会話の糸口
(砂原エリの母親・・・!?)
二人は戸惑いながらも、声を出せずにいた。
『えーと、にっしゃんちゃん、ですよね。前に、スマホケース発注してお代金もエリを通じて頂いたんだけど、私、代金間違えてたみたいで、二百円多くもらっちゃってて・・・』
『エリから伝えてもらおうと思ってエリに電話したけど、今あの子合宿行ってて電話通じなくて。それで、発注書見て直接電話しました。驚かせて、ごめんなさい』
『それで、お金どうしましょう?急ぎなら、今からでも返金に行くけど・・ちょうど今仕事帰りで・・・』
(や、やばい・・・!!)
この場ににっしゃんはいない。なんとか返事をしないと、怪しまれる。
『あの・・・にっしゃんちゃん?番号あってるかしら?』
(ど、どうすれば・・・)
(このまま、黙って切るか・・・)
空太は横にいるエリーを見た。エリーも戸惑っている。
(いや、でも、これをうまく利用すれば・・・・!)
空太は無言でエリーの手を叩き、口パクで指示を出した。
〖にっしゃんの友達のふりして。声色は変えて。俺のいう通りしゃべってくれ〗
エリーは少し戸惑った様子を見せたが、空太の指示通り、少し高い声で話し出した。
「・・・すみません、私、にっしゃんじゃないですよ」
『え?そうなの!?じゃあ間違い・・』
「・・・いえ、にっしゃんの携帯で合ってるんですけど、私はにっしゃんじゃなくてにっしゃんの友人です。にっしゃん、今手が離せなくて。代わりに出てって言われて」
『ああ・・・そうなんですね。ごめんなさい、相手も確認せずに、話してしまって』
(良かった、バレてない・・・)
とっさに思いついた作戦だが、なんとか疑われずに済んだ。自分が話そうか迷ったが、空太の声は一度聞かれてるし、エリーの声も聞かれているが、一言小さく呟いただけだし、おそらく声色変えたらごまかせるだろうと予想した。
(男の声より女の声の方が警戒されにくいだろうし・・・)
「いえいえ、大丈夫です。にっしゃんに伝えておきます」
『ありがとうございます・・・では』
(や・・やばい、電話切られる・・・)
空太は、エリーに口パクで、次のセリフを伝えた。
「あ、あの、エリちゃんのお母さんですよね?」
『あ、はい、そうです』
「・・・エリちゃんとも、何度か、遊んだことがあります」
『そうなんですね。学校のお友達かしら?』
空太は黙って、首をふり、また口パクでセリフを伝えた。
「・・・いいえ、学校は違うんですけど。にっしゃん通じて、何度か遊んだことがあります」
『・・・そうなんですねえ』
「・・・実は私もエリちゃんに少し急ぎで伝えたい用事があるんですけど。連絡つながらなくて。合宿中はずっと連絡とれないのでしょうか?」
『今は移動中でバスで山奥の方走ってるから、電波がつながらないみたい。宿についたら連絡とれると思うけど・・・』
「・・・ち、ちなみに、宿に着くのは何時ごろかわかりますか?」
『ええと・・ちょっと待ってくださいね、合宿の日程表、塾からメールでもらってるから・・』
そう言って、電話の奥でゴソゴソする音が聞こえた。
(やっぱり・・宿の場所知ってる・・!)
(ここで、うまいこと聞き出せれば・・・!)
下手に焦って無理やり聞き出そうとしたら怪しまれて、最悪通報される恐れもある。
(なんとか、自然に聞き出せれば・・・・!)
