【緊急クエスト】ギルドからの依頼(後編)
Dランクパーティ「ヴァルキュリア」の魔法が炸裂し、獣の群れが一瞬で消滅した。
「……終わったのか?」
ユージンが息を切らしながら呟く。しかし、戦場にはまだ異様な気配が漂っていた。
「いや……何かがおかしい」
レイヴンが鋭い目つきで周囲を見回す。
次の瞬間—— 獣たちが消えた場所に、黒く歪んだ魔力の渦が現れた。
「……あれは?」
リリアが思わず声を漏らす。
「どうやら、あの歪みから獣が湧き出しているようだな……」
レイヴンが低く呟いた。
「このまま放っておいたら、また無限に増え続ける可能性がある」
カレンが慎重な口調で言う。
「ならばまずは、封じてみよう」
アメリアが結界魔法を展開し、歪みを覆う。
すると、湧き出ようとした獣が姿を現す前に浄化されることが確認できた。
「よし……これなら——」
「このまま歪みを消せたら、何事もなく終わるんだけどな……」
ヴィクトリアが淡く微笑む。
しかし——
「いや、そんなに甘くはないだろうな」
ロキが鋭い視線を送る。
次の瞬間、歪みがビクともしないどころか、突如として拡大を始める!
「っ!? これは——」
地面が振動し、空気が重くなる。
「……異常事態が発生するぞ!!」
レイヴンが叫び、全員が構えを取った。
そして、歪みの奥から異様な気配が放たれた——。
歪みが急激に広がり、黒い霧のような魔力が渦を巻く。
「……なんだ、この圧迫感は?」
ユージンが歪みの奥を睨みつける。
次の瞬間——
ゴウッ!!
黒い霧が弾け、巨大な影が姿を現した。
「っ……!? あれは……魔獣……!!」
アレンが目を見開いた。
これまでの獣とは明らかに違う。
重厚な体躯、鋭い爪、赤く輝く双眸。
その存在感だけで、空気がピリつく。
「結界内なのに……消えない……」
ルーシーが驚きに息を呑む。
「つまり、獣とは違い、魔獣は結界を突破できる強さを持つということね……」
カレンが冷静に分析する。
「Fランクは危険だから下がっていろ!」
ヴィクトリアの声が戦場に響く。
「こんなもん、まとめて吹き飛ばしてやる!!」
彼女が空中に魔法陣を展開し、手をかざす。
「——デトネイトバースト!!」
ズドォォォォン!!
凄まじい爆発が戦場を包み込み、地面が大きく抉られる。
炎の閃光が辺りを照らし、一帯は焼け焦げた瓦礫と化した。
Dランクパーティ vs 魔獣の戦いが、今始まる。
「アメリア、お前はそのまま歪みを抑え続けろ!」
レイヴンの声に、アメリアは深く頷いた。
「わかってる……! でも、長くはもたない……!」
アメリアは歪みの力を封じるため、結界を張り続けている。
そのため 戦闘には参加できない。
「なら、俺たちで片付けるしかないな」
レイヴンが腕を鳴らし、前線に立つ。
Dランクパーティ vs 魔獣軍団、開戦!
「ヴィクトリア、援護頼む!」
「派手にいくわよ!」
ヴィクトリアの手から 灼熱の爆発魔法 が放たれ、魔獣の群れを包み込む。
ドゴォォォン!!
爆炎が炸裂し、数体の魔獣が一瞬で吹き飛ぶ。
「ロキ!」
「任せろ……闇縛!」
ロキの 闇縛魔法 が展開され、残った魔獣たちの動きが一気に鈍る。
「止まったな……なら——」
レイヴンが 雷を纏い、一閃!
「サンダーブレイク!!」
バリバリバリィィッ!!
