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厄災

ルミナスブレイブがEランクに昇格してから数日後、ギルドにひとつの報告が舞い込む。


「街の貯蔵庫が、夜中に何者かに荒らされている」


その情報を耳にしたギルドマスターは、ただの獣ではないと直感した。


「現場には、微弱だが確かに魔力の残留があった……これは獣ではなく、魔獣の仕業だろう」


街の平和を乱す存在を突き止めるため、ギルドはルミナスブレイブに調査クエストを依頼する。


「気をつけろ。もし魔獣亜種の類だった場合、すぐに逃げていい。命を優先しろ」


マスターのその言葉が、少しだけ緊張感を呼び起こす。



第2章:夜の見張りと魔獣の襲来


月明かりだけが差し込む夜の街。貯蔵庫の屋根に身を潜めるルミナスブレイブのメンバーたち。


「来るかな……いや、絶対来る」


「むしろ来てくれないと訓練の成果、試せないじゃん!」


そんな会話を交わしていたその時、貯蔵庫の裏手に影が現れる。


ぬるりとした動きで現れたのは、三匹の魔獣。狼のような姿をしているが、体表に魔力の紋様が浮かび、赤く鈍い光を放っていた。


「……魔獣、確認」


「3匹なら、やれる!」


アレンの号令と共に、戦闘が始まった。



第3章:圧倒的な連携


最初に動いたのはアレン。


「ブレイズラッシュ!」


高熱の連撃が先頭の魔獣を襲い、前足を焼き払う。


その瞬間、横から飛び出すユージンが即座に防御魔法を展開。


「通さねぇよ、オレの仲間の前はな!」


リリアは素早く位置を取り直し、補助魔法を展開。ルーシーの速度を引き上げ、アレンの詠唱速度を支援する。


「支援、間に合ってるよ!」


「ナイス、ルーシー!」


魔獣たちは高い機動力で動き回るが、ルミナスブレイブの連携はそれを上回った。


息の合った動きで、一体、また一体と魔獣は討たれていく。



第4章:勝利と高まる自信


最後の魔獣が倒れると、夜の街に静けさが戻った。


「はぁ……終わったな」


「え、俺らめっちゃ強くなってない!?」


「うん、今の私たちなら……たいていの敵にだって勝てそう!」


「……リリア?」


みんなの視線が集まる中、リリアは微笑んで頷いた。


「うん、私も……ちゃんと戦えてたと思う」


魔獣という初の高難度相手にも、ルミナスブレイブは完璧に対応してみせた。


だが——


ズゥン……と、大地が低く唸るような魔力の波動が走った。


空気が急激に重たくなり、空間の端がねじれるような違和感が押し寄せてくる。


「っ……なに、これ……?」

ルーシーが苦しげに眉をひそめる。


そして——現れたのは、漆黒の外殻を持つ異形の魔獣。

角と爪を持ち、背中には羽のような瘴気の膜が広がっている。

魔力を帯びた視線だけで、生き物の本能が警鐘を鳴らす。


「……魔獣亜種だ」


ユージンの声が震える。

思い出す。ギルドマスターの言葉を。


——“もし魔獣亜種が現れたら、絶対に戦うな。すぐに逃げろ。”


しかし、足が動かない。

立っていられないほどの威圧感に、アレン、ユージン、ルーシーの3人はその場に崩れ落ちそうになる。


「なに……この圧……」


その時だった。

前に出たのはリリアだった。


「みんな……っ!」


震える仲間たちを庇うように、両手を突き出して詠唱する。


「——ディフェリス・ドーム!」


発動されたのは、純度の高い魔力による防壁魔法。

魔獣亜種の放つ瘴気と威圧から、仲間たちを包み込むように守りきる。


(これ以上……力を出すわけにはいかない。攻撃なんてしたら、絶対に気づかれちゃう……)


けれど、リリアの心は焦っていた。

防壁だけでは、この脅威を止められない。

攻撃するべきか、でも……街中で、しかもこんなに近くで魔力を放てば——


(どうする……どうしたらいいの……!?)


迷いと葛藤の中、リリアの視線の先で、魔獣亜種の瞳が禍々しく輝いた——。



魔獣亜種が静かに地を踏みしめる。

その背後——黒い裂け目のように、空間がねじれた。


リリアが息を呑むよりも早く、そこから“何か”が出てきた。


——それは、異質なほどに美しく、そして恐ろしい存在だった。


淡く青白い体毛を持ち、二本の湾曲した角。

尾は炎のようにゆらめき、瞳は感情を持たぬまま冷たく輝く。


幻獣亜種『ヴィオレイス』


この大陸でその名を知る者はごくわずか。

だが、放たれる魔力だけが、誰の目にも明らかに“格”の違いを伝えていた。


「……っ!」


まるで、周囲の空気ごと浸食されるような重圧。

ヴィオレイスが顔を上げた瞬間——街中の空気が濁り、瘴気が爆発的に広がる。


「ぐっ……あ、あああ……」

アレンが膝をつき、呻く。ユージンもルーシーも、顔色を失ったまま、倒れ込む。


「まさか……!」


リリアの瞳が大きく見開かれる。


(みんな、意識が……っ!)


