「そういえば……」
ユージンがふと口を開いた。
「さっきリーナが言ってた最強の魔法使いって、リリアのママのことだよな?」
「……うん。」
リリアは少し驚きながらも頷く。
「やっぱりかー。昔、俺たちが小さい頃に、よくリリアのママに遊んでもらったよな。」
アレンが懐かしそうに言う。
「そうそう、すごく優しかったよね! でも、時々すごい魔法を見せてくれたりしてさ!」
ルーシーも思い出したように笑う。
「リリアのママって、なんでそんなに強かったんだろうな……?」
ユージンが考え込むように言うと、アレンが真剣な表情になった。
「冒険者として成長していけば、その答えも分かるかもしれないな。」
「もしかしたら、リリアのママがどこにいるのかも……」
ルーシーが小さく呟く。
「……みんな……。」
リリアは、仲間たちが母を信じていることに驚きながらも、胸が熱くなるのを感じた。
「きっと、どこかで生きてるよ!」
ルーシーが笑顔でリリアの肩をポンと叩く。
「だから、私たちももっと強くなって、いつか絶対見つけ出そう!」
「……うん!」
リリアは力強く頷いた。
しばらく歩くと、目の前には深い森が広がっていた。
「さて、ここが今回の討伐クエストの舞台か。」
アレンが木々を見渡しながら呟く。
「うわー、雰囲気あるねぇ。ここに獣がいるのかな?」
ルーシーが興味津々に辺りを見回す。
「よし、それじゃあ気を引き締めて行こうぜ!」
ユージンが気合いを入れた。
リリアは深く息を吸い込み、ゆっくりと吐いた。
(私も頑張らなくちゃ……!)
初めての討伐クエスト——仲間たちと共に、一歩を踏み出すのだった。
木々が生い茂る森の中、リリアたちは獣の出現地点に向かって進んでいた。
「さて、ここからが本番だな。」
アレンが前を歩きながら呟く。
「とはいえ、獣と戦う前に基本的な戦い方を確認しておこうぜ。」
「うん!」
リリアはメモを片手に、必死に学ぼうとやる気満々で頷く。
「まずは防御陣形の話からだな。」
ユージンが腕を組みながら説明を始めた。
「基本的にパーティ戦では、防御役が前衛で仲間を守るのが鉄則 だ。俺の役割だな。」
「なるほど!」
リリアは真剣にメモを取る。
「でもさ、ユージンがずっと前にいたら、攻撃受け続けるんじゃ……?」
「そういうもんだよ。だからこそ、防御魔法と耐久力が重要なんだ。」
ユージンは軽く肩をすくめる。
「それに、前衛がしっかりしてないと、後ろで戦うアレンやリリア、おまえらが危険になるからな。」
「そっか……ユージン、かっこいいね!」
リリアが素直に言うと、ユージンは一瞬たじろいだ。
「お、おう。ま、まぁな。」
その反応に、ルーシーが吹き出す。
「照れてる? 照れてる?」
「バカ、照れてねぇよ!」
リリアは楽しそうにクスクス笑いながら、メモを取り続けた。
「じゃあ、次は俺の番だな。」
アレンが前に出る。
「攻撃魔法の基本だけど、まず狙うべきは獣の急所だ。」
「急所ってどこ?」
「頭とか心臓、あとは足を狙うのも効果的だ。」
「ふむふむ。」
リリアは真剣にメモを取る。
「……あれ、でもアレン、最初の一撃で外したらどうするの?」
「そんときゃ、二発目を撃つしかねぇだろ。」
「ふむふむ……じゃあ、外し続けたら?」
「そんなの考えたくもねぇ!」
アレンが頭を抱えると、ルーシーが「ぷっ」と吹き出した。
「リリア、そういうこと言うのやめなよ~! でも、確かに外した時のことも考えとくのは大事かもね。」
リリアが満足そうにメモを取りながら、「でしょ~?」と嬉しそうに頷く。
