第八十四話 イジメいくない
「聖女の聖は剣聖の聖!ムカついたら勇者でも国王でも叩き斬ります!」連載開始しました。よろしくお願いします。
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長い黒髪とドレスを風に靡かせながら宙に浮く少女。腰に手をあててふわふわと浮く少女の周りを四名の悪魔が取り囲む。
「おい、本当にこのガキで間違いないのか?」
「ええ。三日前に我が軍の大半を焼き払ったのは間違いなく彼女です」
「クケケケ。美味そう、美味そう」
「時間が惜しい。さっさとやるぞ」
紅い瞳の少女を囲んだ悪魔たちはじわじわと彼女との距離を詰め始める。少女の顔にこれといった表情は浮かんでいない。
「けっ! 可愛げがねぇガキだ。これから殺されるってのによぉ」
「油断禁物です。真祖サイファ・ブラド・クインシーの娘にして彼女自身も真祖です。どれほどの力を隠しているのか想像がつかない」
と、我慢ができなくなったのか、一名の悪魔が少女に襲いかかる。鋭い爪で背後から心臓を貫いた──と思ったが貫けていなかった。
「お前ら気をつけろ! 体に物理結界を張ってやが──」
最後まで言葉を紡ぐ間もなく悪魔の体が爆炎に包まれる。見ると、足元にはいつの間にか巨大な魔法陣が展開されていた。
「ぐ……がぁあああ!」
何とか魔法の有効範囲から逃れる。が、今度は少女の周りにいくつもの魔法陣が展開している様子を悪魔は確認した。
『魔導砲』
少女が静かに口を開くと、彼女を中心に展開していたすべての魔法陣から閃光が放たれた。
とんでもない量の魔力を凝縮した閃光が次々と悪魔を襲う。しかも、一度回避しても追尾するためタチが悪い。
「クケケケ! 強い! 強い!」
一人の悪魔は片腕を吹き飛ばされたにもかかわらず、何故か嬉しそうな声をあげながら少女へ向かって突進した。
幼い少女の顔を容赦なく全力で殴りつける。一瞬、少女の体勢が崩れたものの、即座に反撃の蹴りを受け悪魔の体がくの字に折れた。
「どけ! 巻き込まれるぞ!」
一人の悪魔が叫び、少女にまとわりついていた悪魔が素早く離脱する。
刹那──
三方向から同時に放たれた強力な魔法が少女を急襲した。一つは火属性、一つは風属性、もう一つは闇属性の魔法である。
「三属性の魔法による同時攻撃。いかに真祖と言えどこれなら……」
少女の周りを覆っていた煙が風に流されていく。間違いなく存在そのものを消失せしめた。悪魔たちはそう信じて疑わなかった。が──
少女は平然とした様子でそこに浮いていた。ダメージがある様子もまったく窺えない。
「これは……相当ですね。我ら七禍が四人がかりで倒せないどころか傷一つつけられないなんて……」
貴族のような格好をした紳士がぼそりと呟く。
「こいつは危険すぎる。世界における力の均衡を崩しかねない存在だ。確実にここで殺しておかねば」
その言葉に悪魔たちは頷き、再び血のような紅い瞳の少女へ一斉に襲いかかった。
「……ん……」
自室のベッドで目覚めたアンジェリカ。寝起きだというのに、強者と戦う前のように気が昂っていた。
アリアが七禍の話なんて持ち出すからずいぶん懐かしい夢を見ちゃったわ。たしかあのあともしばらく戦い続けてたのよね。
小さく息を吐いたアンジェリカは隣で寝ているパールへ視線を向ける。すやすやと気持ちよさそうに眠るパール。
あの頃はまさか自分が子どもを育てる日が来るなんて想像もしていなかった。まあ、七禍と戦ったときってまだ私も子どもだったしね。
それにしても、今回のことに七禍は本当に関わりがあるのだろうか。こんな回りくどいことしなさそうなのに。
窓に目をやると外はまだ真っ暗だった。アンジェリカは乱れたパールのシーツをかけ直し、再び目を閉じた。
「ママ、行ってきまーす!」
パールの元気な声が屋敷に響く。
「ええ、気をつけてね」
送迎はもちろんアリアである。飛翔魔法が多少上手くなったので、最近は一人で街まで飛んで行きたいなんて言い始めたがとんでもない。
せめて十歳くらいになるまでは送迎が必要だとアンジェリカは考えている。パールから過保護と罵られても気にしないアンジェリカであった。
試験で相当目立ったため、パールの顔と名前は学園中に轟いていた。普通に廊下を歩いているだけでざわめきが広がる。
「えーと、今日の一限は何だっけ?」
そんなことを考えつつ歩いていると……。
「パ、パールさん、おはようございますなのです」
「あ、オーラちゃんおはよう」
隣の席のオーラちゃん。可愛くて優しい女の子なんだけど、この喋り方どこかで……。
あ。ソフィアさんだ! もしかして関係者なのかな? もう少し仲良くなってから聞いてみようかな。
今日の一限って何だっけ〜、などと話しながら特級クラスの教室へ向かっていたのだが、その途中数名の生徒が言い争いをしている現場に出くわした。
壁際に立つ一人の女生徒を五人くらいの男女が責め立てている。責め立てられていたのはジェリーだった。パールはオーラに「ちょっと行ってくるね」と伝えるとジェリーたちのところへ向かう。
「ジェリーちゃん、おはよう!」
突然声をかけられて驚いたのか、全員がビクッとしてこちらを振り向いた。
「な、何だよお前……」
「私はジェリーちゃんの友達です。ジェリーちゃん、教室行こうよ」
パールは五人を割ってジェリーに近づくと手を握った。目を見開いて驚くジェリー。
「待てよ! そいつにはまだ話があるんだ! 勝手なことするな!」
「そ、そうよ! それにあなた初等部の生徒でしょ!? 高等部の先輩に対して失礼なんじゃない!?」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ始める生徒たちにパールは向き直る。
「年上の人が年下の女の子一人によってたかって、恥ずかしくないんですか? そういうことはしちゃダメだと思います」
「な、何だと!? 生意気だぞお前!」
「だったらどうしますか? 言っておきますけど、勉強でもケンカでも絶対負けない自信ありますよ?」
一人がパールに掴みかかろうとするが……。
「ば、ばか! やめろ! この子、噂になってる試験の子だ」
「あ? 何だよそれ」
「知らねぇのかよ! 筆記で満点、実技では強化された試験会場の壁を一撃の魔法で壊したって子だよ!」
その言葉を聞いた先ほどの生徒はみるみるうちに顔色が悪くなった。
「もう話は終わりですよね? じゃあ行こっかジェリーちゃん」
パールはそう口にするとジェリーの手を引いてその場からスタスタと立ち去った。
あれ、何か忘れてるような…………あ! オーラちゃん!
やば、と思い振り返ると全力で走ってくるオーラの姿が目に入り、パールはほっと胸を撫で下ろすのであった。
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