雷撃が魔獣を貫き、焼き尽くす。
魔獣たちは 全く反撃する隙もないまま次々と消滅していった。
「……すごい……」
ルーシーが呆然と呟いた。
「これが……Dランクの実力……?」
ユージンが息を飲む。
圧倒的な力の差。
Fランクとは、 まるで別次元の戦闘 だった。
「こんな戦い方、俺たちじゃ到底……」
アレンが悔しげに拳を握る。
しかし——
「……いや、まだ終わってないぞ」
レイヴンが険しい表情で歪みを見つめた。
「おかしい……いくら倒しても、歪みが閉じる気配がない……」
その言葉に、Fランクたちは戦慄する。
「倒し続けるだけじゃ、何も変わらないってことか……?」
「……違う……何かが……来る……!」
カレンが震える声で呟いた。
次の瞬間、歪みの奥から異質な魔力が放たれた——。
ゴォォォ……ッ!!
戦場に異様な圧力が満ちる。
歪みの中心から、これまでの魔獣とは 格が違うほどの巨大な魔獣亜種 が姿を現した。
「……これはヤバい」
レイヴンが真剣な表情で魔獣亜種を睨みつける。
Fランクの一同は、あまりの強大な魔力に圧倒され、動けなくなる。
「な、なんだこの瘴気……!? 体が……重い……!!」
アレンが膝をつき、ユージンも苦しげに息を吐く。
ルーシーは倒れそうになり、ブレイズハウルやアイスリーフのメンバーも次々と 瘴気にあてられ、意識を失いかける。
「くっ……動けない……!」
ミナが歯を食いしばりながらも、力が入らない。
しかし——
リリアだけは瘴気の影響を全く受けていなかった。
(……私は大丈夫。でも、みんなが……!)
リリアは自分の異常なまでの耐性を隠すため、 しんどそうに肩で息をするフリをする。
「まずい……このままだと、Fランクの子たちが……!」
アメリアが即座に 浄化の結界を展開し、Fランク一同を瘴気から守る。
「この魔獣亜種……私が結界を張り続けないと、Fランクの子たちが持たない!」
アメリアの結界により、Fランクたちはなんとか持ちこたえる。
しかし——
「……となると、アメリアは戦えないな」
ロキが険しい表情で呟く。
「一人足りない状態で……この相手か……」
Dランクパーティのメンバーは、 戦況が一気に不利になったことを悟った。
魔獣亜種が唸り声を上げ、圧倒的な威圧感を放つ。
「……行くぞ!!」
レイヴンが叫び、ロキとヴィクトリアがすぐに反応する。
Dランクパーティ vs 魔獣亜種の戦いが幕を開けた。
レイヴンの雷撃魔法が魔獣亜種に直撃する!
バリバリバリッッ!!
しかし——
「……っ!? 全然効いてない……!?」
雷撃の直後、魔獣亜種は ほぼ無傷 で立っていた。
「ならば——」
ロキが 闇縛魔法 を放つ。
しかし、魔獣亜種は 強引に闇の鎖を引きちぎり、咆哮を上げる!
「くそっ……!」
ヴィクトリアが 爆発魔法をチャージするが——
魔獣亜種が先に 瘴気の爪を振るい、カウンターを繰り出した!!
「っ……!!」
ヴィクトリアが咄嗟に回避するが、 爆発魔法の詠唱が中断される。
「……やばい、マジで勝てないかも」
レイヴンが焦りを滲ませながら呟く。
魔獣亜種の一撃一撃は、 Dランクのメンバーですら捌ききれないほど強烈だった。
「攻撃が全然通じない……!」
ロキが苛立ちを滲ませる。
「くそっ、アメリアが戦えれば……!」
しかし、アメリアは 結界を張り続けなければならない。
「……誰かが代わりに結界を張れれば……!」
ヴィクトリアが苦しげに叫ぶ。
Dランクのメンバーは次第に 追い詰められ始めていた——。
魔獣亜種が咆哮を上げる。
その圧倒的な瘴気が広がる中、Dランクの3人は苦戦を強いられていた。
「このままじゃ……!」
ヴィクトリアが息を切らしながら叫ぶ。
「誰かが代わりに結界を張れれば……!」
その言葉に——
「私が……やります!」
リリアの声が戦場に響いた。
「はっ……?」
ヴィクトリアが振り返る。
「Fランクの君に、そんな高度な結界が張れるわけないだろ……!」
ロキが驚愕の表情を浮かべる。
しかし、リリアは 限界ギリギリ怪しまれない程度の魔力出力 で結界を展開する。
「……っ!」
瞬間——
ドォン……!