『・・・あ、ありました。えっとね、夜の九時くらいに到着するみたい』
「・・・・あ、ありがとうございます」
『いえいえ』
エリーは空太に目くばせし、空太は口を動かした。
「・・・合宿所、深山の方って聞いたんですけど」
『ええ、そうです』
「私も昔何度か遊びに行ったことあるんですけど、塾の合宿所なんてあるんですね。初めて知りました。最近できたんですか?」
『ああ、合宿所というか旅館ですね。小さい旅館貸切って、そこで合宿するみたいですよ』
「・・・へえ、なんてゆう旅館ですか?行ったとこあるとこかなあ?」
『・・・・・・・』
(・・・え?何で無言?)
なるべく自然な会話で聞き出したつもりだが、どこかおかしかったのだろうか。
(こ、答えてくれ・・・!頼む・・・!)
空太は両手を握りしめた。
『・・・・深山つばめ旅館ていうところですよ。知ってるかしら?』
(や・・やった・・・!)
空太はスマホの地図で旅館を検索した。
(でもまだ油断できない・・・)
そして、またエリーにセリフを伝えた。
「・・・・あー初めて聞きました。とりあえずそのこの旅館に着くまでは、連絡とれないんですね」
『多分そうだけど、でも途中でトイレ休憩あるから、もしかしたらそこで電波つながるかも』
「え!ど、どこ・・・何時ごろですか?」
『・・・えーと、深山前SAってところで、えっと・・・今から十分後くらいに到着予定ってなってるけど・・・』
「そ、そうなんですね!ありがとうございます」
『いえいえ・・・・ザザッ』
「え!?」
急にノイズが入り、エリーは驚きの声を上げた。
「あ・・・山道に入ったからか・・・」
そして、電波はなくなり、通話は自然に切れた。
「・・・急に切れて怪しまれないかな?」
「まあ、会話の途中でもないからいいんじゃない?とりあえず、聞き出せて良かった・・」
空太は地図アプリに深山前SAを検索し、住所を打ち込んだ。
「ここからだと、あと十五分後くらいに着くって。間に合うといいけど・・」
「飛ばすからまかせて」
「事故るなよ」
(でも何で、砂原エリは有未と一緒に・・・・)
(ただの偶然か?二人には何の接点もないし・・・)
しかし、有未はタイムトラベル前にエミリーの館で殺され、今も砂原エリの近くにいる。
(ただの偶然とは・・・・)
地図アプリで進路が決まり、二人を乗せた車は山道のトンネルに入った。
「わ、急にまぶしい」
ずっと暗い夜道を走っていたため、トンネルの中のライトが明るく感じた。
「・・・あんた、顔に汚れついてるよ」
「え、どこ」
エリーに指摘されてバックミラーを覗き込んだが、トンネルを抜けてしまい、また見えづらくなった。
「頬」
「ないよ?」
「逆だって。右の頬。昔の彼女ちゃんみたいになってる」
エリーに言われてミラーで右頬を見ると、確かに黒い汚れがついてた。
「あー・・・多分、爆発の勢いでこけた時だわ・・・」
あの時、爆破の勢いが強すぎて受け身がとれず、地面に顔をぶつけてしまった。
(昔の・・・有未、か・・・・)
空太は、小学校時代の有未の姿を思い浮かべた。
「・・・・・・・あ」
「・・・どうしたの?」
「そうだ、〝制服〟だ」
「・・・制服?」
「砂原エリの卒業写真みて、なんか見覚えあるって言っただろ。あれは、砂原エリじゃない、砂原エリが着てた制服に見覚えあったんだ」
「・・・どうゆうこと?」
「有未がほくろでいじめられて、引っ越ししてきたって話しただろ。有未が前に通ってた小学校と同じ制服だったんだ。つまり・・」
「砂原エリと、あんたの彼女は、同じ学校に通ってたってこと・・・?」
「そ、そう!学校名までは聞いてなかったけど、前に家で有未の制服見たことあったから・・・!有未は夏休み前に学校転校して、砂原エリは、えーと、七月に編入してるから、一カ月足らずだけど、同じ学校にいた。つまり、接点があったんだ・・・!その時に、何かあったのかも!」
「・・・じゃあ、あんたの彼女をいじめてたのが砂原エリってこと?」