「それじゃ、次は私ね!」
ルーシーが胸を張る。
「回復のタイミングは、ダメージを受けてからすぐにするのが基本!」
「なるほど!」
「でも、あまりにも軽い傷なら回復しなくてもいいかな。」
「えー、せっかく回復魔法があるのに?」
「だってさ、魔力には限りがあるんだから、無駄遣いしちゃダメでしょ?」
「そっか、魔法にも節約が必要なんだね。」
「そうそう!」
リリアはペンを走らせながら、ふと思いつく。
「じゃあさ、怪我をする前に回復魔法をかけておけばいいんじゃない?」
「……え?」
ルーシーが固まる。
「……なるほど、つまり『ケガをする前に治す』という発想か?」
ユージンが腕を組んで考え込む。
「いや、それじゃ意味なくね!?」
アレンが大声でツッコミを入れる。
「え? なんで?」
リリアがきょとんと首をかしげると、一同は一瞬沈黙し——
「「「いや、なんでだよ!!」」」
全員が一斉にツッコんだ。
「だって……怪我する前に治せば、怪我しないからいいかなって……。」
「そういう問題じゃねぇんだよ!」
アレンが苦笑しながらリリアの頭をポンと叩く。
「まったく、可愛すぎだろ。」
「えへへ……。」
リリアは顔を赤らめながら、そっとメモを取り続けた。
そんな楽しい会話が続く中、リリアはふと考えた。
(みんな、私にすごく優しくしてくれる……。)
リリアの母がいなくなった後も、ずっとそばにいてくれた幼なじみたち。
(私は、みんなの役に立ててるのかな?)
今はまだ、頼ってばかりだ。
だけど——
(私も強くならなくちゃ……!)
胸に静かに決意を秘めるリリア。
しかし、同時に大きな問題もあった。
(でも……魔力を解放するわけにはいかない。)
もし本当の力を使えば、きっとみんなにバレる。
(どうすればいいんだろう……。)
そんなジレンマを抱えながらも、リリアは仲間たちの笑い声に包まれながら、そっと笑顔を浮かべた。
森の奥へと足を踏み入れたリリアたち。
「そろそろ獣が出てもおかしくないな……。」
アレンが慎重に周囲を見渡しながら呟く。
「確か、今回の討伐対象はオオカミ型の獣だったよね?」
ルーシーが確認すると、ユージンが頷いた。
「そうだ。群れでいることは少ないが、単体でも油断は禁物だ。」
リリアは緊張しながら、仲間たちの後ろで構える。
すると——
「来たぞ!」
アレンの声に反応して、草むらから素早い影が飛び出した。
鋭い牙を光らせたオオカミ型の獣が、低い唸り声を上げながらリリアたちを睨みつける。
「よし、実戦だ! まずはリリア、試しに攻撃してみろ!」
ユージンの指示を受け、リリアは慌てて魔法を発動する。
「え、えっと……! エアブラスト!」
——ふわぁぁ。
リリアの手元から、そよ風のような優しい風が吹き出した。
「…………」
オオカミ型の獣はピクリとも動かない。
「あれ……?」
リリアは戸惑いながら、もう一度魔法を唱えようとするが、
「まさか……風で威嚇?」
アレンが思わずツッコミを入れた。
「いや、これは……」
ユージンが腕を組みながら考え込む。
「空気清浄機……?」
「いや、違うでしょ!!」
リリアが慌てて反論するが、仲間たちは思わず吹き出す。
「リリアの魔法、なんか……癒されるなぁ……。」
ルーシーがクスクス笑いながら言う。
「えぇ……!!」
リリアは顔を赤くしながら、必死に構え直す。
「まあまあ、ここは俺に任せろ。」
アレンが前に出ると、しっかりと魔法を構える。
「フレイムショット!」
——ドォン!
