家にて
セレス、ミリア、妙子の三人は料理を作るためにキッチンに来た。
夕食のメニューはスパゲティーとコーンスープである。
セレスはパスタをお湯でゆでていた。
ミリアは玉ねぎをみじん切りにしていく。
妙子もミリアのマネをして、玉ねぎを切っていく。
じゃっかん、妙子の切った玉ねぎが大きかった。
「ミリアお姉ちゃんみたいにうまくできない……」
「妙ちゃん、最初からうまく切れる人はいないから。それは私に貸して」
「うん……」
妙子が切った玉ねぎを、ミリアが上手に切っていく。
それからミリアはフライパンを用意し、オリーブオイルを入れて熱する。
それからミリアは妙子にひき肉を入れるように指示する。
妙子はまだ背が低いので、台を使って高さを合わせていた。
ミリアは玉ねぎも入れてそれを炒めていく。
ミリアは小麦粉を入れて混ぜ合わせ、ホールトマト、水、コンソメ、ケチャップ、ソース、砂糖を入れて煮込んだ。
少し炒めて塩を入れ、ミートソースの完成!
「パスタもゆで上がったぞ」
セレスが報告してくる。
「妙子、俺といっしょにコーンスープを作ろうか?」
「うん!」
セレスはコーンスープの素を取り出し、それにポッドからお湯を注いだ。
ミリアが見守る中、妙子もセレスのマネをする。
セレスとミリアは基本的に毎日、いっしょに料理を作っている。
それはファーゼンハイト家の伝統だった。
セレスの父と母も同じように二人で料理してきたのだ。
セレスとミリアはそれを眺めて育った。
ミートソースもコーンスープもできたため、三人はテーブルで食事することにした。
「「「いただきます」」」
三人が一斉に唱える。
妙子はミートソースにかぶりついた。
「うん、おいしい!」
「そう? 口に合ってよかったわ。妙ちゃんのことを考えて、塩分は少なめにしてあるんだけど」
「俺もそれはかんじたよ。確かにいつもより塩分が少ないようだ」
セレスもミートソースとコーンスープを味わって食べていく。
「なあ、妙子?」
「なあに、お父さん?」
「学校はどうだった?」
「学校……クララちゃんと、リーザちゃんと仲良くなったよ」
「そうか。友達がもうできたのか。それなら俺は安心できる。勉強はどうだ? 前の学校とは違うか?」
「うん。でも先生が優しく教えてくれるよ」
「そうか……担任の先生の名前は?」
「鈴木 ゆかり先生」
「女の先生か。なめられないといいんだが……」
「もうっ! それは兄さんでしょ? 兄さんはね、小学生のころ問題児だったのよ。担任の東山先生に反発して、いろいろと手をやらかしたの」
「そうなの、お父さん?」
「いやー……恥ずかしい話だがそうだったな。今思えば、俺は月州の規範に反発していたんだと思う。まあ、恥ずかしい話だからこれで勘弁してくれ」
三人は食後、夕食の後かたずけをした。
ミリアと妙子が洗い物をする。
その後、ミリアと妙子はいっしょにおふろに入った。
それから妙子はセレスの部屋にやって来た。
「お父さん」
「何だ、妙子?」
セレスは読書していた。
セレスは読書家でもあった。
妙子は部屋の中の大きな本棚に関心を向けた。
「すごい……これ全部お父さんの本?」
「ああ、そうだよ」
「どんな本があるの?」
「そうだな。宗教書が多いと思うな。ほかは文学書だ」
「ねえ、お父さん」
「何だ?」
「私が寝るまでこの本を読んで」
妙子はおずおずと一冊の本を出した。
「それは赤毛のアンか?」
「うん」
「俺も持っているよ。もっとも大人向けだが」
セレスは妙子といっしょに妙子の部屋にやって来た。
妙子は小さな明かりをつけて、部屋が真っ暗にならないようにしていた。
セレスが絵本を読み聞かせる。
「おやすみなさい、お父さん」
「ああ、おやすみ、妙子」
セレスは音読を続けた。
妙子は静かに寝落ちしていた。
セレスは妙子の頭をなでた。
セレスはそおっと妙子の部屋から出た。
静かに扉を閉める。
「どうだったの? 妙ちゃんは寝た?」
部屋の外にはミリアがいた。
「ああ、静かに寝たよ。絵本を音読している最中にな。本は妙子の近くに置いてきた。
「ねえ、兄さん」
「何だ?」
「私は少し不安だったの」
「不安?」
「うん……」
「どうかしたのか?」
「ちゃんと母親役ができるかなって。ちゃんと妙子を育てられるかなって。兄さんは不安はなかった?」
「俺は逆にうまくいきすぎているように感じるな……」
「どうして?」
「ああ、妙子は良い子だ。だから自分の本当の感情を抑圧しているんじゃないかと思う時がある。東山先生もそのことは気にしてくれているようだ。学校の先生……つまり教師は問題児に関心が向くからな。良い子にはあまり注意を向けなくなる。その分な……」
「それって経験則?」
ミリアが笑った。
「とにかく、妙子のことはおまえも注意して見ていろ。親が試されるのは子供が問題行動を起こした時だ」
「ええ、そうするわ」