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第61話 お兄様、散る

「クハハハハッ!やったか!?」


 俺様の圧倒的な魔力によって引き起こされた大爆発。

 それは火属性の魔術の使い手故に、炎に強い耐性を持つ俺様ですらそうそう近づく事もできない程の熱量だった。


 十数秒後、ようやく立ち込めていた煙が吹きちり少しずつ視界が開けてくる。


 さて、魔王の死に様を拝んでやるとするか。

 跡形も残ってないかもしれねぇがなぁッ!


 俺様は逸る気持ちを抑えて戦果を確認すべく、ゆっくりと歩みを進める。

 完全に硝煙がたち消えた時、そこにあったのは––––


「なっ!?」


 俺様の放った炎の魔術によってドロドロに溶けた鎧の残骸、そしておそらく10代前半だと思われる真っ白な髪をした赤目のメスガキがいやがった。

 鎧が溶けてなくなった事で姿を現したメスガキはヒナミナや奴の妹が着てるような巫女装束を纏っていて、どこかその容姿はレンに近しい物を覚える。


 にしてもまさか魔王がこんなガキだったとは––––完全に人間じゃねぇか。

 ……いや、んな事はどうでもいい!


 何で俺様の魔術をまともに受けて生きているどころかダメージすら受けてねぇんだよぉッ!?


 メスガキ、もとい魔王が俺様を見てまるで息のいい獲物を見つけたと言わんばかりにニヤリと笑みを零した。

 ……やべぇ、近づきすぎたか!?


 俺様が何とか呼吸を整えて急いで魔力を練りはじめようとしたその時––––


「【炎帝の一閃(フレアモナクブレード)】!」


 魔王の背後から親父殿が現れ、炎を纏ったミスリル製の大剣を凄まじい勢いで叩きつけた!

 俺様の窮地にこれ以上ないタイミングで現れるとはさすが俺様の親父殿だ!


 だが魔王はそんな親父殿の強烈な一撃を左手に金色の金属を纏わせ掲げる事で易々と受けきりやがった。

 バケモンか、こいつ……!


 あっさりと攻撃を防がれたものの、それでも親父殿は魔王に向けて果敢に大剣を振い続ける。


「何をしているガネット!早く撤退しろ!!」


「う……ああああああああああぁッ!!」


 親父殿の声に急かされるままに、俺様はその場から駆け出した。

 あの魔王はやべぇ。

 親父殿の全力の一撃を片手で軽々と受け止めるなんざ、あのゴリラ(ガイア)でもできやしねぇぞ!?


「旦那様に続けぇッ!ヒナミナ殿が来るまで何としてでも持ち堪えろ!!」


 後ろでセルバスの怒号が響き渡り、振り向くと雑魚の兵士どもが魔王に向かって突撃していくのが見えた。


 助かったぜ!

 あいつらじゃぜってぇあの魔王には勝てねぇだろうが、俺様が逃げる時間を稼ぐには––––


「【地層隆起(アースバウンド)】」


 俺様が安心したのも束の間、魔王が魔術名を唱えると親父殿や兵士どものいる地面がとんでもねぇ勢いで上へと突き出て、あいつらの身体を宙へと跳ね上げる。

 洒落にならねぇ高さから落下した親父殿達は苦しそうに呻き声をあげ、あっという間に行動不能にされちまった。


 クソが!時間稼ぎにすらならねぇのかよ!


 傍に控えていた護衛の女騎士に庇われた事で無傷で済んだらしい聖女カリンが傷付いた兵士達に駆け寄って治療を始めたようだが、今の俺様にそんなどうでもいい事を気にしてる余裕はねぇ!

 早くこの場からトンズラ––––


「【飛翔(フライング)】」

「!?」


 魔王が魔術名を唱えると、暴風とともに凄まじい勢いで俺様の目の前までかっ飛んできて、ぶつかる直前で急停止しやがった。

 ……おい、今のはレンが使う飛行魔術と一緒じゃねぇか!


 こいつ、土属性の魔術の使い手なんじゃねぇのかよ!?

 なんで風属性の魔術まで使えんだ!!

 つうか、俺様を追いかけんならせめてあそこでぶっ倒れてるカス共にトドメを刺してからにしろよ!!!


 いつの間にか再び金色の鎧を全身に纏っていた魔王はまるで気取った紳士のような仕草で俺様に向けて一礼してみせた。

 恐ろしさと気持ち悪さのあまり、俺様の心臓がバクバクと悲鳴をあげる。


「あああああああああッ!!!【炎神の裁きアグニッシュジャッジメント】ォッ!!!」


 生命の危機に瀕した為か普段とは段違いの速さで身体に残る魔力全てを練り上げた俺様はそのまま目の前の魔王に向けて全力で魔術をぶっ放した。

 地形が消し飛ぶ程の威力の爆発が魔王を呑み込む。


 もうここで魔力が尽きようが関係ねぇ!