放たれた火球がオオカミ型の獣に直撃し、一撃で沈めた。
「……ふぅ、やっぱり魔法の威力が違うな。」
アレンが満足げに呟く。
「もう少しリリアも戦えるようにならないとね。」
苦笑しながらアレンが言うと、リリアはぷくっと頬を膨らませる。
「これでも全力だったんだけどなぁ……。」
「まぁまぁ、最初はこんなもんさ。」
ユージンが肩をポンと叩く。
その様子をじっと見ていたフィーネが、ふわふわとリリアの肩に舞い降りた。
「それにしても、君たちの連携……すごく自然だったね。」
「え?」
リリアが驚いて振り向くと、フィーネは感心したように頷いた。
「誰かが指示を出さなくても、お互いが自然に動けていた。 まるで長年一緒に戦ってきたようだったよ。」
「それはまあ……」
ユージンが軽く笑いながら答える。
「俺たち、幼なじみだからな。」
「昔からずっと一緒にいたし、なんとなく相手の動きが分かるんだよね。」
ルーシーもにこりと微笑む。
「……なるほど。」
フィーネは納得したように頷く。
「君たちは、最高の相性を持ったパーティ なんだね。」
「へへっ、それは嬉しいな!」
アレンが自慢げに笑い、リリアはこっそりと仲間たちを見つめる。
(……みんながいてくれるから、私は大丈夫。)
心の中でそっと呟きながら、リリアは新たな決意を胸に抱いた。
「じゃあ、次の獣を探しに行こう!」
仲間たちとともに、再び森の奥へと進んでいくのだった。
森の奥へと進むリリアたち。
「次のターゲットは中型獣か……。」
アレンが依頼書を確認しながら呟く。
「イノシシ型の獣らしいね。突進力があるから、気をつけなきゃ。」
ルーシーが警戒しながら辺りを見渡す。
「今度は俺が前に出るからな。リリアも魔法を試してみろ。」
ユージンが構えながらリリアに声をかける。
「う、うん……!」
リリアは気を引き締めると、魔法を発動した。
「ファイアショット!」
——ぽっ。
手のひらから、小さな火の玉がふわりと現れる。
「…………」
イノシシ型の獣は微動だにしない。
「えっ……?」
リリアは焦って、もう一度詠唱する。
「えーっと、ファイアショット!!」
——ぽっ。
「……まさか、さっきの風と同じパターン?」
アレンが冷や汗をかく。
「もしかして、寒いから手を暖めてるの?……?」
ユージンが呆れたように言う。
「違う違う!! ちゃんと攻撃してるの!!」
リリアは必死に言い返した。
「よ、よし……じゃあ、もうちょっとだけ魔力を強くしてみようかな……!」
リリアは額に汗をにじませながら、魔力をほんの少し増幅させる。
「ファイアショット!!」
——ドォォォン!!
突如、爆発が起こった。
辺りの木々が吹き飛び、地面が大きくえぐれる。
「うわぁぁぁぁ!?」
アレン、ユージン、ルーシーの三人が吹き飛ばされる。
「な、なんで急に威力が跳ね上がった!?」
アレンが咳き込みながら叫ぶ。
仲間たちの視線が、一斉にリリアへと向けられる。
「……え?」
リリアは固まった。
「いや、待って! 私そんなに強くしてない……はず……!」
焦りに焦ったリリアは言葉に詰まり、顔を真っ赤にして動揺する。
そのとき——
(ねぇ、単発じゃ弱いって言えばいいんじゃない?)
フィーネが心の中で囁いた。
(魔法を重ねがけしたことにでもしてみたら?)
