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第60話 金色の魔王

    △△(side:スレット)


「……完成だ」


 空に昇る月から放たれる赤い光が魔の森へと差し込む中、僕は目の前の白髪の少女にミーバルと次代の魔王の魔石を埋め込む作業を終えた。


 時刻は深夜24時。

月が一番大きい日(スーパームーン)】、新たな魔王が生まれるとされる今日この時を僕は最後の作品公開の場として定めた。

 今はもうこの世にはいないミーバルもおそらくそれを望んでいるだろう。


 僕は少女に埋め込んだ魔石に触れる事でその機能を起動させる。

 普段はこんな無謀な事はしない。

 理由は完成させた作品が襲いかかってくる事もあり得るからだ。


 だからこそ前の作品である融合魔龍フュージョン・ドラゴンは素体である片方の雷竜サンダードラゴンの命が危機に瀕した時に片方がそれを取り込む事によって完成するようプログラムした。

 そして、そういった処理をする事は当然この新たな魔王に対してもできたのだけれど。



 僕はもう、どうでもよくなっていた。



 今までの研究成果は全て処分してしまったし、この先僕が新たに作品を創る事もない。

 別に死にたい訳じゃないけど、どうしても生きていたいわけでもない。


 目の前の少女の瞳が開き、その赤色の眼光が僕を見定めた。


 白髪に真紅の瞳を携えた十代前半と思われる少女。

 彼女が着込んでいる修繕した白衣と赤の袴はヒナミナやクレイの物と酷似している。


 もしかしたら彼女達とも何らかの繋がりがあったのかもしれないが、もはや意味のない話だ。


 続いて少女は自分の身体に目をやると、ぺたぺたとその小さな掌で触れ始めた。

 まるで新しい身体の機能性を確かめるかのように。


 そして確認が終わると最後に拳を握り締め、力を込める。


 少女から膨大な魔力が放出された。

 その余波だけで凄まじい風圧が叩きつけられ、思わず脚がすくむ。


 魔力量、推定50000。

 元々の少女が持つ魔力量25000に加えてミーバルの5000、そして次代の魔王の20000。


 少女はもはや生物としての格が違う存在となっていた。

 視線が再び僕とかち合う。


 殺されると思った。


 僕が彼女に埋め込んだ魔石にプログラムした行動の内容は一般的な魔王としての欲求である人類の抹殺のみだけれど、それ以外の習性は基本的には元になった生物とほぼ同じ物になるのが通例だ。

 であるなら、実験材料として1年以上もの間彼女を眠らせ続けた僕が攻撃対象として選ばれるのも自然な流れなのかもしれない。


 少女は握りしめた拳をほどくと––––


 腕を胸に当てるようにして、僕に向けて優雅に一礼をしてみせた。


「……ミーバル?」


 その上等な使用人のような仕草はどことなく先日まで僕と行動を共にしていた同胞を思わせた。


 もはやただの魔石となり果てたミーバルに少女の行動に影響を与える術はあるのだろうか。

 1000年近く無力に苛まされ続けながらも生き延びてきた彼の執念ならあるいは有り得るのかもしれない。


 少女は僕に背を向けると、そのままゆっくりと歩み始める。


「【再生する鎧(アンブレイクアーマー)】」


 澄んだ声質で少女の口から魔術名が唱えられた。

 すると、まるで空気中から滲み出るように液体のような金色の金属が現れ、少女の全身を守るように覆っていく。


 土属性の魔術は魔力をより研ぎ澄まし、注ぎ込む事で一時的に金属を顕現させる事ができるようになる。

 しかし、あれほどの質と量を兼ね備えた魔術を見たのは初めてだ。


 僕が創り上げた最後の作品、命名するならば【大魔王(サタン)】とでも呼ぶべきだろう。


 少女が持つ風の魔力、次代の魔王が持つ土の魔力、そしてミーバルの持つ治癒の魔力。

 その全てを併せ持つ最強の、そして史上最凶の存在が今解き放たれた。



 少女が歩みを進める最中、僕はその姿が見えなくなるまで一歩も動く事ができなかった。



    △△(side:ガネット)



「【炎閃牙(フレアファング)】!」


 親父殿の放つミスリル製の大剣に炎を纏わせた一閃が目の前のオークを真っ二つにしながら焼き尽くす。

 現在、世界最強の魔術師たる俺様を要する本隊は順調に湧いて出てきた魔物どもの殲滅に成功していた。


 にしても部下の士気を高める目的もあるんだろうが、相変わらず領主の癖にやたら前へ出る出しゃばりなオッサンだ。

 俺様のように些事は周りの雑魚どもに任せてふんぞりかえってりゃあいいっつうのに。


「【回復(ヒール)】。怪我をした人は遠慮せず申し出てくださいねぇ。すぐ直しますから!」


「ありがとうございます、聖女様!」


 親父殿が大剣を振るう傍らで桃色の髪と瞳を持つ修道服に身を包んだ女、聖女カリンが怪我を負った兵士共を一瞬で治療していた。

 この女はヒナミナ以上にいい身体をしている上に老若男女問わずめちゃくちゃ人気があるが、俺様はこいつがとんでもねぇ人格破綻者である事を知っている。


 なにせ俺様の次期辺境伯婦人にしてやるという誘いに対して俺様の股間にある俺様を潰してから出直してこいなどとぬかしやがったんだからなぁッ!

