勲章
討伐を終え、Fランク & Dランクパーティはギルドへと帰還した。
「おい、あれ……Dランクパーティ『ヴァルキュリア』と、Fランクの奴らじゃないか?」
「まさか……本当に魔獣亜種を討伐したのか!?」
ギルドの前で待機していた冒険者たちが、彼らの姿を見て騒然となる。
「まさかFランクが魔獣亜種討伐に関わったなんて……!」
「嘘だろ……!?」
信じられないといった表情で冒険者たちが口々に呟く。
しかし、彼らの疲労した様子と、Dランクパーティのメンバーが特に険しい表情をしていることが、戦いが本物だったことを物語っていた。
「……よく帰ってきたな」
ギルドの扉が開き、ギルドマスター が姿を現した。
「まずは、戦果の報告を聞かせてもらおう」
全員がギルドの作戦室に通され、戦果の報告が始まる。
レイヴンが代表して、魔獣亜種の出現から討伐までの詳細を説明する。
「……つまり、Fランクのメンバーが支援していたおかげで、俺たちは全力で戦えたわけだ」
「特に、リリアの結界による支援がなければ勝てなかった」
レイヴンの言葉に、Fランクの仲間たちは驚きの表情を浮かべる。
「えっ、リリアが……?」
ユージンが驚きの声を上げる。
「うそ……私はただ、できることをやっただけで……」
リリアが戸惑う中、ギルドマスターは静かに頷いた。
「お前たちの報告が事実であれば、その功績は大きい」
ギルドは報告捏造を避けるため、偵察隊を現場へ派遣し、戦闘の痕跡や魔獣亜種の討伐状況を確認していた。
「すでに偵察隊からの報告が届いている」
ギルドマスターが手元の報告書をめくる。
「現場には、異常なほど広範囲に及ぶ瘴気の痕跡。魔獣亜種の討伐跡も確認された。そして……戦闘の最中、強力な防御結界が展開されていたという記録もある」
その言葉に、リリアは思わず息を呑んだ。
「その結界がなければ、Fランクの冒険者は全員、瘴気で倒れていた可能性が高いと分析されている」
「つまり、お前の結界がなければ、この戦いは敗北していたかもしれない ということだ」
ギルドマスターの言葉に、Fランクの仲間たちは改めてリリアを見つめた。
「リリア……すごいよ……!」
ルーシーが感嘆の声を上げ、アレンは静かに微笑んだ。
「お前たちの功績は、ギルドの歴史に記録されるべきものだ」
ギルドマスターがそう告げ、報告は終わった。
ギルドマスターは静かに立ち上がると、リリアとDランクパーティの4名を見渡した。
「これより、今回の戦果を称え、栄誉の勲章を授与する」
Dランクパーティの4名に続き、Fランクの中で唯一、リリアの名前が呼ばれる。
「リリア・エルフィス」
「……え?」
リリアは自分の名前が呼ばれたことに驚き、周囲を見回す。
「お前の結界がなければ、討伐は成し得なかった。その貢献を称え、この勲章を授与する」
ギルドマスターが手にした 金色の勲章 を差し出した。
「この勲章は、国の危機に貢献した者に贈られるものだ」
リリアは戸惑いながらも、勲章を手に取る。
「私が……?」
「リリアがいなければ、討伐は成り立たなかった」
レイヴンがはっきりと言い、Dランクのメンバーも頷く。
Fランクの仲間たちも祝福し、周囲の冒険者たちもざわめいた。
「Fランクで勲章持ちは……前代未聞の快挙だぞ……!」
「こいつ、本当にFランクなのか?」
「いや、Fランクであっても、この功績は本物だ」
ギルドマスターが静かに告げた。
「ちなみに……」
ギルドマスターは、勲章を握りしめるリリアを見つめながら続けた。
「歴代で最も多く勲章を持つ者が誰か、知っているか?」
リリアは驚き、仲間たちも息を呑む。
「それは……お前の母、エレノア・エルフィスだ。彼女は18個の勲章を受けた、史上最多の英雄だった」
リリアの目が大きく見開かれる。
「……ママが……?」
「彼女によく似た暖かい魔力を持っているのだな」
ギルドマスターの言葉に、周囲がどよめく。
「エレノア・エルフィス!? まさか、あの伝説のエレノア様の娘だと!?」
「だからFランクで勲章なんて前代未聞のことが起こるんだ……!」
「血筋からして、とんでもない逸材じゃないか!」
ギルド内は一気に騒然となり、冒険者たちは口々に驚愕の声を上げる。
リリアは周囲の反応に戸惑いながら、ギルドマスターを見つめた。
「そして……私は当時Sランクの冒険者として、お前の母親と共に竜族亜種の討伐に向かった」
リリアは息を呑む。
「その結果……彼女は、敗れた」
その言葉に、場が静まり返る。
「私は生き延び、ギルドへと戻ったが……彼女は、二度と帰ってこなかった」
リリアは、その事実を初めて聞かされ、言葉を失った。
「今でも私は、彼女が戻れなかったことを悔いている」
ギルドマスターはリリアを真っ直ぐに見つめる。
「後日、君には彼女のことをもっと詳しく話そう……」
リリアはその言葉を胸に刻む。
ギルド内の興奮が落ち着いた頃、ギルドマスターが力強く声を張り上げた。
「今回の戦果を鑑み、ルミナスブレイブに Eランクへの昇格 を提示する」
「え……!?」
ルーシーが驚きの声を上げる。
「俺たちが……Eランクに?」
ユージンが信じられないといった表情を浮かべた。
「Fランクの範疇を超えた戦いをしたのは明らかだ。通常ならば、今回の功績だけで十分に昇格に値する」
ギルドマスターの言葉に、一同は喜びの表情を見せた。