「え、えっと……!」
リリアはフィーネの助言を受け、咄嗟に口を開く。
「単発じゃ弱いから……時間をかけて魔法をいっぱい重ねてみたの!」
「……ほう?」
アレンが目を細める。
「で、どのくらい重ねたんだ?」
「……200発くらい?」
「やりすぎだぁぁぁぁ!!!」
仲間たちが一斉に叫んだ。
「お、おかしいなぁ……そんなにやったつもりは……。」
リリアが頭を抱える。
「待て待て、魔法の重ねがけって、確か——」
ユージンが真剣な表情になる。
「暴発の恐れがあるんだろ?」
「そうそう! もし重ねてる途中で発動しちゃったら、自分が爆心地になる可能性もあるの!」
ルーシーが指をさしながら言う。
「危険だから、極力やらないようにしろって先生に言われたよな……。」
「そ、そうなの!? 知らなかった!!」
リリアは驚愕しながら、焦りまくる。
「と、とにかく……無事でよかったね!」
ルーシーが苦笑しながら立ち上がった。
「まあ、もう一匹残ってるし、今度は落ち着いていこうか。」
アレンが構え直す。
「うん……!」
リリアも深呼吸して、もう一度魔法を試みる。
「ファイアショット!」
——ぽっ。
「…………。」
「よし、俺がやる!」
アレンがすぐにフレイムショットを放ち、イノシシ型の獣を仕留める。
「……なんか、すごい大変だったな……。」
ユージンが息をつく。
「まぁまぁ、楽しかったし、いいじゃん!」
ルーシーが笑顔で言うと、みんなもつられて笑った。
「……それにしても。」
フィーネがリリアの肩にとまり、小声で呟く。
「本当は単発だったくせに……」
「え?」
「威力調整のコントロールを覚える必要があるね」
「……そうだよね。」
リリアはちょうどいい威力の魔法を撃つのが難しくて悩んでいた。
こうして、なんとか討伐クエストを完遂したリリアたち。
一筋縄ではいかなかったが、チームワークで無事成功。
「次のクエストも頑張ろうね!」
ルーシーの明るい声に、リリアは少し照れながら頷いた。
(……いつか、ちゃんとみんなの力になれるように頑張ろう。)
そう決意しながら、リリアは森を後にした。
「いや~、いい経験になったよね!」
ルーシーが元気よく微笑む。
「俺ももっと防御魔法の精度を上げないと……。」
ユージンが反省しながら拳を握る。
「みんな、ありがとう! すごく勉強になったよ!」
リリアは笑顔で言った。
しかし、その平和な空気は突如として破られる。
「——っ!?」
フィーネが鋭く周囲を見渡す。
「何か来る……!」
「なっ……!?」
アレンが身構えると、茂みの奥から黒く光る瞳が3つ、こちらをじっと見つめていた。
「……嘘だろ?」
ユージンが青ざめた表情で呟く。
本来、Fランクの冒険者が遭遇するはずのない魔獣(オオカミ型)が3匹、静かに牙をむいていた。
「魔獣……!?」
ルーシーが震えながら、喉を詰まらせる。
「待て……これ、俺たちの討伐対象じゃないだろ……?」
アレンの手が震えた。
「こんなの……俺たちには無理だ……!!」
ユージンが冷や汗を流しながら呟いた。
魔獣は獣とは違う。純粋な本能で生きる動物ではなく、魔力を帯び、人を襲う凶暴な生き物だ。
しかも、彼らが受注できるのは 「獣討伐」 のみ。
「ど、どうする……?」
リリアの声が震えた。
次の瞬間——
バッッ!!
1匹の魔獣が飛びかかってきた!!
「くっ……!!」
アレンが即座にフレイムショットを放つが、魔獣は素早くかわし、そのまま鋭い爪でアレンを引き裂こうとする。
「ぐっ……!!」
ユージンが防御魔法を展開。
しかし——
バリィィンッッ!!!
「は……? そんな……!?」
ユージンの防御魔法が 一撃で粉砕された。
「きゃぁぁ!!」
ルーシーが悲鳴を上げる。
「ルーシー、下がれ!!」
アレンが必死に叫ぶが、ルーシーもまた回復を優先する余裕がない。
「無理だ……! これ、もう戦えるレベルじゃない!!」
ユージンが血を流しながら後退する。
「ど、どうすれば……」
リリアの手が震える。
目の前には3匹の魔獣。
今にも襲いかかろうとする、地獄のような状況。
仲間は皆 ボロボロ で、既に立っているのがやっと。
(このままじゃ……全員死ぬ……!)
絶望がリリアの心を支配しかけた、その瞬間——
何かが弾けるような感覚 がリリアの体を駆け巡った。
「えっ……?」
腕輪の奥から、一瞬 魔力が漏れ出した のを感じる。
「リリア!?」
フィーネが驚いたように声を上げた。
(……抑えきれなかった……!?)
