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森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜  作者: 瀧川 蓮
第四章 浸食されるランドール
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第八十ニ話 今日はどこで誰を

帝国へ内通している疑いがあるガラム議員の娘ジェリーとの接触に成功したものの、めぼしい情報を得られなかったパール。一方、帝都で情報収集していたアリアは襲ってきた上位悪魔を歯牙にもかけず返り討ちにしたのであった。

学校終わりに冒険者ギルドへやってきたパールは、扉を開けた途端に異様な雰囲気を感じた。


え? 何でこんなに静かなの?


人が少ないわけではない。この時間帯に相応しい数の冒険者が屋内にはいるが、何故か誰もが微妙に緊張している。


その原因はすぐわかった。


フロアの一角にあるテーブルで優雅にお茶を飲んでいる少女。長い闇色の髪にゴシックドレス。後ろ姿でもすぐにアンジェリカと気づいた。


「ママ!」


振り返りにっこりと微笑むアンジェリカ。冒険者たちの緊張も僅かに緩んだ。


「おかえり、パール。初めての授業はどうだった? お友達はできたかしら?」


「うん! 授業はちょっと簡単だったけど、お昼休みはクラスメイトに囲まれて大変だったよー。ていうかママ、どうしてここに?」


アンジェリカは椅子から立ち上がるとパールの頭にそっと手をのせる。


「アリアが来られないから代わりに迎えに来たのよ。ギルドマスターへ報告に行くんでしょ? 私も一緒に行くわ」


冒険者たちが一斉に頭を下げる様子を視界の端に捉えつつ、アンジェリカとパールはギルドマスターのもとへ向かった。




「ぐ……くそっ……!」


アリアを排除しようとしたものの、反対に背後から胸を貫かれてしまったフロイド。転移で逃れたものの、ダメージは決して小さくなかった。


かろうじて急所は避けたが、胸には風穴を開けられている。帝都内の拠点に戻ったフロイドは、紫がかった血を垂れ流しながら床の上に倒れ込んだ。


いったい何者だったんだあいつは……。只者でないことは何となく理解していた。だが、まさかあれほどの強者だったとは……。


「……く……ぐぅ……」


顔には苦悶の表情が浮かび、額から大量の汗が流れ目に入る。とそこへ──



「悪魔侯爵ともあろう者がずいぶんなザマじゃないか」


声が聞こえたかと思うと、暗闇からすっと誰かが現れた。


小麦色の肌に長く尖った耳。溢れ落ちんばかりのたわわな双丘。背中に剣を背負ったダークエルフの少女は床に倒れ込むフロイドに視線を落とす。



「ウィズか……呑気なこと言ってないで早く治癒魔法をかけろ……」


苦痛に顔を歪めながら何とか言葉を絞り出す。


「はいはい。あんたに死なれちゃ報酬がふいになっちまうからな」


ウィズは倒れたフロイドのそばに立つと、風穴が空いた胸に手をかざし治癒魔法を発動した。みるみるうちに傷が塞がり、フロイドはゆっくりと体を起こし深く息を吐く。



「あんたがそんな傷を負うなんてな。誰とやり合ったんだ?」


ウィズが率直な疑問を口にする。腕を組んでいるため立派な双丘がさらに強調された。


「……わからん。が、尋常ならざる者だ。ただの純血種の吸血鬼だと思ったんだが、あれほどの強者とは思わなかった」


塞がった傷口をさすりながらフロイドが言葉を紡ぐ。そもそも、あいつは何をしていたんだ? 目的からして不明だ。俺たちの計画に関係しているのか?


もしかしてランドールに関係する者だろうか。帝国も悪魔である俺と手を組んでいるんだ。あの国が人ならざる者と組んでいてもそれは不思議ではない。



まさか、真祖──


とんでもないことに考えが及びフロイドの額にまた玉のような汗が浮かぶ。


──まさかあのメイドが真祖? いや、真祖に女は一人しかいないと聞いている。


遥か昔、悪魔族の軍勢を一人で殲滅しいくつかの支配地を奪った吸血姫。伝え聞いただけだが、血のように紅い瞳の美しい少女だという。


真祖……ではない。が、もしかすると真祖に近しい存在なのかもしれない。


……ダメだ。考えがまとまらない。不確定なことに気を回してもどうにもなるまい。とりあえずこれまで通り計画を進めるだけだ。




「治癒魔法……ですか」


冒険者ギルドの執務室では、ギルドマスターのギブソンがアンジェリカとパールの二人と向き合っていた。


パールは学園でガラム議員の娘、ジェリーと接触を図ったこと、治癒魔法を教えられるかどうか聞かれたこと、真意を聞く前に逃げられたことなどを包み隠さず話した。


「治癒魔法を覚えないといけないような状況にある、ということでしょうか?」


「うーん、そこまでは。聞こうとしたら逃げられちゃったし」


「ふむ……まだ分からないことだらけですね」


「明日も何とか話しかけてみます!」


あのときのジェリーちゃん、何となく悔しそうな、苦しそうな顔をしてた。もし本当に困ってることがあるのなら助けてあげたい。


でも、今思えばちょっとグイグイいきすぎたかも。登校初日で初対面なのに、あんなグイグイいって警戒されちゃったかな?


学園でのことを思い出して少し不安になるパールであった。




「ただいまー」


「おかえりぃ、パールちゃん」


メイド姿がすっかり様になったルアージュが玄関でパールとアンジェリカを出迎える。


「あれ? お姉ちゃんは?」


「さっきまでお出かけしてたけどぉ、さっき帰ってきてお風呂入ってるよぉ」


お姉ちゃんが帰ってきてすぐお風呂入るってことは……。



「……もしかして血塗れだったり?」


「んー、そうでもなかったよぅなぁ。でも、ちょっと不機嫌そうだったよぅ」


むむ? お姉ちゃんが帰ってすぐお風呂入るときって大体外で誰か殺めたときだよね。前も血が付いて汚いってブツブツ言いながらお風呂入ってたし。


「ねえママ。お姉ちゃん今日はどこに行ってたの?」


「ん? 帝国へ情報収集よ」


ああ、なるほど。


パールとアンジェリカがリビングに入ると、ちょうどアリアがソファに座って髪をタオルで拭いているところだった。


「あら、パールお帰り」


「ただいまお姉ちゃん。今日はどこで誰を殺めたの?」


「何てこと言うのよ。人を殺人鬼みたいに言わないでよね」


「だってお姉ちゃんが一人で外出して帰ってきたときっていつも血塗れなんだもん」


アリアは「うっ」と言葉に詰まってしまった。


「で、アリア。首尾はどう?」


アンジェリカの言葉にアリアの目が真剣になる。



「はいお嬢様。報告いたします」



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