初めてのクエスト
ギルド本部の掲示板前には、試験を終えたばかりの新米冒険者たちが集まり、それぞれ初めてのクエストを選ぼうとしていた。
「さて、俺たちもクエストを受けるか!」
ユージンが拳を握り、意気揚々と掲示板へ向かう。
「うん、でもまずはランクの確認だね!」
ルーシーが掲示板を指差す。
ギルドでは、冒険者のランクが決められ、そのランクに応じたクエストしか受注できない。
ランクはGから始まり、最高ランクのSSSまで全10段階。
「通常、新人はGランクからのスタートだが……」
試験官が書類をめくりながら言葉を続けた。
「星4が2人以上いるパーティは、無条件でFランクから開始できる。ただし——」
試験官の視線が、リリアへ向く。
「リリア・エルフィスの能力値が、全て星1であるため、パーティ全体のバランスを考慮し、Gランクからのスタートとなる。」
「えぇっ!? 俺たち、Gスタートなのか!?」
ユージンが驚きの声を上げる。
「まあまあ、しょうがないよね!」
ルーシーは笑顔で肩をすくめる。
しかし、リリアの顔は沈んでいた。
(私のせいで……)
「……ごめん、みんな……私のせいでGランクになっちゃった。」
「なーに言ってんだよ! そんなの気にするな!」
ユージンが大きく笑う。
「むしろ、じっくり成長していけるじゃない!」
ルーシーがにっこりと微笑む。
「焦らずいこう、リリア。」
アレンも優しく声をかける。
「……うん!」
仲間たちの言葉に救われ、リリアは小さく頷いた。
「それじゃ、Gランクでも受けられるクエストを探そう!」
掲示板に並ぶクエストは、どれも戦闘とは無縁のものばかりだった。
「清掃、配送、荷運び……あ! これどう?」
ルーシーが指差したのは 「街の富豪の増築工事のサポート」 という依頼。
「壁を壊して、地面を整地して、残土を処理する……魔法を使っての作業か。」
アレンが内容を読み上げる。
「うん、これなら戦闘じゃないし、みんなでできそう!」
「決まりだな!」
ユージンが書類を受け取り、4人で工事現場へと向かった。
工事現場に到着すると、大勢の職人たちが作業をしていた。依頼主である富豪の家はすでに増築工事が始まっており、冒険者たちはそのサポートをする形になる。
「よし、まずは壁を取り壊す作業からだな!」
ユージンが意気込む。
「この壁を崩して、新しい部屋を作るんだってさ!」
ルーシーが説明する。
「オーケー、それじゃあやるぞ! 俺のインパクトで一発だ!」
ユージンが腕を回し、魔法を唱える。
「《インパクト》!」
ドゴォォォン!!
豪快な衝撃波が壁に直撃し、一部が崩れ落ちる。
「おおー! すごい!」
職人たちも驚きの声を上げる。
「じゃあ、次はリリアの番だな!」
「え、えっと……私もやるの?」
「もちろん!」
リリアは慎重に魔法を発動した。
「《インパクト》……!」
ぽふっ……
「…………。」
「…………。」
魔法のエネルギーが壁に当たるも、まるで枕を投げたような微弱な衝撃。
「……リリア?」
「え、ええと……!! そう! 今のは衝撃の調整だよ!」
アレンが瞬時に反応し、こっそり《インパクト》を放つ。
ドゴォォォン!!
「おおお! リリア、すごいじゃん!」
工事業者も驚いた顔で頷く。
「やったね、リリア!」
ルーシーが笑顔でフォローする。
(……バレなくてよかった……!)
「次は地面をならしていくぞ!」
職人の指示を受け、アレンが魔法を構える。
「《グラウンドスムース》!」
アレンの魔法が発動し、地面が滑らかに整えられていく。
「よし、リリアもやってみよう!」
リリアは慎重に魔法を発動した。
「《グラウンドスムース》……!」
すぅ……
草がふわっと撫でられる程度の変化。
「……リリア?」
「ほ、本当に範囲指定だけだったね! ありがとう、リリア!」
ユージンがすかさずフォローし、自分の魔法を重ねて地面を整地した。
「よしよし! これでバッチリ!」
ルーシーが満足そうに頷く。
(……バレなくてよかった……!)
「さて、次は残土を砕く作業だな!」
ユージンが拳を鳴らす。
「よし、俺からいくぜ! 《ロックブレイク》!」
バキィィン!!
大量の瓦礫が粉々に砕ける。
「すげぇ……!」
職人たちも目を丸くする。
「じゃあ、リリアもやってみよう!」
リリアは気合を入れて魔法を放った。
「《ロックブレイク》……!」
ぱらっ……
「……リリア?」
「いや、これは……きっと、細かくする作戦!」
ルーシーが即座にフォローし、《ロックブレイク》を放つ。
バキィィィン!!
「おおお! リリア、絶妙な調整!」
「うんうん、いい感じだね!」
(……バレなくてよかった……!)
「最後に現場の清掃を頼む!」
職人からの指示を受け、ルーシーが魔法を発動。
「《ウィンドブラスト》!」
強力な風が舞い上がり、埃が一気に吹き飛ぶ。
「うん、綺麗になった!」
「じゃあ、リリアもやってみよう!」
リリアは最後の力を振り絞って魔法を放った。
「《ウィンドブラスト》……!」
そよっ……
「…………。」
「……リリア、涼しいね!」
ユージンが全力でフォローする。
「現場が暑かったし、エアコンがわりだね!」
ルーシーが笑顔で職人たちに言うと、
「おお、確かに! 気が利くな!」
職人たちも納得した。
(……バレなくてよかった……!)
