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第18話 神殺しの巫女

 わたくしから魔力を受け取ったヒナミナさんは全長5m近くある細長い体躯をした二つの首を持つ青色の怪物、超雷竜ハイパー・サンダー・ドラゴンと相対していました。

 その綺麗な横顔からは感情を伺い知る事ができません。

 ですが身体から今も漏れ出続ける蒼色の魔力から、彼女の怒りを確かに感じます。


「オオオオォ……」


 おそらく、自分と向き合うヒナミナさんの覇気から脅威を感じ取ったのでしょう。

 超雷竜は一声鳴くと、その青い身体が徐々に発光し始めました。


 いけません!超雷竜はまた雷撃を放つつもりです!


 わたくしの魔力を受け取ったヒナミナさんは体術と水の魔術の併せ技を使い、凄まじい速度で動く事が可能となります。

 ですが超雷竜の雷撃は発動されてしまったら、そもそも速すぎて視認すらできません。

 このままではヒナミナさんはおろか、この場にいる全員が――


「【氷獄ひょうごく】」


 ヒナミナさんが剣を地面に突き立て、魔術名を唱えると超雷竜の周囲から無数の氷柱が突き出て、その大きな体躯を取り囲みました。

 その数、およそ50本以上。

 あの魔術は前にカリスがならず者を引き連れてきた時に使ったものと同じですが、氷柱の数も一本一本の太さもまるで別物です。


 結果、一拍遅れて超雷竜が放った雷撃は無数の氷柱に阻まれ、こちらに届く事はありませんでした。

 見えないなら発動される前に封じてしまえばいい。

 魔術を()()なく発動できる、彼女にしか導き出せない答えでした。


「ギュアアアアアッ!!」


 超雷竜はその巨体を何度も氷柱にぶつけて脱出を図ろうとしますが、ビクともしません。

 この時点でもうあの怪物とヒナミナさんの格の違いは明らかになったも同然でした。


「うるさいなぁ」


 ヒナミナさんが呟くと、氷柱が一瞬にして掻き消えました。

 おそらく彼女が魔術を解除したのでしょう、次の攻撃を当てる為に。


「双頭を持つ竜……ね。残念だけど今のボクとやりあうには首が6()()ほど足りないかな。【氷五月雨ひさみだれ】」


 ヒナミナさんが魔術名を唱えると掲げているミスリル製の剣に蒼色の魔力が宿りました。

 彼女はその剣から水の魔術を噴出する事でさらに速度を増しながら、幾度となく超雷竜を斬りつけます。


「ギィアアアアアアアアアアアアァッッ!!!」


 ヒナミナさんが剣を一振りする度に追撃で無数の氷の刃が発生し、超雷竜の身体をズタズタに引き裂いていきます。

 その傷口からは大量の緑色の血液が吹き出し、もうあの怪物の息も長くは続かない事を感じさせました。


 のたうつ超雷竜を尻目に、ヒナミナさんは右足を後ろに引き、刀身を自分の身体に隠すような構えを取りました。

 いわゆる脇構えという奇襲向きの姿勢ですが、わたくしにはわかります。

 彼女は勝負を決める為に力を溜めているのだと。


日陽ニチヨウには八岐大蛇ヤマタノオロチという邪神がいた。今から放つのはそいつの8本ある首を根こそぎ落とした一閃」


 いつの間にかあれほど苦しんでのたうち回っていた超雷竜は動きを止めていました……いえ、動けないのでしょう。

 動いたら最後、その剣技は即座に放たれると分かっているのですから。


「本来ならトカゲ如きに使うような技ではないけれど」


 強大な生命体である竜にも恐怖という感情があるのでしょうか。

 その巨体は心なしか小刻みに震えているように見えます。


「君はボクを怒らせた」


 横一閃。

 ヒナミナさんの剣閃に続いて煌めく蒼の魔力が流れました。


「奥義、【草薙(くさなぎ)】」


 脱力状態から放たれたその至高の一撃は超雷竜の首2本を断ち斬り、身体の内部にあった巨大な赤い魔石を粉々に打ち砕きました。

 魔石を砕かれた超雷竜の巨体は次第に塵となって消滅していきます。



 残されたのは身体から蒼い魔力を放出したまま静かに納刀する、美しい少女の姿だけでした。



    △△(side:???)