光が広がり、リリアの結界がFランクの仲間たちを包み込んだ。
「な……!?」
ロキの目が見開かれる。
見事にFランク一同を守ることに成功していた。
「……なるほど、君はやっぱり普通じゃないね」
アメリアが結界を確認しながら、興味深そうに呟いた。
「いや……これは……」
リリアは焦る。
「た、たまたまうまくいっただけです!」
必死に誤魔化す。
Fランクの仲間たちは リリアの成長を実感する。
「すごいよ、リリア……!」
ルーシーが感動したように微笑む。
「これなら……俺たちももう少し戦えるかもしれない!」
アレンが拳を握る。
そして——
「よし、行くぞ!」
アメリアが戦場に復帰し、 Dランクパーティが完全戦闘体制に!
「こっからが本番だ……!」
レイヴンが雷撃を纏い、再び前線へ。
Dランクパーティ vs 魔獣亜種、最終決戦が始まる——!
リリアが張った結界に守られながら、アメリアが前線に戻る。
「これで、ようやく全力を出せる!」
レイヴンが嵐を纏いながら叫ぶ。
4人揃った Dランクパーティ「ヴァルキュリア」 は、明らかに空気が変わった。
「——さあ、ここからが本番だ!」
魔獣亜種は 命を削って魔力を高め、瘴気をさらに強化する。
「……ッ!! さらに瘴気が濃くなってる……!」
Fランクの仲間たちは苦しそうに膝をつく。
しかし、リリアだけは まったく影響を受けていない。
(本当は平気だけど……ここで普通にしてたら、さすがにおかしいよね……?)
リリアは しんどそうに息を切らし、肩で息をするフリをする。
「ギリギリ……大丈夫だから……早く仕留めてください……」
その演技は 戦場の緊張感と相まって、あまりにリアルに見えた。
「リリア……お前……!」
ヴィクトリアが リリアの献身的な耐久に胸を打たれたように歯を食いしばる。
「……よし、やるぞ!!」
「アメリア、時間を稼ぐ!」
「任せて!」
アメリアが 巨大な結界で魔獣亜種の動きを封じる。
「ロキ、ヴィクトリア!」
「了解!」
ロキが 闇縛魔法で動きを完全に封じ、ヴィクトリアが圧縮した爆発魔法を溜める。
「レイヴン、行くぞ!」
「応ッ!!」
4人の魔力が収束し、全ての力を一点に叩き込む。
「——ヴァルキュリア・クライマックス!!」
雷・爆発・闇・結界の複合魔法が炸裂し、魔獣亜種を包み込む。
「——ギャアアアアアアアッ!!!」
魔獣亜種は 壮絶な絶叫を上げ、完全に消滅した。
「……終わった……?」
瘴気がすうっと消え、空間の歪みも収束していく。
「歪みも……消えたみたいね」
アメリアが確認し、レイヴンは深く息を吐いた。
「……やっと終わったか……」
討伐を終え、戦場は静まり返る。
しかし——
「リリア、大丈夫か!?」
ユージンが心配そうに声をかける。
「もう魔力、残ってないだろ……」
(……いや、むしろ余裕なんだけど)
完全に元気なリリアは、疲労したフリをしながら微かに頷く。
「……もう……立てない……かも……」
「おい、無理すんな!!」
アレンが慌ててしゃがみ込み、リリアを背中に乗せる。
「帰るぞ、お前ら!!」
Fランクたちは支え合いながら、ギルドへ帰還を開始する。
しかし——
「……ん……」
リリアがアレンの背中で すやすやと寝息を立て始めた。
「おいおい、マジか……」
ユージンが苦笑し、ルーシーも肩をすくめる。
「ていうか……」
アレンの背中を見て 既視感を覚えた仲間たちが、クスクスと笑い出す。
「またヨダレついてるぞ、アレン……」
「……なんかデジャヴ!!!」
仲間たちの笑い声が響く中、リリアは 何も知らずに気持ちよさそうに眠っていた。
こうして——
FランクとDランクが共に戦った、異常事態の討伐は幕を閉じたのだった。