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森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜  作者: 瀧川 蓮
第四章 浸食されるランドール
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第八十六話 聖女の力

★皆様のおかげで書籍化が決まりました。詳細はまた追ってお伝えいたします。


一人教室に残るジェリーと向き合うパール。ジェリーが救いを求めていると直感的に理解したパールは、自身が聖女であることを告白する。聖女の紋章を目にしたジェリーは、涙ながらにパールへ助けを求めるのであった。

ランドール共和国の中央執行機関で代表議長を務めるバッカスの屋敷には、主人であるバッカスのほかに冒険者ギルドのギルドマスター・ギブソン、そして渦中のガラム議員が顔を揃えていた。


「バッカスさん。私に大事な用とはいったい何なのだろうか。しかも娘にも関係があると聞いたが。それに、何故冒険者ギルドのギルドマスターが……?」


長身痩躯、鋭い目つきのガラム議員は憮然とした表情のまま口を開く。かなり強引にここまで連れて来られたことからやや不機嫌のようだ。


「ガラム殿。私が貴殿に聞きたいことはただ一つ。何故ランドールを裏切った?」


ガラムの肩がぴくりと反応した。が、顔色や表情にまったく変化はない。


「やれやれ。何を言い出すかと思えば。そのようなくだらない話なら帰らせてもらう」


席を立とうとするガラムをバッカスは手で制止する。


「私の言い方が悪かったな。貴殿がランドールを裏切った理由はもう分かっている。ただ、何故それを我々に相談してくれなかったのだ」


ガラムは怪訝な表情を浮かべたあと、嘲笑うかのような顔を見せた。


「裏切った理由が分かってる? ふふ、ふふふ……何をバカなことを……」


「娘さんに呪いをかけられていたな?」


顔を引き攣らせ固まるガラム。信じられないような顔でバッカスとギブソンに視線を巡らせる。


「な……何を……」


「期日までに約束を果たさないと命を失う強力な呪い。しかも、どんな魔法でも解呪できないとなれば、貴殿が相手の言いなりになるしかなかったのも理解できる」


これでもかと目を見開いて驚くガラム。その事実は誰にも話していないからだ。


「ガラム殿。すべて話してくれないか。私はもちろん、冒険者ギルドも協力すると言っている」


「……バカなことを……もう遅いんですよ。私は娘の命を人質にとられ、奴らの言いなりとなり議員たちを殺す手伝いをした。もう後には引けないし、娘を救うためにも立ち止まるわけにはいかないんだ!」


そのとき──


突然扉が開き二人の少女が入ってきた。


「ジェ、ジェリー!! 何故ここに!?」


「パパ! もうやめて! もうそんなことしなくていいの!」


ジェリーは泣きながらガラムに抱きついた。


「ジェリー……分かってくれ。お前を助けるには奴らの言いなりになるしかないんだ」


「もう、もう大丈夫なの! ほら!」


ジェリーは服をめくって父親であるガラムに柔肌を晒す。それを見てガラムは息が止まりそうになった。


本来、そこにあるはずの呪いの紋章が綺麗さっぱりなくなっていたからだ。


「こ、これは……いったいどうして……!?」


「私の友達が……パールちゃんが呪いを解いてくれたの!」


ガラムは娘の後ろに立っている美少女に目を向けた。こんな少女があの呪いを……? 何が何だか……。



話は二時間前に遡る。教室でジェリーから助けを求められたパールは、詳しい事情を聞きだした。


ジェリーには悪魔の呪いがかけられていること、あらかじめ設定された期日までにジェリーの父親が契約を果たさないと彼女は死んでしまうこと。


そのせいで、父親がよからぬことに手を染めていることを彼女は知っていた。だから、彼女は自ら呪いを解こうと考えていたらしい。


「だから治癒魔法を?」


「うん……」


「そっか。でもねジェリーちゃん。治癒魔法じゃ呪いは解けないんだよ」


「え……?」


ジェリーの顔が絶望の色に染まっていく。そう、呪いに治癒魔法は効果がない。呪いの種類にもよるが、悪魔が行使するような強い呪いならそもそも解呪できないこともあるのだ。


「多分、ジェリーちゃんのパパも最初は魔法が使える人に解呪をお願いしたんじゃないかな?」


「うん……何人かうちにやってきていろいろ試してた。結局ダメだったけど……」


「あのね、悪魔の呪いは魔法じゃ解けないことが多いの」


その言葉にジェリーは希望をなくし、俯いたまま涙をこぼし始める。


「でもね……」


パールは立ち上がるとジェリーのそばに寄り、彼女をぎゅっと強く抱きしめた。


「聖女に癒せないものはないんだよ」


瞬間、ジェリーの体が光に包まれる。何が起きているのか分からず困惑するジェリー。


ただ、自身の体から禍々しいものがすべて消え去っていくような感覚をジェリーは覚えた。


「ふう。もう呪いなんてなくなったと思うけど、どうかな?」


恐る恐るジェリーが服をめくって見てみると、心臓の位置に刻まれていた呪いの紋章がすべて消え去っていた。


「あ……ああ……」


「どう? 大丈夫そう?」


ジェリーは涙を流しながらも笑みを浮かべるとパールに抱きついた。


「ありがとう……パールちゃん……本当に、本当にありがとう……」


パールもジェリーを抱きしめ、しばらく泣き止むのを待った。



そのあとは、ジェリーを連れて冒険者ギルドまで行き、ギブソンにすべてを説明した。そしてバッカスがガラムを屋敷に連れて行き今にいたる。


「というわけで、パール様は聖女なんです」


訳がわからないといった顔をしていたガラムにギブソンが説明する。しばし呆然としていたガラムだったが、パールの前で平伏し床に頭をこすりつけた。


「あ、ありがとうございます……聖女様……ありがとうございます……」


ガラムは泣いていた。娘を助けるためとはいえ国の情報を流し、議員たちを殺す手助けまでしていたのだ。精神状態もギリギリだったのだろう。


「いや、聖女様はやめてくださいよ。私はただ──」


不意に空間の歪みを感じたパール。そちらに目を向けると──


「あら? パール何故ここに?」


「ママ!」


何とアンジェリカが転移でバッカス邸の応接室に現れた。バッカスやギブソンは慣れているが、ガラムとジェリーは驚きのあまり完全に固まってしまった。


「バッカス、ギブソン、どういうこと?」


紅い瞳を向けられた二人は焦りながらも何とか説明する。


「なるほどね。それにしてもさすが私の娘だわ。偉いわよパール」


クラスメイトやその父親の前で褒められて少し恥ずかしがるパール。


「えーと、ママはどうしたの?」


「この前の七禍の話、一応共有しとこうと思ってね」


ああ、なるほど。


「あ、あの……こちらのお嬢さんは……?」


一連のやり取りを見ていたガラム議員が恐る恐る口を開いた。


バッカスとギブソンは顔を見合わせたあと、ガラムに向き直り真剣な目を向けた。


「このお方は真祖アンジェリカ・ブラド・クインシー様。そしてパール様のお母様でもあります」


その言葉を聞いたガラムは泡を吹いて倒れてしまった。

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「聖女の聖は剣聖の聖!ムカついたら勇者でも国王でも叩き斬ります!」連載中!

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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍化おめでとうございます。 22.5話や51話がイラスト付きで読めますかねー(多分無理)。
[良い点] 書籍化おめでとうございます。 内容も面白くキャラも立っていてそりゃそうだなと思います。
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