プロローグ:封じられた魔力
暗闇の中で、少女は静かに佇んでいた。
手首に巻かれた銀色の腕輪が、かすかに光を放つ。
「……また、少し熱くなってる」
彼女は無意識に腕輪を撫でた。ずっと身につけているそれは、母の形見。魔力を抑えるための封印具。彼女の魔力は特別で、この腕輪がなければ——。
——世界が壊れる。
彼女はまだ知らない。自分の力が、母のそれを遥かに超えるものだということを。
「では、次の者。魔力測定を始める。」
広場の中心、巨大な魔力測定器が設置されている。
今日はギルド入団の適性試験の日だった。並んでいた候補生たちが一人ずつ測定器の前に立ち、魔力量を測定される。強い魔力量を持つ者はギルドの上位チームへ、そうでない者は雑務係となる。
彼女は深呼吸し、ゆっくりと一歩前に出た。
(大丈夫、腕輪がある限り、私は普通の人間のまま——)
測定器に手をかざす。
瞬間——。
バチッ!
閃光が走り、測定器が震え始める。
「な、なんだ!?」
「おい、壊れたんじゃないのか?」
見守っていた試験官たちがざわめく。測定器は異常なほどの魔力量を感知し、赤い警告灯が点滅していた。
(ダメ、バレる……!)
彼女は咄嗟に手を引いた。
その瞬間——。
ドォンッ!!
測定器が爆発した。
煙が立ち込め、周囲は騒然となる。試験官たちが駆け寄り、彼女を見つめた。
「お、お前……まさか……?」
彼女は逃げた。
このままでは正体がバレる。
自分の魔力が普通ではないと知られたら、母のように戦場へ送り込まれ、“世界のため”と称して利用されるだけの存在になる。
そんなのは——絶対に嫌だ。
街を駆け抜け、人気のない裏路地へと走り込む。肩で息をしながら、彼女は腕輪を握りしめた。
「……どうしよう……」
すると、
——お前はもう抑えきれない。
静かに、温かく、それでいて懐かしい声が響いた。
「……ママ?」
彼女はハッとして腕輪を見つめた。
「生きてるの……?」
しかし、返事はない。
ただ、腕輪は静かに光を放ち続けていた——。