「・・・そこまではわからないけど。・・・でも、有未は六月くらいからもう不登校だったって言ってたから、それは違うかも・・・そもそも同じクラスだったかもわからないし」
空太はスマホを取り、砂原エリの通っていた小学校を調べだした。
「・・・警察はこのことは気づかなかったのかな?」
「気づいてたかもしれないけど、何年も前のことだし、大した接点じゃないって思ったのかも。どっちみち、拒否反応が出るせいで私には事件関係のこと聞けないし」
「まあ・・・あ」
「どうした?」
「有未と砂原エリが通ってた小学校で九年前、死亡者が出たらしい。学校裏の神社の池で、亡くなった子がいるって・・・」
ネット記事には〝有名私立小学校の小一女児、神社の池で溺死か〟と書いてあった。
「亡くなったのは大山あきらって子で、池で溺死しているのを、朝、神主が発見して通報。警察の調べでは、事件はなく、おそらくいたずらで夜中に侵入しておぼれたのではないか・・・」
「・・・いくつ?」
「え?」
「その被害者の女の子。何歳?」
「・・・ああ。小一だって。だから、有未たちと同じ年・・・しかも、七月に起きた事件だ」
その事件の直後に、有未は引っ越している。
(何だこれ・・・有未と関係あるのか・・・!?)
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一方。アサツキグループのバスは、深山前SAに到着していた。
「じゃあ、これからトイレ休憩だから、二十分後に集合な~」
引率の講師の指示で、生徒たちはバスから降りだし、ほとんどの生徒はトイレへ向かった。
「・・・やっぱトイレ混んでるなー・・・」
SAの中にあるトイレに並ぶ長蛇の列を見て、有未は溜息ついた。
(どうしよう・・・宿まで我慢しようかな・・)
「あの・・・岬さん?」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには砂原エリがいた。
「ああ・・・砂原さん・・・だっけ?さっきはコーヒーありがとう」
「いえいえ。自販機で押し間違えて買っちゃったものだから。むしろいらないもの押し付けたみたいでごめんなさい」
「全然いいよ。喉乾いてたし。ありがとう」
「ふふふ。良かった。でも、トイレ混んでるみたいね」
「そうだね。宿まで我慢しようかな」
「・・・SAの裏にも、トイレあるみたいだよ?」
「え?本当?」
「うん。ここのSA何度か来た事あるから。一緒に行かない?」
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一方。空太たちの車は、未だに山道の中を走っていた。
「・・・なあエリー」
「どうしたの?」
「・・・確認したいことがあって・・・」
「・・・何・」
空太は、神妙な面持ちでエリーを見つめた。
「・・・・あんた何で、死んだ子が〝女の子〟ってわかったんだ・・・?」
「え?」
「確かに、ネット記事には女の子って書いてあるけど、俺は名前しか読み上げてない。なのに、あんたは当たり前のように女の子って言った。〝あきら〟って名前は、どっちかっていうと男に多いような名前なのに」
「・・・早とちりしただけよ」
空太の質問に、エリーは冷静に答えた
「あと、何で、有未のほくろの場所を知ってたんだ?」
「・・・・・・」
「有未がほくろが原因でいじめられた話はしたけど、ほくろの場所までは話してない。おでことか、鼻先かもしれないのに。あんたは何故か右頬だと断言した」
「・・・・・・」
「警察に有未の写真見せてもらったのかもと思ったが、見せたとしてもおそらく事件当時の写真だ。わざわざ幼少期の写真を見せてくるとは思えない。しかもあんたは被害者を思い出そうとすると拒否反応が出るくらいだし。事件当時の有未は完全に跡は綺麗に取れてて、俺だってどっちの頬にあったか忘れてたくらいなのに・・・」
「・・・それは・・・」
「なあ、エリー・・・・」
「あんた、本当に・・・記憶喪失なのか・・・?」




