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第36話 令嬢、新たなAランク冒険者と邂逅する

「ふむ、素晴らしい体術だ。流石にヒナミナの妹というだけはある」


「ふふん、あたしはいつも修行頑張ってるからね!」


 呆気なく気絶してしまわれたラドリー様を尻目にガイア様がクレイさんを褒めました。

 褒められたクレイさんはご満悦のようですが……これはかなり危うい状況なのではないでしょうか。


「いやいや、そんな事言ってる場合じゃないぜガイア。クレイちゃんはヒナミナとレンちゃんの付き添いなんだろ?あと15分後に開始する第一試合にラドリーが出れなくなったなんて事になったら対戦相手のヒナミナは当然としてレンちゃんも失格になっちまうぞたぶん」


 アロン様が現状を整理してくださいました。

 クレイさんのした行動はわたくしを守ろうとしての物だったとはいえ、実際に手を挙げられた訳でもありませんでしたし、彼が試合に出られない状況を作り出したわたくし達はその責任を問われても仕方ありません。


「えっ、そうなんだ?どうしようヒナねぇ、レン」


「レンちゃんを守ろうとしてくれたって事は分かってるしクレイちゃんは悪くないよ。大会に出られないのはちょっと肩透かしではあるけど、別にそれで困るもんじゃないし、何も心配しなくてもいいからね」


「わたくしも同じ気持ちです。クレイさん、守って頂きありがとうございました。主催者側の方に事情を話した後、わたくし達は観客席からガイア様達を応援する事に致しましょう」


 わたくしは既にお父様から本戦出場を達成した報酬を受け取ってしまっているのでそれも後ほど返却しなければならないでしょう。

 お父様の期待を裏切る事になってしまったのは申し訳なく思いますが、また次の機会に頑張ればいいのです。


「二人とも、ごめんなさい……」


 しょんぼりとするクレイさんの頭をヒナミナさんが撫でて慰める中、また新たにわたくし達の側に接近してきた人物がいました。


「どうやらお困りのようだね」


 声を掛けてきた方は蒼い瞳をした金髪の中性的な美男子で、不思議とその声質はよく通り、頭に響きました。

 その胸元に下げられているのはAランク(英雄)である事を示す金のプレート。

 この大会に参加している中でガイア様を除くAランク(英雄)と言えば……。


「レッド殿か。騒がしくしてすまないな」


「構わないよガイア。それより彼の事は僕達に任せてくれないかい?4回行われる初戦のうち、2回も不戦勝なんて事になったら観客も興醒めだろうからね」


 ブラン王国でも最強と名高い【雌伏の覇者】に次ぐ実力を持つとされる【無貌の王】、そのリーダーにして不老不死との噂も囁かれているレッド様。

 外見上は20代前半程度にしか見えない彼ですが、その立ち振る舞いはガイア様を前にしても落ち着いたものでした。

 むしろガイア様の方が腰を低くして接しているようにすら見受けられます。


 この事から察するにギルドマスターのジェイル様が仰っていたようにレッド様のご年齢は見た目よりかなり高齢である事が推測出来ました。


「メルバ、彼の治療を頼むよ。気絶してる時にポーションを飲ませるのは窒息の危険性があるからね」


「まったくレッド様は人使いが荒い事で。はぁ、仕方ありませぬな」


 レッド様の背後、その影からぬるりと抜け出してきたかのようにして長い銀髪に黒い瞳を持つ執事服を着用した体格の良い老人が現れました。

 レッド様と同じく【無貌の王】の一員にしてAランク(英雄)冒険者のメルバ様です。


 メルバ様は倒れて気を失っているラドリー様の背の下に自分の足を差し込むと――


「少しばかり失礼――」



 なんとそのままラドリー様を真上に蹴り上げたのです!


「なっ!?」


 驚くのも束の間、メルバ様は浮き上がったラドリー様の背を掌で支えてそのままくるりと時計回りに回転させ、地面に立たせてしまいました。

 老人とは思えない身体能力、そして凄まじい技量の体術です。


「【回復(ヒール)】、【目覚め(アロウズ)】」


 メルバ様が魔術名を唱えると身体から微かな光が放たれ、ラドリー様を包み込みました。

『カリンお姉さんとおんなじだ……』というクレイさんの呟きが聞こえます。


 これは……治癒魔術なのでしょうか?



「うぅん……ハッ!?」


 光が収まると先程まで気絶していたラドリー様が閉じていた目を見開き、動揺したご様子で周りを見回します。


「やぁ、お目覚めかな?立ったまま寝てしまうだなんてよほど疲れていたようだね」


「レッドさん、これは一体……?私はさっきDランク(半人前)の子供に殴られ――」


Bランク(一流)の君がDランク(半人前)の女の子にあっさりのされて無様に失神するなんて事がある訳ないじゃないか。ほら、そろそろ第一試合が始まってしまうよ?早く行ってくるといい」


「そ、そうですよね。……ヒナミナ!この試合でどちらがBランク(一流)冒険者として格上か思い知らせてやるからな!」


 早口でそう言うと、ラドリー様は急いで控室を出て行かれました。

 残されたわたくし達はといいますと……。


「レッド様、メルバ様、ありがとうございました」


「ありがとう、レッドさん、メルバさん」


「迷惑かけてごめんなさい……」


 三人で事態を収めて頂いたお二人に頭を下げます。

 ヒナミナさんは冒険者ギルドから大会の試合でレッド様を撃破する事を依頼されているのですが、いきなり借りができてしまう形になってしまいましたね……。


「気にしなくて構わないよ。それに興醒めになるってのもそうだけど、先日のダンジョン攻略に参加したっていう君達には純粋に興味があるんだ。特にヒナミナ、変質した雷竜サンダー・ドラゴンを倒したと噂の君にはね」


「……なら期待には応えないとね。ガイア、悪いんだけどボクが試合に出てる間二人を見ててくれる?」


「わかった。二人の安全は約束しよう」


「ヒナミナさん、頑張ってください!」


「あたし達はここで大人しく応援してるよ~」


 ヒナミナさんはにっこりと微笑むと、ご自身もまた試合会場へと向かわれました。


 控室を出る前にガイア様にわたくし達の安全の保障をお願いしていた彼女ですが、おそらくそれをした理由は先程のようなトラブルから遠ざける為だけではなく、レッド様とメルバ様を警戒されての事なのでしょう。


 不老不死の噂に加え、優れた空間魔術の使い手であるレッド様、そしてその仲間であるメルバ様。

 少ない根拠で疑うのは失礼であるという自覚はありますが、先日のダンジョンにあった空間魔術の罠によってわたくしとヒナミナさんが分断された事を思えば、警戒してしまうのも無理はありません。



    ◇



 お二方が控室を出て数分後、外から大きな声援が鳴り響きました。

 ヒナミナさんと対戦相手であるラドリー様が武舞台に姿を現したのです。


 控室はガラス1枚の障壁はあるものの、武舞台で行われる試合を一望できる作りになっています。

 ヒナミナさんの雄姿を見届けるべく、わたくしはクレイさんと一緒に一番前の席に陣取りました。





 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 レッドにメルバ。

 一体何〇族なんだ……?

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