 最近はヒナミナのちんちくりんな妹と頻繁に相引きしてるだとか耳に入ってきやがるし、やっぱレズってクソだ。


「旦那様」


 俺様がこうして思い出したくもない事が頭に浮かんでイライラしている最中、年老いたジジイ、執事長のセルバスが音もなく親父殿の側に現れた。

 このジジイは若い頃はかなりやる奴だったそうだが、今でも隠密性が求められる任務では斥候として重宝されてるらしい。


「セルバスか。何か見つけたか?」


「はい。ここから北に1kmほど進んだ先にとんでもない怪物を発見しました。おそらく今日産まれ落ちた魔王であると思われます」


 セルバスの報告に周りの兵士がざわつき始めた。

 こいつの話を要約するとこうだ。


 ここからしばらく行った所に金色の鎧を纏った異形がいるらしい。

 セルバス曰く、遠目で見る限りではあるが、そいつの魔力量はおそらくあのゴミ(レン)を超えているだとか。


 クソ生意気にも俺様の魔力量を超えているカス女を更に上回る魔力量を持つ化け物。

 間違いねぇ、そいつが魔王だ!


「ガイア殿とヒナミナ殿の隊に伝令しろ。戦力を結集させ、魔王を一気に叩く」


 ……親父殿が兵士達に命令を飛ばしているがそうはさせねぇ。

 魔王はこの俺様が倒すんだからよぉ!


 命令無視の結果、後で多少はお小言があるかもしれねぇが、結果を出しちまえば追求はできねぇ筈だ。

 なにせ親父殿、いや歴代のバレス辺境伯共通の理念は『強き者を優遇せよ』だからなぁ!


 魔王討伐っつう最大級の栄誉をもってSランク(最強)に返り咲き、嫡男の座を取り戻してやるぜぇッ!!


 となればその前に、まずは念の為にセルバスに確認しとくか。


「ジジイ!魔王はこの先にいるんだな!?」


「クソガ……その通りでございます、ガネット様」


 おい!このジジイ、あろうことか俺様の事をクソガキと言いかけやがったぞ!?

 ……チィッ、まぁいい。

 こんなおいぼれ、俺様が領主になったら速攻で首にしてやるから覚えてやがれ!


「【火星疾走(ガーネットブースト)】ォッ!!!」


 俺様は足下から炎を噴射してジジイが示した先をひた走る。

 魔術を使った際にちょっとした悲鳴とともに周りの雑魚どもを何人か吹き飛ばしちまったが、んな事はどうでもいい。


「ガネット!何をしている!?止まれ!!今すぐ足を止めろ!!!」


 親父殿が後ろから叫んでいるがその声はあっという間に聞こえなくなった。


 もはや俺様を止められる奴はいねぇ!

 ヒナミナの出る間なんざなく、魔王なんぞ一撃でぶち殺してやるぜぇッ!!



    ◇



 目の前に現れたのは金色の金属で全身を纏う、人の背丈と同程度の身長の異形。

 本隊から離脱して30秒後、俺様はついにそいつの下まで辿り着いていた。


 たった30秒で1km近くもの距離を走破した俺様だったが、残念ながらゆっくりはしてられねぇ!

 もたもたしてたら親父殿、最悪の場合ヒナミナ達に追いつかれちまうからなぁ!


 魔王の準備が整う間もなく、一撃でぶち殺してやるッ!!


「【火星の衝撃(ガーネット・コリード)】!」


 要領のいい俺様はここにくるまでの間に魔術のタメを終えていた。

 掌を上に掲げると俺様の真上に巨大な炎の玉が現れる。


 それも1発じゃねぇ、出血大サービスで5発分だ!

 こいつで確実に魔王を仕留めてやるぜぇ!!


「俺様の最強魔術の前に砕け散れぇッ!!!」


 圧倒的な破壊力を誇る俺様の放った巨大な5つの焔が金色の化け物を一瞬で呑み込み、轟音とともに大爆発を引き起こした。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 お兄様がんばれ~(棒)。


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