彼女との思い出
「え?」
「なんか・・少し、変わってた子だった・・・」
有未は、少し変わっている子だった。もちろんサイコパスなんかではないが、建築の見学が趣味とか、動物のサイが好きとか、あまり年頃の女の子っぽくない感性を持っていた。
一度、何でサイが好きなのか聞いてみたことがある。
〝普通、女子だったら、クマとかが好きじゃん。何でわざわざサイなわけ?〟
〝・・・それは、チーズケーキに角がないよねって言ってるようなもん〟
・・・・と、更に訳のわからない返しをされた。
でも、そんな不思議な感性をもつ有未といると、飽きなくて楽しかった。
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「・・・いつから友達なの?」
「えっと、小一の夏休み明けだったかな。隣の市から俺の家の近所に引っ越してきた。前の小学校でイジメられてたらしい」
「いじめられてたの?」
「顔にでかいほくろがあってさ。それが原因でいじめられて、手術で取って、転校してきた」
転校初日、右頬に大きなガーゼを貼って、不安そうに登校していた有未をよく覚えてる。数カ月したら手術後は綺麗に消えて、もはやどちらの頬にほくろがあったか、空太も忘れていたくらいにはなったが。
「いじめられたのに転校してきたの?何で?しかも手術までして・・」
「まあ、俺もおかしいって思うけど、そうなるケースの方が多いんだよな。まあ、ちょうど父親の仕事の転勤とも重なったらしいけど。ほくろは元々コンプレックスだったみたいだから・・・」
「でもほくろ取ったならもういじめられないんじゃないの?転校する必要ある?」
「いやまあ、そう簡単にいかないのが人間関係というか・・・。入学してからすぐいじめられて、一カ月くらいでほとんど不登校になってたって言ってたし、ほくろ取ったからって今更学校行くのも気まずいだろ」
運転しながら、空太は有未との小学校時代を思い出していた。
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有未が転校してきて数カ月。両親があまり家にいない空太は、有未の家によく遊びに行くようになっていた。あの日も、空太は有未の部屋にゲームをしに遊びに来ていた。
「あれ?ここにかかってたせいふくは?」
「・・・もうすてた。てんこうしたから、もういかないし。いいおもいでないもん」
「そっか・・・まえのがっこうで、なかよかったやつとかいないの?」
「ひとりもいないよ。みんなきらいだったもん」
有未の悲しそうな、辛そうな顔を見て、空太は申し訳なくなった。
「・・・ごめん」
「え、なんであやまるの?」
「おれは、ぜったいおまえのこと、いじめないからな」
「・・・・・空太・・・ぐすッ」
「お、おい、なくなよ!ほ、ほらゲーム!ゲームやるぞ!」
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「・・・転校してきたときも、なんか暗いし、ちょっと変わってるしで、周りから少し浮いてて、いじめまではされてなかったけど、友達は少なかった」
「有未のお母さんにもよろしくって言われてたし、ちょっと心配してたんだけど。でも、中学になって、環境が変わって・・・・」
「少し変わってて、ユニークな子って感じで、人気出て。友達も増えて、本人も明るくなってさ。髪も切ってあか抜けて、男子に何人か告白もされてて・・・」
OKはしなかったらしいが、その話を聞いて、何故か胸が苦しくなって。その時に、自分の気持ちに気づいた。
「今思えば、しょうもない独占欲もあったのかも。有未の良さは、俺だけが知ってるはずなのにって思って・・・」
「・・・・で、告白しようとしたんだ」
「ああ。あいつ、高校から建築学びたいって言って、県外の寮がある高校受験しようとしてたし。卒業したら、ほとんど会えなくなると思って、焦ってて」
「建築?」
「なんか、元々建築が好きだったらしくて、建築家目指してたんだ。変わってるよな」
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中学三年の秋。部活帰りの空太は、家の前で偶然、これから出かける有未とすれ違った。
「あ、空太。部活帰り?」
「そうだけど。お前は?」
部活帰りでジャージの空太とは対照的に、有未は外行きの服装だった。
「私はこれから塾行ってくる」
「え、塾?行ってたっけ?」
「今まで見てくれてた家庭教師の先生が就職で辞めちゃってさ。この前模試受けたら順位良くってさ。数学なんて全国九十位だったんだよ!ぜひ来てくれって言われて、これから通うことにした。ほら、駅前の朝陽ゼミナールってとこ」
「・・・ああ、なんか変わった形した建物のとこだろ?」
殺風景な駅前で、一際目立つ造形をしたビルを思い出した。
「そう。あのビルの建築にも惹かれてさ~!中入って色々みたかったし」
「・・・え?建築で塾決めたの?外から見るだけで良くない?」
「良い建築物は中からも見たいんだよ!」
「・・へー・・・」
「バカにしてるでしょ?私の将来の夢なのに」
ついどうでもよさそうな返事をしてしまい、有未に睨まれた。
「いや、してないけど・・・有未ってすごいな」
「え?何で?」
「だって、もうこの年でちゃんと将来の夢決まってるだろ?俺なんて、まだ何も決めてないのに」
「・・・まだなれるかわからないけどね」
「きっと、なれるよ。お前、発想とか独特だし。なんか将来面白い建物造りそう(笑)」
「・・・ありがとう」
「俺も、自分の将来のこと決めなきゃな~はは・・・。あ、じゃあな」
背を伸ばして家の中に入ろうとする空太の背中に、有未は呟いた。
「・・・・もしさ、」
「ん?」
「・・・これから何年かして、空太が結婚とかして、家建てるってなったら、私が設計するね」
「・・・・え、」
「だって、友達だもん」
そう言って、有未は優しく微笑んだ。が、空太は少し肩を落とした。
(・・・・ああ、そうゆう意味ね・・・)
(い、いや、もしかして遠回しのプロポーズか!?)
「空太、じゃね~」
「・・・あ、うん。き、気を付けて」
有未の背中に手をふりながら、空太はずっとドキドキしていた。
あの日の夕焼けに照らされた有未の笑顔を、今でもよく覚えている。
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(・・・結局、あの言葉の真意も聞けてないんだよな・・・)
必ず、有未を取り戻す。そして・・・・。
そう決意して、空太はハンドルを強く握った。
もうじき、朝が来る。運転席から見えた朝日は、あの日の夕焼けによく似ていた。
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とあるビルの一室。暗い部屋の中で、一人の男性が口を開いた。
「ったく、勘弁してくれよ。俺のギャンブルで作った借金立て替えてくれたのは有難いけどさあ、警察の俺がこんな事してるってバレたら情報漏洩で懲戒もんだからな」
「・・・・例のものは?」
「・・・はい、これ」
そう言って、男性は一枚の写真を、目の前の人物に差し出した。
「・・・事件当時、この少年が、直前にアトラクションを抜け出して、難を逃れたらしい」
「・・・・この少年が・・・・」
「コイツの連れは殺されたけど」
「この少年の名前は?」
「・・・藤崎空太。当時、中学三年生だって」
「藤崎・・・空太・・・・」
「あと、この事件について、もう一つ、ある〝噂〟がある。警察内部でも、ごく一部の人間しか知らない」
「・・・・・噂?」
この〝人物〟の出現により、空太とエリー、二人の運命が大きく動かされる。




