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森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜  作者: 瀧川 蓮
第四章 浸食されるランドール
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第七十九話 逸材

パールが実技試験で放った魔導砲は強化された試験会場の魔法防壁をいとも簡単に破壊した。その威力と見たことない独自魔法に教師をはじめ見学していた生徒たちも驚愕するのであった。

リンドル学園の学園長室で、ローテーブルの上に広げられた資料を食い入るように見る複数の男女。


学園長のギルバートと試験の指揮をとったラムールを含む、学園の主だった教師たちである。


「それほど凄かったのか、その子は」


「はい、とんでもないですね……。あの魔法防壁を一発の魔法で穴だらけにしちゃうんですから」


先ほどのことを思い出し身震いするラムール。


「しかも、独自魔法だとか……?」


「はい。見たことも聞いたこともない魔法です。おそらく、ご両親に指導を受けたのではないかと」


ギルバートに目を向けて答える。


「あの……それほど凄い生徒に教えることってあるんでしょうか……? 聞いた話では筆記も満点とのことですし……。むしろ私が教えてほしいくらいなんですけど」


黒いローブを纏った若い女性教師が不安そうに口を開く。学園で魔法を指導している教師だ。


「それについてはこちらの書類に」


ラムールがギルバートから一枚の書類を受け取りローテーブルの上に広げる。


「…………なるほど。そういうことなんですね」


「はい。後見人によると、パールさんは育った環境が特殊らしく、これまで同年代の子どもと接する機会がほとんどなかったようです」


「つまり、同年代の生徒との交流と、それを介した社会性や協調性などの育成が主な目的ということですね」


黒ローブの教師は納得したように頷く。


「とりあえず、彼女は文句なしに特級クラスですね。きっとほかの生徒にもよい影響を与えてくれるでしょう」


ギルバートの言葉にその場の全員がしっかりと頷いた。




「こんにちはー!」


試験に無事合格し、特級クラス入りに成功したパールはその日のうちに報告のため冒険者ギルドへ足を運んだ。


「パールちゃん、おかえりなさい。試験はどうだった?」


「もちろん合格です!」


トキの問いかけに満面の笑みで答える。


「おめでとう! やっぱりパールちゃん凄いね。あ、ギルドマスターに報告行く? 多分執務室にいると思うけど」


「はい! ギルドマスターさんに渡さなければいけないものもあるので」


ぺこりとトキに頭を下げたパールはギルドマスターに報告すべく執務室へ足を向けた。




「お疲れ様でした、パール様。それにしてもさすがですね」


試験に無事合格し、特級クラスに入れたことをパールが伝えるとギブソンは安堵の表情を浮かべた。


「あ、それと先生からこれを預かっています」


パールはおずおずと一枚の封書を手渡す。


「む、何でしょう?」


封書のなかには一枚の書類が入っていた。ギブソンは取り出した書類に目を走らせるが、その顔色はまたたく間に青くなった。


書類には、パールが破壊した魔法防壁の修理に高額な費用がかかるため、修理費を折半してほしい旨が記されていた。


ラムールは学園の経費で何とかなると思っていたようだが、魔導砲が直撃したダメージは思いのほか大きかったようだ。


「こ、こ、これは……!」


「ごめんなさい!」


すかさず謝るパール。


「手加減はしたんですけど、それでも壁にいっぱい穴空いちゃいました……」


「えええええ!? 手練れのAランク冒険者が全力で魔法をぶつけても傷一つつけられない防壁を……?」


ギブソンはパールが放つ魔法の威力はある程度理解しているつもりだった。が、どうやら予想を遥かに超えていたようだ。


「ごめんなさい……」


上目遣いで申し訳なさそうに謝るパールに、ギブソンはハッとする。


「い、いえ! パール様が謝ることなど何もありませんよ。この件は私が滞りなく処理するので安心してください」


おお! よかったーーー。


まあ私も冒険者の仕事で稼いだお金がまだたくさんあるんだけどね。



「じゃあ、私は明日から学園に通います。できるだけギルドにも顔を出すようにしますね」


ギブソンに明日からの予定を伝えたパールは、少しのあいだギルドのホールで顔見知りの冒険者と談笑したあと、迎えに来たアリアとともに屋敷へ戻った。




「おかえり、パール。試験はどうだった?」


ウッドデッキの端に腰掛けて子フェンリルと戯れていたアンジェリカが、パールの姿を認めて声をかける。


「ただいまママ。筆記試験は満点だったよ! 実技試験も一番だった! 試験場の壁壊しちゃったけど」


「へえ。凄いじゃない。試験場の壁が壊れた程度でよかったわね」


ふふ、と笑ったアンジェリカは、隣に座ったパールの頭を優しく撫でる。


「うう……。まあ、これで明日から学園に通えるよ。ちゃんと特級クラスにも入れたしね」


「あまり気負いすぎないでね。同年代の子たちと交流できるいい機会だから楽しんでらっしゃい」


「うん! 楽しみだなあ」


本のなかでしか知らない学校。普段関わることがない同年代の子どもたちとの交流。


うまくやれるかなぁ、と若干の不安がありつつも、パールは明日が楽しみで堪らなかった。


「じゃあ今日は早めにご飯とお風呂済ませて寝なきゃね。汗もかいてるだろうから、先にお風呂入る?」


「うん、そうしようかな」


ウッドデッキから立ち上がり、子フェンリルの頭を軽く撫でたパールはパタパタと屋敷のなかへ戻っていく。


入れ替わるようにアンジェリカのもとへアリアがやってきた。


「アリア、そちらはどう?」


「はいお嬢様。帝国の街中では特にこれといった情報は得られませんでした。ただ……」


アリアはスッと目を細める。


「最近、帝国内で悪魔族を目撃したとの声を耳にしました」


「……へえ。何かしら被害が出ているのかしら」


アンジェリカはウッドデッキから立ち上がると、テラスのガーデンチェアに腰掛けた。


「いえ、それがそういった話はまったくありませんでした」


悪魔族は狡猾で残忍な種族だ。欲望のままに行動する個体も少なくない。


目撃談はあるのに目立った被害がないというのはどうにも引っかかる。


「……少し気になるわね」


何やら思案する顔になるアンジェリカ。


「まあいいわ。引き続きお願いね。ただ、中枢へ潜り込むときは十分注意すること。以前あなたが軍の主要人物をまとめて暗殺したから、多少なりとも警戒はしているはずよ」


まあ、いくら警戒したところでアリアの障害にはなり得ないと思うが。


「あ。明日はパールの初登校だから普段より早めに寝させるわ。食事の用意も早めてもらえるかしら?」


「かしこまりました。そう思い、すでにルアージュが食事の用意を進めています」


さすがは万能メイドのアリアである。


「……あの子、料理できるの?」


アンジェリカはやや心配そうな目をアリアに向ける。


「問題ありませんよ。旅をしながら一人で生活してきた子なので、一通りできるみたいです」


「ああ、そう言えばそうだったわね」


でもやっぱり心配だからあなたも手伝ってあげて、と伝えるとアンジェリカは再び子フェンリルと戯れるためウッドデッキの端に移動した。


そんなアンジェリカの様子に若干呆れつつ、アリアは屋敷のなかへ戻っていくのであった。

お読みいただきありがとうございました!

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