「やった……! 俺たち、ついに……!」
しかし——
「待って……」
アレンが静かに声を上げた。
「……正直に言うと、今のままではEランクの実力には届いていない」
その言葉に、仲間たちが息を呑む。
「確かに、俺たちは今回の戦いで大きく成長した。でも、今のままじゃ魔獣とまともに戦えるほど強くなったとは言えない」
リリアはアレンの言葉に頷く。
「今、Eランクに上がったら、それに見合う実力が求められる……。でも、今の私たちじゃ、Eランク相応の仕事をこなせるとは思えない」
ルーシーが苦笑しながら、納得したように言う。
「こんなこと、普通ならありえないのにね。昇格のチャンスを自分たちで蹴るなんて……」
ユージンも腕を組み、真剣な表情を浮かべる。
「……でも、アレンの言う通りだ。今の俺たちはまだ半人前だ」
そして、アレンがギルドマスターを見据え、代表して申し出た。
「ギルドマスター。今回の昇格の話は、辞退させてもらいたい」
ギルド内が静まり返る。
しばらくの沈黙の後、ギルドマスターはゆっくりと微笑んだ。
「Fランクでこれほど冷静な判断ができるのも珍しいな」
その言葉に、ルミナスブレイブのメンバーたちは驚く。
「俺たちはまだ、もっと鍛えるべきだ。しっかりと実力をつけて、その時が来たら……」
アレンの言葉に、ルーシーとユージン、そしてリリアも強く頷いた。
「……次こそ、堂々とEランクに上がれるようになろう」
ルミナスブレイブのメンバーは決意を新たにし、その場を後にした。
ルミナスブレイブが昇格辞退を決意し、静かな空気が流れる中——
「フン……お前たち、なかなか面白い判断をするじゃねぇか」
ロキが腕を組みながら口元を歪める。
「Fランクの分際で昇格のチャンスを蹴るなんて、よほど自分たちの実力を理解してるってことか?」
レイヴンが興味深そうに彼らを見つめた。
「いや、むしろいい判断だ。実力が伴わないまま上に行けば、待っているのは無謀な戦いと死だけだからな」
ヴァルキュリアの4人がFランクたちを見つめる。
そして——
「だったら……俺たちが鍛えてやるよ」
レイヴンが静かに言い放った。
「……え?」
アレンが驚いて目を丸くする。
「お前たちは、国の重要戦力になり得る逸材だ」
レイヴンが真剣な表情で続ける。
「特にリリア、お前は大きなポテンシャルを秘めている」
その言葉に、リリアは肩を震わせた。
「しっかりと指導しなければ、もったいない」
「つまり……」
ヴィクトリアがニヤリと笑う。
「私たちが、お前たちを地獄に叩き込んでやるってことだ」
「うっ……」
ユージンが反射的に一歩引く。
「俺たちが鍛えてやる、文句はないな?」
ロキが不敵な笑みを浮かべる。
「マジで!? ぜひお願いします!!」
アレンが即答し、ルーシーも目を輝かせる。
「すごい、ヴァルキュリアに指導してもらえるなんて……!」
「これ、もう絶対強くなれるじゃん!」
一同は歓喜し、互いに喜び合った。
——しかし、リリアだけは少し複雑な気持ちだった。
(本当の実力を隠しながら鍛えられるの、大変そう……)
「……覚悟しろよ?」
レイヴンの言葉に、ルミナスブレイブの修行の日々が幕を開ける——!
ギルドマスターは腕を組みながらヴァルキュリアを見据えた。
「……とはいえ、お前たちに無償で教育を任せるわけにはいかないな」
「え?」
アレンが不思議そうに首を傾げる。
「これは立派な指導だ。ならば、正式なクエストとして依頼し、報酬を支払うのが筋というものだ」
ギルドマスターは手元の書類に何かを書き込み、印を押す。
「よって、ヴァルキュリアには『ルミナスブレイブ育成』という特別クエストを発注する」
「育成クエスト……!?」
ユージンが驚きの声を上げた。
「つまり、ギルドが公式に俺たちを鍛えるよう依頼したってことか……」
「その通りだ。報酬もギルドが負担する。お前たちが実力をつけることで、将来的にギルド全体の戦力が向上するのだからな」
「俺たち、ギルド公認で鍛えてもらえるってことか……!」
一同が驚きと興奮を隠せない。
「クエストだからって手加減はしないぞ」
ヴィクトリアが笑いながら言う。
「むしろその方が燃える!」
アレンたちはやる気をみなぎらせた。
こうして、正式に 育成クエスト が開始された。
ヴァルキュリアはルミナスブレイブのメンバーを訓練場に連れて行き、まずは 基礎能力の測定と戦闘訓練 を行うことになった。
「まずはお前たちがどこまでやれるのか、見せてもらうぞ」
レイヴンが鋭い目つきで言う。
ルミナスブレイブのメンバーはそれぞれの 魔法の特性や戦闘スタイル を披露する。
ユージンは防御魔法の強度を試され、ルーシーは回復魔法のスピードと効果を確認される。
アレンは攻撃魔法の精度と威力を測定され、リリアも例外ではなかった。
(……ここで目立ちすぎるとまずい。ちょうどいい強さを演出しないと)
リリアは なるべく目立たないように“ちょうどいい”強さを演出しながら戦う。
しかし、それでも——
「やっぱり、リリアはどこか普通じゃないな……」
ヴァルキュリアのメンバーが興味を持ち始める。
「もっと強くなりたい!」
アレンが拳を握る。
「私も!」
ルーシーが意気込む。
「ならば、覚悟しろよ」
レイヴンが鋭い笑みを浮かべる。
「——地獄の訓練をな!」
こうして、新たな成長のための修行の日々が始まった——