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第58話 魔王流の弔い

「テト!そっちに行ったぞぉッ!!」


「グルオオオオオオォッ!」


 アロン様の叫び声に応えるようにフレアウルフ、真っ赤なの体毛をした巨大な狼の魔物がわたくしに向けてその大きな口から火の玉を吐き出します。

 しかしそれは全身をミスリル製のプレートアーマーに身を包んだ大柄な男性、テト様の大盾によって防がれました。


「ありがとうございます、テト様」


「守るのが我の役目。問題ない」


 言葉少なに答えるテト様。

 現在、わたくし達のパーティ【黒と白】は冒険者ギルドからの依頼で最近『魔の森』で発見された変異種、特別な魔物の調査を【雌伏の覇者】の皆様と共同で行っています。


 そして今は調査中対象の魔物であるフレアウルフと交戦しており、5体倒して残るはボス格の特に体格の大きい1体を追い詰めたところなのですが……。


「【紅蓮脚(ぐれんきゃく)】!」

「グルアッ!!」


 クレイさんの放つ炎を纏った回し蹴りをフレアウルフは爆風と共に大きく跳躍する事で躱しました。

 そのまま空中を風で作られた足場を何度も蹴る事で高速で駆けていきます。


 ……明らかに普通の生物が取れるような動きではないですね。


「【氷刃アイスエッジ】!」

「グギャアッ!?」


 青髪の魔術師の女性、クリルさんの唱えた氷の刃を放つ魔術がフレアウルフを捉えました。

 その魔術は自分の側からではなく、フレアウルフの周囲から直接発動されており、彼女の魔力操作能力の高さが伺えます。


「【鎌鼬(かまいたち)】!」

「【疾風の矢(ゲイルアロー)】!」


 動きが鈍ったところにわたくしの放った風の刃とアロン様の風を纏った矢が突き刺さり、空を駆けていたフレアウルフが墜落します。

 その後一度だけビクンと痙攣を起こすと動かなくなりました。


 戦闘終了です。


    ◇


「クリル、ヒナミナ、これを見てくれ」


 戦闘中の主な指揮、そしてヒナミナさんと共にチームの主力を務めていたガイア様がクリル様とヒナミナさんに呼びかけました。

 彼の持つミスリル製の六尺棒の先にはフレアウルフの死骸があり、その腹には緑色に光る石が埋め込まれているように見えます。


「これは……魔石かな?どうやらこの魔物達が使っていた風の魔力はここから来ていたようだね」


「明らかに人工的に埋め込まれた物よね、これ。だとしたらこんな物、一体誰が……」


 わたくし達の中でも特に魔力操作能力に秀でているヒナミナさんとクリル様が見解を述べます。

 炎の魔術と風の魔術を同時に使う魔物、それがこれまでの常識を根底から覆すようなとてつもない脅威となる危険性を秘めている事はわたくしにも理解できました。


「誰がだって?そんなのあいつに決まってるじゃない」


 クリル様から漏れた発言をクレイさんが拾います。

 彼女と同じくわたくしも頭の中に一人の人物が思い浮かんでいました。



    △△(side:スレット)



 最後の1体のフレアウルフが事切れたところで僕はモニターから目を離す。


 正直調査に赴いたのがヒナミナ達であったのは嬉しい誤算だった。

 どうせ検証をするならより練度の高い相手の方が都合がいい。


「君もそう思うだろう、ミーバル」


 片手に持った大きな赤色の石に語りかける。

 それは先日、クレイ達によって討たれたミーバルの身体から零れ落ちた魔石だった。


「まぁ、答えてくれる訳ないか」


 思考するまでもない答えを確認して苦笑する。


 少し前まで研究に対して一向に身が入らなかった僕だけれど、自己分析を重ねる事で原因を特定し、なんとかスランプから脱却する事に成功していた。

 そしてその原因とは––––


「僕はね、ただ君に褒めて貰いたかっただけなんだ」


 今はもう何も語る事ができなくなってしまった相棒、赤色の魔石を撫でる。


 僕は優れた魔獣や魔道具を開発できる自分の事を一種の求道者のような者だと考えていた。

 こんな素晴らしい物を創造できる自分は優れた存在なのだと、それをモチベーションにして研究に取り組んでいるのだと思っていた。


 だけど、違ったんだ。


 僕の側にはいつも僕の研究を褒めて持ち上げてくれたミーバルがいた。

 彼がいたからこそ、僕はこの地道な作業に嫌気が刺す事もなく続けてこれたんだ。


 もちろん、ミーバルが僕の研究を褒めてくれたのは世界を破滅させたいという魔王としての本能が僕の研究が有意義であると確信していたからだろう。


 融合魔龍フュージョン・ドラゴンのような下位の魔王と同等の力を持つ魔物を開発できる僕だ。

 そりゃあご機嫌取りぐらいいくらだってやるし、自分を従者として扱うようへりくだるぐらいはするさ。


 だけどその事が自分でも理解できていてなお、彼の存在が僕のモチベーションに多大な影響を与えていたのは間違いない。


 そしてそれならば何故、僕はモチベーションを失ってなお、研究を続けていられるのか。

 きっとそれは執念のような物なのだと思う。


 あぁ、別に執念と言ってもミーバルを殺したクレイやレンを恨んでいるかと言えばそうでもないよ。

 あれは互いがそれぞれの目的を達成する為に相手を殺し、そして殺される事を理解した上での戦いだったからね。


 結果、僕達は負けてミーバルが死んだというだけの話だ。



「実験の進捗は悪くない。もうすぐ君の望みを叶えてあげられるよ」


 また独り言が漏れる。


 今の僕はこの赤の魔石、ミーバルを使って人造魔王を創り上げる事だけに注力している。

 そこに僕自身の欲求はない。

 あるのはミーバルの望みを叶えてやる事だけだ。


 僕が今行っている研究は生まれた時から歴代の魔王と比べて実力が低く、己に植え付けられた本能を満たす事もできず、身を隠して生きていく事しかできなかった彼にとって、きっと救いになるんじゃないかと考えている。


 いわば、これは僕なりの彼への弔いと言えるかもしれない。


 そしてその為のパーツは既に揃っている。


 赤色の魔石の隣にもう一つの魔石を置く。

 その魔石は褐色の光を帯びており、それはミーバルから零れ落ちた物より巨大だった。


 この褐色の魔石は僕が【月が一番大きい日(スーパームーン)】に誕生する予定だった次代の魔王を殺して手に入れた物だ。


 魔王は【月が一番大きい日(スーパームーン)】に産まれると言ってもいきなり無から生えてくる物でもない。

 実際にはその数ヶ月前から地中でゆっくりと自身の肉体を構成し、誕生の時を待つ特殊な生物であると言える。


 そして同じ魔王である僕には次代の魔王がどこにいるか、感覚で理解する事ができた。


 場所さえ分かればやる事は簡単だ。

 魔王の中では最低クラスらしい僕の力でもまだ誕生すらしていない魔王を殺す事ぐらい造作もない。


「ハハッ、人類に対して侵略らしい侵略すらしてない上に次代の魔王を生まれる前に殺すとか、魔王失格もいいところだよまったく」


 同胞を殺した上に、既にモチベーションを失っている僕にとってこれが最後の研究であり、そして魔王としての最後の活動となる。



 レンに匹敵する魔力量を持つ日陽の少女をベースにミーバルと次代の魔王の魔石を組み込み、誕生する最強の人造魔王。

 人が支配してきた歴史が塗り替えられる刻は近い。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ラスボス準備回。

(BLじゃ)ないです。

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