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落っこちた貝殻

 今は現代。日本という国が産まれて今日まで、ずっとこの島国を見守っている名も知られぬ一柱の神様が居った。神様はいつも両手に立派な黄金のホラ貝のような物を持っている。これは、遥か彼方から日本中の生き物の気持ちを覗くための大切な貝殻なのであった。


 神様はいつも通り、貝殻越しに日本を覗いていた。悲しくて涙を流している者がいる時には、フワ~ッと風を吹かせて、その者の涙を乾かした。

 また、ある時は罪の意識のある咎人の夢の中に、お化けのような残像を創って懲らしめたりもしていたのである。

 さらには、乾いた大地や枯れかけたダムに危機感を覚える人々の気持ちを汲んで、雨も降らせていた。神様は毎日毎日眠ることなく日本のことを見守り続けておったのであった。


 このように、神様の貝殻は日本が平穏無事であるために必要不可欠な物なのである。 


 しかしこの神様。大変な事をしでかしてしまった。なんと、疲労でウトウトした瞬間に大切な貝殻を、広い広い海へと落っことしてしまったのである。


「ああ、困った」


 神様は腕を組んで考えた。


「貝殻は、やがて人の手に渡るだろう。しかし、人間が持つと厄介じゃな。人の気持ちが読めるようになってしまう。それが原因で争いなど起きなければよいが……また、見る人によって姿かたち、においなどを変えてしまうから、捜すのが大変になる。どうしたものか……」


 どうやらお手上げ状態の様子。


 その間、日本には様々な気持で溢れた人が多くいた。ある所では、大地も不安定。ダムの貯水量も不安定。安定した生活が出来ないなどの不満もあった。

 そんな気持ちの数々に引き寄せられるように、神様の貝殻はプカプカと太平洋を泳ぎ、長い長い年月を経て、沖縄の浜辺までたどり着いていた。


 貝殻を拾ったのは褐色の肌に割れた腹筋を持つサーファーの比嘉(ひが)という青年。彼はハイビスカスのようにピンク色に淡く輝く合わせ貝のような貝殻を四方八方から観ながら、


「くれーぬーやん?(これは何だ?)」


 と不思議がった。沖縄には変わった貝殻など腐るほどある。しかし、どこか引き寄せられる魅力があったのだ。

 青年は、しばらく貝をつついて見たり、耳にあてたりしていた。彼は合わせ貝のような見た目のこの可愛らしい貝をあることに使おうと思いつく。


「ありんかい、うくいむんさ!(彼女に、プレゼントしよう!)」


 比嘉はそう言うと、固めの短い金髪を後ろにあげて、真夏の太陽を仰ぎ見た。その後、家に持ち帰ってしまったのである。


 ――――人の手に渡ってしまったこの貝がもたらす滑稽な噺の数々。一体どのような奇怪な事が起こるのか。神様が貝殻を見つけるまで、どうかお付き合い願う。

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