彼らが倒れた瞬間、ヴィオレイスの目がゆっくりとリリアをとらえる。

——怒りに満ちた、供物を奪われた“主”の視線。


リリアの指先が震える。


(どうする……? 私が攻撃すれば、きっとこの街の人たちに気づかれる……)


街の明かり、静かな夜の空気、どれも“日常”そのもの。

けれどこの一瞬の選択で、それが崩れるかもしれない。


(でも、みんなを……この街を守るには、もう……)


その瞬間——風が弾けたように、魔力の波動が走る。


「下がれ、リリア!」


その声とともに現れたのは——ギルドマスター。


黒いローブを翻しながら、リリアの前に飛び出すと、すぐさま印を切る。


「——結界・六重展開シェルドーム!」


光の膜が六重に重なり、リリアと倒れた仲間を包み込むように覆った。

外部からの干渉を完全に遮断する、ギルドマスターが誇る最大の防御魔法。


「これで外からは見えん。全力で息を整えろ」


そう言って、ギルマスターはさらに片手を翳し——


「——解呪クラリス


淡い光が3人の額に流れ込み、アレンたちの意識がゆっくりと戻っていく。


「マスター……? これは……」


「動くな。ここから先は俺の仕事だ」


ギルドマスターの眼差しが、ヴィオレイスへと向けられる。


怒れる幻獣亜種が咆哮する。地を砕き、瘴気をばら撒き、災厄そのものを体現したように。


だが——


「《ドミナ・バリオン》」


ギルドマスターが詠唱を終えると、戦場全体が光に包まれた。


それは都市全体を覆うほどの、超広範囲防壁。

ヴィオレイスとその瘴気を閉じ込め、街の安全を完全に保証する結界だった。


リリアは、内側からその光を見つめていた。


(あれが……Sランクの本当の力……!)



ヴィオレイスが、ギルドマスターを真正面から睨みつける。

狂気と怒りをはらんだその瞳から、凶悪な魔力が噴き上がった。


「グルルルァアアアア……!!」


その咆哮が響く前に——


「静かにしろ」


ギルドマスターが、ただ右腕を軽く振る。


瞬間。


魔獣亜種の姿が——消えた。


爆風も音もない。ただ、空間ごと削り取られたかのように、そこにいたはずの魔獣亜種は跡形もなく消滅していた。


リリアたちは言葉を失った。


そして、真打ちである幻獣亜種・ヴィオレイスが、怒りを込めて全力で襲いかかる。


「ギィィイアアアッ!!」


地を踏み砕き、瘴気を震わせながら繰り出される牙と爪。

しかし——それらはすべて、結界に阻まれ、空を裂くことすら叶わない。


ギルドマスターは、一歩も動かない。


「……遅い。」


魔法陣を一切使わず、魔力の圧縮だけでヴィオレイスの動きを封じる。

さらに、彼の右手からほとばしる一条の光が、ヴィオレイスの胸元に吸い込まれるように突き刺さる。


「——滅せよ、《断罪の光矢ジャッジメント・スピア》。」


瞬間、幻獣亜種の体が内部から崩壊を始めた。

鳴き声すら結界に飲まれ、声なきまま、静かに崩れ落ちていく。


「俺に楯突くには……千年、早い。」


ギルドマスターが静かに呟いたその瞬間、戦場は静寂に包まれた。



エピローグ:見上げる背中と、新たな誓い


数分後——


結界が解かれ、夜の空気が静かに戻る。


ギルドマスターは振り返らずに去っていく。

その背中を、ただ呆然と、ルミナスブレイブの4人が見送っていた。


アレンが、拳を握りしめながら呟く。


「……まったく、次元が違うな……」


ユージンが、悔しそうに笑った。


「俺たち、完全に調子に乗ってたかもな……」


ルーシーは顔を上げて、星のない夜空を見上げる。


「でも……いつか、ああなれるのかな。私たちも……」


リリアは、一歩前に出て、その背中をじっと見つめていた。


(ママが立っていたはずの場所。マスターが戦っていたあの場所……

私は、そこに、いつか立てるのかな)


でも——


(……今はまだ、無理。だけど)


小さく、唇を噛み締めたあと、リリアはそっと笑った。


(きっと、いつかは——)


「……あの日見た背中に、いつか届くように」


4人の心には、新たな目標が生まれていた。


かつて見上げた背中を追いかけて——

彼らは、また一歩、歩き出す。


新たな旅路の始まりを告げる、静かな夜だった。

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