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森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜  作者: 瀧川 蓮
第四章 浸食されるランドール
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第七十五話 忍び寄る影

パールが七歳になったお祝いの食事会。その席でアンジェリカは、ギルドマスターが相談したがっている旨をパールから聞かされるのであった。

リンドル近郊にある廃墟。もともとは貴族御用達の宿泊施設として繁盛していたが、貴族制が廃止されてからはたちまち衰退し建物も再利用されないまま今に至っている。


「……おい。約束通り来たぞ。重要な話とはいったい何だ?」


人々が寝静まる時間帯。


廃墟の真っ暗な一室に男の声がこだまする。もともと受付カウンター前のホールだった場所は広々としており、手燭の灯りだけでは到底あたりを照らしきれない。



「おい……いないのか……?」


不安からか、男の声はやや震えていた。落ち着きなく周りに視線を巡らせるが、あたりに気配は感じられない。


そのとき──


静寂が支配する空間に、ミシリと何かが軋んだ音が響く。


男は思わず腰を抜かしそうになるが、何とか踏みとどまり音が聞こえた方向へ目を向ける。



刹那、胸に鋭い痛みを感じた。全身から力が抜け、口からはゴボゴボと血が溢れてくる。そっと落とした視線の先に見えたのは、自身の胸に吸い込まれている一本の剣だった。


「が、ががっ……ぐぼぉえぁっ……!」


膝から崩れ落ちた男は、そのまま床に突っ伏し絶命した。



「ちっ。人間一人殺すのに何故これほど慎重にならなきゃいけないんだか……」


ローブを纏った女は剣を軽く振り、刃にまとわりつく血を払う。


「あとは痕跡を消して……と」


ローブの上からでもはっきりと分かる見事な双丘の持ち主は、ぶつぶつと呟きつつ男の死体をアイテムボックスに回収すると、魔法で床の血痕も消去する。


「こんなコソコソちまちました仕事は性に合わねぇ」


女は忌々しげにボソリと呟くと、闇のなかへ溶け込むように姿を消した。




「それで、相談とは何かしら?」


メイドが運んできた紅茶に軽く口をつけると、アンジェリカはそう切りだした。


ランドールの最高意思決定機関、そこで代表議長を務めるバッカス邸の客間では二人の男がアンジェリカと顔を突き合わせている。


屋敷の主であるバッカスと、冒険者ギルドのギルドマスター、ギブソンである。



「アンジェリカ様、短期間に幾度となくご相談に応じていただきまことにありがとうございます」


ギブソンが口を開くと、二人そろって頭を下げた。


「まあいいわ。それで相談とは?」


「はい……実は我が国の機密情報が外部に漏れているようでして……。しかも、国の中枢にいる者が情報を漏えいさせているようなのです」


ふむふむ。ならそいつを処分すればいいんじゃないの? まあ、そうはいかないからこそ相談してきてるんだろうけど。



「現在、国の中枢にいるのは私を含め十五名の議員です。そのうちの一人が最近発言力を強めており、この男が怪しいと我々は睨んでいます」


「なぜ?」


「彼の政敵が次々と失踪しています。すでに五人の行方が分からない」



政治の世界は魑魅魍魎が跋扈する世界でもある。脅迫に誘拐、暗殺などさまざまな手段で政敵を追いやることは珍しくない。


「で、その男が情報を漏らしている犯人だとして、発言力を強めることと併せて何が問題なの?」


「……情報が渡っているのは帝国です。現に、最近我が国の軍事技術を帝国は導入し、一部の者しか知り得ない軍事拠点も攻撃に遭いました」


セイビアン帝国。


旧王国の王族を抹殺したとき、ここぞとばかりにこの国を実効支配すべく軍を送り込もうとした国だ。


あのときはたしか、アリアに命じて軍の主だった将校を皆殺しにしたんだっけ。


アンジェリカは窓の外へ目をやりながら記憶を手繰る。



「帝国とまた戦争になりそうなのかしら?」


「いえ……アンジェリカ様のおかげで帝国は優秀な人材の多くを失っています。表立った大々的な軍事行動に及ぶ可能性は低いでしょう」


なるほど。戦争になったら勝てる確率が低いため、内部から力を削いでいくという寸法か。



「渦中の議員……ガラム議員は帝国と通じているのでしょう。だとすれば、彼の政敵が姿を消しているのも帝国の者が手を貸している可能性がある」


苦々しげな表情を浮かべるバッカス。


「このままでは、帝国の傀儡が国の中枢を牛耳るようになるおそれがあります。いずれは国を帝国へ身売りする、といったこともありえるでしょう」


ギブソンは真剣な眼差しで言葉を紡ぐ。



「話は分かったわ。でも、それほど悩むこと? その怪しい議員を始末してしまえばいいだけなのでは?」


「……そう簡単にいかないほど、彼の力は大きくなっています。しかも、彼が帝国と通じている証拠は何もない」


ふむふむ。


「そもそも……彼は真面目で清廉潔白な男でした。国を愛する気持ちも誰より強かった。その彼がこんなことをしているとは、まだ信じられないのです……」


バッカスが悲痛な声を絞り出す。



「突然心変わりして帝国に尻尾を振ったと?」


「さっぱり分かりません。こちらでも探りましたが……」


うーん、何か面倒くさい話ね。



「とにかく、彼を処分するにしても、心変わりの理由を知るにも情報が必要です」


まあそうでしょうね。


「そこで、アンジェリカ様にお願いがあります」


え、私に情報収集しろってこと?



「パール様を、リンドルの学校へ入学させてくれませんか?」



「……………………は?」



バッカス邸の客間に寒気がするほどの沈黙が訪れた。



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