 壁に立て掛けた遠方の映像を映し出す自作の魔道具、そのモニターの中で青く変質した雷竜、名称:融合魔龍フュージョン・ドラゴンの身体が塵となって掻き消えた。

 ヒナミナという少女が放った余波のせいか、映像も次第に乱れが生じ、そのままザーッという音だけが流れ始める。


「おぉ、スレット様のお創りになられた傑作が……」


 一緒にモニターを見ていた銀髪に青い肌の色をした魔族の執事、ミーバルが頭を抱えて項垂れた。

 ミーバルは僕が生まれて間もない頃から色々と面倒を見てくれている老人だ。

 ちなみに現存する魔族は僕が知る限り、僕と彼しかいないらしい。


「そう落ち込まないでよ、ミーバル。融合魔龍は確かに僕の最高傑作ではあったけど、あれはあくまでその時点での一番なんだから」


 とはいえ、まさか僕の傑作がたった一人の人間に倒されるとは思いもしなかった。

 融合魔龍は仮想敵としてガネット・バレスを含むバレス邸の戦力全てを想定して創られた存在だ。

 そして、()()()()の相手なら問題なく蹂躙できる力はある筈だった。


「つまり、スレット様には融合魔龍以上の作品をお創りになられる自信がおありという事なのですな?」


「勿論さ。正直ワクワクが止まらないよ。あんな凄い物を魅せられてはね」


 つい笑みが零れてしまう。

 モニター越しでは魔力の動きは分からない。

 だが、それまでのヒナミナの戦闘力やレンと呼ばれていた少女から推定される魔力量から察するに、彼女達は接吻によって魔力の受け渡しができるのだろう。

 

 魔力の受け渡し、この発想は確実に役に立つ。

 東方の島国で拾ったはいいものの使い道がまだ見つかっておらず、保存したままになっているアレも素体としては申し分ない性能がある。


「ククッ……アビスの名を冠する者、魔王陛下であられる貴方がそう仰られるなら心強い限り」


 ミーバルが口を大きく歪めて笑う。


 スレット・アビス、それがボクの名だ。

 アビスの姓は100年に一度降臨するとされる、魔王の資格を有する者にのみ名乗る事が許される。

 とはいえ、既に1000年近い歳月を生き延びたミーバルに言わせると僕の戦闘力は彼が見てきた魔王の中でも下から2番目であり、僕より強い魔王達とは雲泥の差があるらしく、ほぼ最弱に近い部類らしい。


 あぁ、最弱ってのは魔王基準での話ね。

 さっきまでモニターに映っていた冒険者で言うと、ガイアや魔力を吸収する前のヒナミナならたぶん僕一人でも勝てる。

 まぁ仮に先程の状態の彼女を相手に戦ったとしたら10秒持たせる自信すらないってのが悲しいけどね。


「ところでミーバル。さっきのヒナミナという少女だけど、君から見てどの辺りの実力になるんだい?」


 少なくとも僕より圧倒的に強いのは確かだけど、100年も生きていない僕にとって彼女の程度がどれほどのものかは判断がつかなかった。

 先程倒された融合魔龍はミーバルから見て下位(僕よりは上)の魔王程度の力はあるらしい。

 となると少なくとも彼女は中位の魔王以上の実力を備えている事になる。


「私がこれまでにお会いした事のある魔王陛下は9名。それ以前の魔王陛下を知る訳ではないので例外はあるやも知れませぬが、あの少女の力は私が知っている魔王という存在を完全に超えております。あの域まで行くともはや神、場所によっては人間達の信仰の対象となっていてもおかしくはありませぬな」


 とんでもない答えが返ってきた。


「まさかの神ときたか。それはそれは有難い事で。ははっ、僕も彼女にお祈りでもした方がいいかな?」


「バレス領を迂回しますかな?異常な力を持っているとはいえ、所詮は一人の人間。人間は往々にして一つの地に縛られるもの。無理に相手をする必要もありますまい」


 冗談のつもりで言ったんだけど、ミーバルは僕が白旗をあげたと思ったらしい。


「いいや?障害は大きければ大きいほど、超えた時の価値があるからね。僕はもう彼女を仮想敵として見定めてるよ」


 とはいえ、あのヒナミナを真正面から打ち倒す為にはまだ足りないパーツが多い。

 火力に関しては東方の島国で拾ったアレを素体にする事で何とかなる。

 だがヒナミナの持つ高度な魔力操作能力は僕が創る魔獣では再現しようがない。

 となるとそれを補う為の再生力が必要になる。


「そう言えばこの時期はそろそろ聖女様がバレス領に訪れる頃だったかな。うん、これは使えるかもしれない」


 僕個人の戦闘力は歴代の魔王に大きく劣る。

 だけど、幸いにして僕にはそれを補って余りある才能、優れた魔獣や魔導具を開発する為の頭脳が備わっていた。


 目を閉じる。

 次なる作品に向けて、僕は既に思考を回し始めていた。





 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 レンは今回の敵を超雷竜ハイパー・サンダー・ドラゴンと呼んでいましたが、アロンや超雷竜を造った本人はそんな事知る訳もないので、結果的に魔物にハイパーとか付けちゃうのはレンだけになってしまいました。

 ここまで読んで頂きありがとうございました。

 1章完結まで毎日更新を予定しております。


 もし宜しければブックマーク、評価、レビュー、ご感想、いいね等をして頂けると作者のやる気が爆上がりしますので、少しでも面白い、続きが読みたいと思った方は宜しくお願い致します。

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