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【最終章開幕!】放逐令嬢、異国の巫女さんに拾われる~魔力量『しか』ないわたくしにだって意地ぐらいあるんです!~  作者: エスツー
第2章 令嬢、妹ができる

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第48話 義妹、魔王と踊る

「【覚醒(アウェイク)】」


 9期前の魔王を名乗る老人、ミーバルが魔術名を唱えると元々大柄だった彼の身体の筋肉が更に肥大化しました。

 そのまますぐにクレイちゃんを目掛けて突進していきます。


「速い!」


 とんでもない速度の踏み込みです。

 もしかしたらヒナミナちゃんやガイアさんよりその速度は上かもしれません。


 おそらく彼が使っているのは私と同じ治癒魔術の応用。

 あんな使い方も出来たなんて……!


 ですがクレイちゃんもそれで怯むようなやわな女の子ではありませんでした。


「【熾炎掌(しえんしょう)】!」


 拳を振るうミーバルの右腕を炎を纏ったミスリル製の籠手で殴りつける事で焼き尽くしてしまったのです。

 なんて威力……いえ、それだけじゃあないですねこれは。


 魔術と体術の併せ技によるあの尋常でない破壊力はレンちゃんから魔力をもらった事が大きいのでしょうが、それをコントロールしているのはクレイちゃんの実力です。

 魔術操作能力、体捌き、相手の動きを見切る動体視力。

 きっと義妹のフウカちゃんを守る為にたえず磨いてきたのでしょう。


 そしてその努力が実を結び、魔王の一人を倒し––––


「【回復(ヒール)】」


 焼き切れた右腕が一瞬で再生した!?


 ミーバルが治癒師である事は分かっていましたが、彼の技量はとてつもない物でした。

 再生の速さだけなら私と同等と言っても過言ではありません。


 ……いえ、真に恐るべくは右腕が焼き切れる激痛の中、涼しい顔をして魔術を成功させる彼の精神力でしょうか。

 そもそも武器らしい武器すら持たず、本当の意味で自分の肉体のみで戦っている時点で規格外にも程があります。


 ミーバル・アビス。

 彼もまた魔王を名乗るに相応しい実力者なのだと思い知らされます。



 しかしクレイちゃんも私の下へ来る前にミーバルにトドメを刺し損ねた事もあったのでしょう。

 彼の再生力を見ても取り乱さず追撃を––––


「【転移ワープ】」


「危ない!」


 空間魔術を使い、一瞬でクレイちゃんの背後に回り込んだスレットがミスリル製の剣を彼女の首に向かって振いました。

 最悪の想像が頭をよぎり、つい目を背けようとしたところで––––


「【真炎しんえん】」


 剣が首に触れる瞬間、クレイちゃんの身体から漏れでる真紅の魔力がより色濃くなりました。

 そして振り抜かれる剣。



 ……クレイちゃんの首は繋がっています。

 代わりにスレットの握る剣の刀身が消失していました。


「……は?おっと!」


 クレイちゃんは茫然とするスレットに拳を振るいますがあと一歩のところで逃げられてしまいました。

 その間にミーバルも彼女の元から退避します。


「いやいや、ミスリル銀を蒸発させるって一体どんな熱量なのさ?レンから魔力を受け取っているとはいえ、滅茶苦茶やるね君は。だけど––––」


 異空間から新しいミスリル製の剣を取り出しつつ、スレットは言葉を続けます。


「残念ながら、いや僕達にとっては幸運ながらか。君にはヒナミナ程の才覚はないようだ。最悪撤退する事も考えなかった訳じゃないけど、やっぱり君を殺してから聖女様を頂いていく事にするよ」


 スレットの指摘する通り、クレイちゃんにはヒナミナちゃん程の天賦の才はないのでしょう。

 実際にこの目で見た事はないので想像にはなりますが、もしレンちゃんの魔力を受け取ったのがヒナミナちゃんだったのなら彼らの首は既に胴体から離れていたに違いありません。


 ですが––––


「だからどうした!」


 一喝。

 クレイちゃんはスレットの挑発を意にも介しませんでした。


「才能があろうがなかろうが、あたしは逃げないし、あたしの大切な人達を傷付けようとする奴らを許すつもりもない!今ある全ての力を使って戦うしかないんだよ……【爆炎弾ばくえんだん】!」


 スレット達のいる空間に巨大な炎が現れ、周囲を呑み込みました。

 しかし既に彼らはそこから距離をとって退避しています。


「聞く耳持たずか。まぁ君が強敵である事は認めるよ。ミーバルと二人がかりであるにも関わらず、まだ倒せてないんだからね。……それじゃ、僕もそろそろとっておきを使わせてもらうとするかな。【取出(ブリング)】」


 スレットが魔術名を唱えると彼の掌の上に丸い赤と茶色が入り混じったような宝石らしき物が現れました。

 あれは……魔石を加工した物でしょうか?


「空間魔術使い。よく人間達が読んでる娯楽小説なんかだと彼らは空間を断絶させる事で何でも切断したりだとか、相手の攻撃を異空間に全て飛ばして反射したりだとか、そういった反則じみた芸当をしたりするのが常だけど、残念ながら現実はそう甘くはない。なにしろ世界一の空間魔術使いである僕ですらこの魔術を攻撃に応用するには移動した自分が手を下すか、それとも予め異空間に保存している物質を飛ばすしかないんだからね。……そして、これはそんな僕の非力な火力を補う為に開発した代物だ。【爆裂弾(フラムボム)】」


「!?」


 スレットの掌の上にあった物質がクレイちゃんの目の前に移動しました。

 瞬間、その物質は赤い光を放ち爆炎を起こしながら破片を飛び散らせます。


「……あっぶな」


 間一髪、クレイちゃんは足元から炎の魔術を噴出する事で背後に大きくバク転し、難を逃れていました。


「いい反応だね。だけどたった一発防いだ程度で終わるとは思わない事だ。【爆裂連弾(フラムボムズ)】」


「【瞬炎(しゅんえん)】!」


 魔石で造られた爆弾は次々とクレイちゃんの頭上に現れ、落とされていきます。

 クレイちゃんは足元で炎の魔術を爆発させる事でこれまで以上の推進力を発揮し、凄まじい勢いで前へと距離を詰めていきました。


 おそらく爆弾による攻撃を躱すと共に術者であるスレットを倒すつもりなのでしょう。


「ミーバル」


「はぁ。痛覚を切ってあるとはいえ、スレット様は人使い……魔族使いが荒い事で」


 クレイちゃんの進撃を阻止する為にミーバルが前に出ます。

 そして––––


「【震脚(クラック)】」


 彼が筋肉を肥大化させた足で『ドン!』と床を踏みしめると、途端に巨大な亀裂が走りました。


「しまっ……!」


「クレイちゃん!?」


 勢いのまま目の前のミーバルを倒すつもりだったクレイちゃんは突如できた亀裂に足をとられ、転倒こそ免れたもののその場に崩れた体勢での急停止を余儀なくされてしまいます。

 そんな致命的な隙を逃す筈もなく、彼女の頭上から降り注ぐ爆弾の雨。



 轟音と共に激しい光が放たれ、クレイちゃんの周囲全てを飲み込むような巨大な爆発が起こりました。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ボス戦は次回で決着です。

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