「とにかく、やらなきゃ!!」
リリアは咄嗟に魔法を発動する。
「ウィンドストーム!」
——ゴォォォォッッッ!!!
突如、猛烈な突風が辺り一帯を吹き荒れる。
魔獣たちは まるで紙切れのように吹き飛ばされ、一掃された。
「…………」
風が止み、静寂が訪れる。
「……え?」
アレン、ユージン、ルーシーの三人が、ぽかんと口を開けた。
「な、なに今の……?」
ルーシーが震える声で言う。
「リリア、お前……何をした……?」
アレンが困惑しながらリリアを見つめる。
「ごめん…… また重ねがけしちゃった……」
リリアは、困ったような表情で呟いた。
その背後で、フィーネがくすくすと笑う。
「本当は単発魔法だけどね。」
誰にも聞こえないようにフィーネは呟いた。
討伐を終え、魔獣を撃退したリリアたちは、ようやくギルドへの帰路についた。
しかし、その道中でルーシーが険しい表情で口を開く。
「……リリア、さっきの魔法、重ねがけしたのよね?」
「えっ……えっと……うん、一応?」
リリアが曖昧に答えると、ルーシーは額に手を当てて深いため息をついた。
「ダメって言ったよね!? 重ねがけはギルドの禁止事項になってるのよ!?」
「え……えぇ!? そ、そうなの!?」
「そうよ! そもそも重ねがけってのは、魔法の暴発事故が起こる可能性があるから禁止されてるの!」
ルーシーが語気を強める。
「もし途中で制御できなくなったら、自分にも被害が及ぶ可能性があるのよ!? 無謀すぎるわ!」
「ご、ごめん……!」
リリアはしょんぼりと肩を落とした。
「でも……みんなを守りたくて……」
「気持ちは嬉しいけど……もう二度とやっちゃダメよ?」
ルーシーが優しく言うと、リリアは神妙な顔で頷いた。
「うん……もう重ねがけはしないって誓うよ。」
「それより……リリア、大丈夫か? さすがに魔力、相当使っただろ?」
ユージンが心配そうに覗き込む。
(いや、ほとんど使ってないんだけど……)
本当は魔力なんて微塵も減っていない。
だけど、重ねがけ2回=合計400発の魔法を撃ったことになっている ため、仲間たちは当然リリアが限界寸前だと思い込んでいる。
「立ってるだけでも辛いハズだ! 無理するな! おぶって帰ってやる!」
アレンが豪快に言い放つ。
「え、いや、そんな……!」
リリアは慌てるが、すでにユージンとルーシーもうなずいている。
「アレンが正しい! 無理しないで!」
「そうよ! こんな状態で歩かせるわけにはいかないわ!」
「ええええっ……!?」
完全に逃げ場を失ったリリアは、しぶしぶアレンの背中に乗ることに。
(……あれ? 意外と居心地いいかも……)
アレンの背中は暖かくて、妙に落ち着く。
ふわふわした気分のまま、リリアの瞼がゆっくりと閉じていく。
「……すぅ……」
「おい……寝たぞ。」
ユージンが呆れたように言う。
「そりゃあんだけ魔法使ったら、疲れるわよ。」
ルーシーが優しい目でリリアの寝顔を見つめる。
「リリア……俺たちを助けるために、そこまで……」
アレンが背中の重みを感じながら、強く拳を握る。
「俺たち、もっと強くならないとダメだな。」
「そうだな……次は俺たちが、リリアを守る番だ。」
「これからもっと強くなって、絶対にリリアを危険な目に遭わせない!」
三人は決意を新たにしながら、夜道を歩き続けた。
ようやくギルドの門が見えてきた。
「やっと着いたな……。」
アレンがリリアをおぶったまま、深く息を吐く。
「さあ、報酬を受け取って、今日はゆっくり休もう。」
「そうね……。」
「でも、リリアが起きたらまた説教しなきゃね。」
ルーシーが苦笑しながら呟く。
こうして、彼らの初めての討伐クエストは幕を閉じたのだった。