 とにかくこいつをぶっ殺せればそれでいい!!


 魔力を使い果たした俺様はそのまま尻餅をついた。

 もう動ける気がしねぇ。

 なんか魔力だけでなく、俺様の身体の中で何かが音を立ててぶっ壊れちまった気がするが、気にしてる余裕もねぇ。


 噴煙が開けた先には––––


「ハ……ハハッ!」


 纏った鎧は全て溶け、左腕が消し飛んだ無様な姿の魔王がいた。


 ざまあああああああああああみやがれ!!!

 このクソメスガキが!

 大人を舐めた挙句、あろうことかちっとばかしとはいえこの俺様をビビらせやがって!


 もうまともに魔術を使えるだけの魔力も残ってねぇがこんな死に損ない、今の俺様でも簡単に––––


「【回復(ヒール)】。【再生する鎧(アンブレイクアーマー)】」


「……は?」


 魔王が魔術名を唱えるとあっという間に焼き切れた筈の左腕が再生され、そこに再び金色の金属が張り付いて鎧と化しやがった。


 どういうこっ――ぶちぃっ!!


「あ?」


 気持ちわりぃ音が聞こえたと思えば、急に俺様の左側の重心が軽くなって、そのまま右側に倒れかけた所をなんとか踏ん張って堪える。

 俺様は何があったのか確認すべく、自分の左半身に目を向けると――


「ぎゃああああああああぁッ!!!なんじゃこりゃああああああああッ!!!!!」

 

 肘から先にかけて俺様の左腕が無くなってるじゃねえかああああぁッ!?

 しかも失われた肘の先からドバドバと真っ赤な血が噴き出してやがる!!?


「ひいいいいいいぃッ!!痛えよおおおおおおおぉッ!!!」


 俺様が自分の身に何が起きたかを理解した瞬間、とんでもねぇ激痛が襲ってきやがった!

 たまらず地面をゴロゴロと転がって痛みのあまり絶叫する。


「……」


 そんな俺様を見下している魔王はつまらなさそうに自分の右手に持った何かを後ろにポイッと捨てやがった。

 あれは……俺様の左腕じゃねえかああああぁッ!?


 こいつ、まさか腕力だけで俺様の左腕を引きちぎったって言うのかよぉッ!!? 


「はぁ……ぴーぴーうるさいですねぇ、この羽虫は」


 今までロクに口を開かなかった魔王はあろうことか俺様を羽虫呼ばわりすると、ゆっくりと近付いてきた。

 だが俺様は激痛のせいでもはや逃げる事すらできねぇ。


「があああああああああぁッ!!来るんじゃねええええええええぇッ!!!」


 魔王に殺意を向けられ発狂寸前の俺様はこれまでずっと目を逸らし続けてきたある事実に向き合わざるを得なくなってしまう。


 くそっ––––


 思い返せばこのメスガキ魔王以外、今まで誰一人として俺様を本気で倒そうとしてきたような奴はいなかったじゃねぇか……!



 例をあげれば去年の武闘大会で戦ったガイアは明らかに俺様を戦闘不能にするべく取るような立ち回りをしてなかった。

 それはおそらく俺様に大怪我でもさせたりしたら親父殿との関係がめんどくせぇ事になる事を避けた結果だろう。


 あの無礼な女、ヒナミナもそうだ。

 親父殿と契約をしたヒナミナは全力で殺しにかかった俺様に対し、せいぜい腹パンして脅してくるぐらいしかしてこなかった。


 たまにあるバレス辺境伯軍の一員として参加した魔物の討伐に関しては必ずしもそうじゃねぇが、その時はいつも俺様の周りを兵士どもが守っていた。

 俺様は常に自分が被害を被らない安全な立ち位置から魔物どもを圧倒的な威力の魔術で蹴散らす事ができたんだ。


 この極限状況にて、俺様はいつも親父殿に守られてきた事実を痛感してしまう。

 っつうかそもそもさっきだって親父殿本人が真っ先に俺様と魔王の間に入って俺様を逃がそうとしてたじゃねぇか。


 一人で何でもできると思い上がっていた俺様は自分が親父殿の加護がなければ身ひとつ守る事すらできない弱者である事を認識して愕然とする。

 そしてその親父殿はぶっ倒れていて、もはや行動できるような状況じゃねぇ。


 つまり……終わった。


 魔王が俺様に向けて拳を振り上げる。


「お兄様!」


 最後の最後で聞きたくもない煩わしい声が聞こえてきやがった。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 お兄様は身勝手な行動を弁え味方と連携を取れば魔王との闘いでも十分戦力になれるだけの力はありました。

 身勝手な行動を弁えれば(叶わぬ願い)。


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