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森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜  作者: 瀧川 蓮
第四章 浸食されるランドール
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第八十三話 七禍

いつもお読みくださりありがとうございます。瀧川です。今週の日曜から新作「聖女の聖は剣聖の聖!ムカついたら勇者でも王子でも叩き斬ります!」の投稿を開始します。気が向いたらこちらもお読みいただければと思います。よろしくお願いいたします。

髪を拭いていたタオルを手早く畳んで膝に載せると、アリアは背筋を伸ばして報告を始めた。


「まず、帝都の様子はいつもと変わらず、戦争が始まりそうな気配はありません。民衆もそのような話はいっさいしていませんでした」


キィと扉を開き入ってきたフェルナンデスがローテーブルの上にティーポットとカップを載せたトレーを置く。


「あと、やはり悪魔族による被害なども耳にしていません。悪魔族が帝都で活動しているのは確かです。でも、不自然なほど被害が出ていません」


フェルナンデスが紅茶を注いだカップを一人ひとりの前に運ぶ。部屋にはベルガモットの爽やかな香りが広がった。


「あと、今日私を襲ってきたのは上位悪魔族でした。体を貫いたとき気づいたのですが、何やら呪いをかけられているようです」


「呪い?」


紅茶を口にしようとしたアンジェリカが口を挟む。


「はい。内容までは分かりませんが、おそらく命令を確実に遂行させるためのものかと」


「……ふぅん」


アンジェリカは紅茶を一口飲むと、ふぅっと息を吐いた。


「……そして私はこのやり口を知っています」


「そうなの?」


「…………七禍(しちか)です」



ガシャンと何かが割れた音が室内に響き、全員がそちらに目を向けた。音の主はフェルナンデス。空になったティーポットをトレーに載せて部屋を出ようとしていた彼が手を滑らせ、落ちたポットが割れたようだ。


部屋から退室しようとしていたフェルナンデスは、割れたティーポットを片づけようともせず、アンジェリカたちに背を向けて立ち尽くしていた。


「フェルさん! 大丈夫?」


パールが慌ててソファから立ち上がり、フェルナンデスのそばへ行こうとするが──


「来ちゃダメだ!」


フェルナンデスは普段とまったく異なる口調でパールを静止する。驚きのあまり固まるパール。フェルナンデスの顔は真っ青だった。



「あ…………お嬢、申し訳ない」


「んーん、私は大丈夫だけど、フェルさんは大丈夫?」


心配そうにフェルナンデスの顔を覗き込む。



「ええ……それよりアリア。先ほどの話は本当ですか?」


「はい。保証はありませんが、あれは昔七禍がよく使っていた呪いです」


アリアはフェルナンデスの目を真っ直ぐ見て答えた。



「……七禍が帝国と関わっていると?」


黙っていたアンジェリカが口を開く。


「……ねえママ、七禍って何?」


「七禍っていうのはね、悪魔族の頂点に君臨する七名の悪魔のことよ」


七禍はすべての悪魔族の頂点であり、個々が尋常ならざる強さを誇る。また、古くはそれぞれが独自に強力な軍を擁していた。



「強いの……?」


パールが少し不安げに口を開いた。


「ええ……強いわ。七名一人ひとりがね。昔本気を出して戦ったけど、引き分けが精一杯だったわ」


アンジェリカの強さを知るパールには、とてもではないが信じられなかった。母から伝えられたまさかの言葉に顔が驚愕に染まる。



が、アリアはそんなアンジェリカにジト目を向けた。


「お嬢様。言葉足らずにもほどがありますよ? お嬢様はあのときまだ子どもで、しかも四名の七禍を一人で同時に相手して引き分けたんじゃないですか。デタラメすぎますよ」


「ああ、そう言えばそうだったわね」


とぼけるように紅茶を口にするアンジェリカ。


「うーん……やっぱりママは凄いなぁ。あ、それでその七禍とフェルさんはどういう関係なの……?」



パールの疑問に対し、アンジェリカとアリアは顔を見合わせる。何やら複雑な事情があるのはパールにも何となく理解できた。


「フェルナンデス。パールにも話していいのかしら?」


「……はい、お嬢様」


フェルナンデスは多少落ち着きを取り戻し、割れたティーポットのかけらを拾いカチャカチャとトレーに載せていった。


「ふう……。あのね、昔フェルナンデスが真祖の軍で将軍だったって話はしたわよね?」


「うん」


「七禍はね、フェルナンデスが将軍を辞めて私の執事になるきっかけとなった奴らなのよ」


こちらに背中を向けて割れたかけらを拾い集めるフェルナンデスの体が一瞬ぴくりと動いた気がした。


「あの頃のフェルナンデスは常勝将軍って呼ばれててね。それは強い将軍だったわ」


アンジェリカは視線を斜め上に向けると、昔を懐かしむような表情を浮かべた。


「でも、あるときの戦いで七禍の一人、ベルフェゴールの罠に嵌まりフェルナンデスは戦場で孤立した」


「え……」


「その頃の私はまだ子どもだったけど、お兄様からそれを聞かされていてもたってもいられなくなったの。だから、初めて一人で戦場に出てフェルナンデスを助け出した」


「おおー! さすがママだね」


「でもね、所詮まだ子どもだったからね。助け出したころには私もボロボロになってたわ」


そう。そしてフェルナンデスはいまだにそれを気にしている。自らの不手際で幼い子どもを戦場に立たせてしまったこと。自らの不甲斐なさのせいでアンジェリカが傷を負ったこと。



「まあ大まかにはこんなところよ。それよりも、話を一度整理しましょう」


帝国で悪魔族が活動している。でも表立った被害は出ていない。でもアリアには攻撃してきた。そいつは上位悪魔で七禍の誰かから呪いを受けて何らかの命令を遂行しようとしている。


こんなところか。


整理したところで今ひとつよく分からないわね。帝国が悪魔族と手を組んでいる、ということかしら。


でも、帝国に手を貸して悪魔族に何の利点があるというの? それに、本当に七禍が関わってるのならそれはそれで面倒だ。何せ今の私は一族を離れてるから正面切って戦争をするのはまずい。



「やっぱりもう少し情報がいるわね」



お読みいただきありがとうございました!

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