こうして、仲間たちはリリアの失敗を全力で誤魔化しながら工事を進めていった。
工事を終えたリリアたちは、ギルドへ戻って報酬を受け取るために受付へ向かった。
「お疲れさん。工事現場からの報告はすでに届いてるぞ。」
受付のギルド職員が書類を確認しながら言った。
「へえ、そんなに早いんだ?」
ユージンが興味深そうに身を乗り出す。
「職人たちからの評価次第で、報酬額が決まるからな。依頼主が満足してるかどうかが肝心なんだよ。」
「そうなの?」
リリアが首をかしげる。
「おう。報酬ランクは大まかに6段階あってな——」
ギルド職員は報酬の仕組みを説明し始めた。
「Sランク:最高報酬で受注額の倍額
Aランク:高評価で受注額の1.3倍ほど
Bランク:平均的な達成度で受注額そのまま
Cランク:満足度が低く、報酬は8割程度
Dランク:依頼達成が不完全で、報酬は5割程度
Eランク:最悪の評価で、報酬なし」
「そんなのあるんだ……」
リリアが少し緊張した表情になる。
「特別な功績があったり、予想外のアクシデントを完璧に対処した場合、SやAランクになることもあるが、滅多に起こることじゃない。」
「つまり、普通はBランクになるってことか?」
アレンが確認する。
「そういうことだ。」
ギルド職員が報告書に目を通しながら続けた。
「今回の依頼は特に問題なく完了。職人たちからの評価も高い。リリア、お前もちゃんと働いたみたいだな?」
「えっ!? う、うん……?」
リリアは心の中で冷や汗をかく。
(みんなのフォローのおかげでバレなかっただけなのに……!)
「報酬ランクはB、受注額どおりの報酬となる。」
「よっしゃー! 初仕事の報酬ゲットだ!」
ユージンが歓喜の声を上げた。
「まあまあ、妥当な結果だね!」
ルーシーも満足げに頷く。
(よかった……! みんなのおかげで普通に報酬もらえた……!)
リリアは胸をなでおろした。
報酬を受け取り、初めての収入を手にした4人は、自然と笑顔になっていた。
「これが……俺たちの初めての稼ぎか!」
ユージンが感慨深げに袋を開ける。
「うん、思ったより少ないけど……でも、自分で稼いだお金って、なんか嬉しいね!」
ルーシーが金貨を指で弾きながら微笑む。
「これからもっと稼げるように頑張らないとな。」
アレンが現実的なことを言いながらも、どこか誇らしげな表情を浮かべている。
「じゃあ、せっかくだし、記念に何か買おうよ!」
ルーシーの提案に、全員が頷いた。
「お、それならアクセサリーなんかいいんじゃないか? 俺たちの初仕事の記念にさ!」
ユージンが提案すると、ルーシーが大きく頷く。
「いいね! じゃあ、アクセサリーショップに行こう!」
店内には様々な装飾品が並び、宝石や金銀のアクセサリーが輝いていた。
「うわぁ……いろんなのがあるね!」
ルーシーは目を輝かせながら店内を見渡す。
「どうせなら、みんなお揃いのものを買おうぜ!」
ユージンが腕を組みながら言う。
「せっかくだし、リリアに選んでもらおうよ。」
ルーシーがにっこりと微笑み、リリアの背中を押した。
「えっ!? 私が……?」
「当然だろ、主役だし!」
ユージンがニッと笑う。
「うん、リリアが気に入ったものにしよう。」
アレンも優しく頷いた。
リリアは少し考え込みながら、ショーケースの中を見つめる。
やがて、小さな くまさんのモチーフがついたネックレス を指差した。
「これ……ちょっと子供っぽいかな? すごく可愛くて、これが欲しいなって……いやだよね?」
控えめにモジモジとしながらみんなに聞くリリア。
その姿があまりにも可愛すぎて——。
「は!? 最高にかわいい!!」
「リリアが選ぶなら、それに決まりだな!」
「間違いなくこれしかない!!」
3人は全力で肯定。
リリアは少し驚きながらも、嬉しそうに微笑んだ。
「そ、そんなに……?」
「もちろん! それに、リリアらしいしね!」
ルーシーが微笑む。
「これからの冒険の記念にもなるしな。」
アレンが真剣な眼差しで頷く。
「リリア、これを見たら俺たちのことを思い出すんだぞ!」
ユージンが大きく笑う。
「え……思い出すって……一緒にいるでしょ?」
リリアが首を傾げると、3人は少し言葉を詰まらせた。
(……リリアは、まだ気づいてないんだろうな。)
アレンは静かにリリアの姿を見つめた。
(ギルドの冒険はいつまでも続くものじゃない。いつか、俺たちもそれぞれの道を選ぶ日が来る……。)
(でも、今はまだその時じゃない。)
アレンは微笑み、リリアの肩を軽く叩いた。
「じゃあ、これに決まりだな。」
「うん!」
リリアは満面の笑みを浮かべながら、くまさんのネックレスを手に取った。
こうして、4人はお揃いのネックレスを手に入れた。
これが、彼らの最初の大切な思い出となる。