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森で聖女を拾った最強の吸血姫〜娘のためなら国でもあっさり滅ぼします!〜  作者: 瀧川 蓮
第四章 浸食されるランドール
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第七十三話 謀略

新章スタートです。よろしくお願いいたします。

意匠を凝らした調度品がいくつも配置された部屋のなかは、ひんやりとした空気が漂っていた。


楕円型のテーブルの上で、燭台に立てた蝋燭(ろうそく)の灯りがゆらりと大きく揺らめく。


隙間風が入ってきた……わけではない。テーブルを挟んで向き合う二人の男。その一人がため息をついたのだ。



「もう少し経済を掻き回し市井に混乱をきたすつもりだったが、思いのほか対処が早かったな」


頭に直接響いてきそうな低い声を発した主は、ニヤリと口の片端を吊りあげた。


彫りが深く端正な顔立ちだが、彼の前頭部からは二本の短い角が生えている。


「……喜んでいる場合ではない。我々の計画を成功させるには、まだまだかの国の力を削ぐ必要がある」


でっぷりとした体躯をソファに埋めている初老の男がしゃがれ声で言葉を紡いだ。大きな宝石をあしらった指輪が男の指でいやらしい輝きを放つ。


「情報はどうなっている?」


「まだまだ足りぬ。圧力を強めなくては」


初老の男はゴツゴツとした指輪をいくつもはめた指で手元の書類をめくった。


「力を削ぎすぎるのも問題だ。痩せ細った国を手に入れても意味がない」


角を生やした悪魔族の男が目を細める。


「分かっておる。計画の第一段階でうまくいくのならそれに越したことはない」


初老の男は書類をテーブルの上へ投げ捨てた。


「理想は第一段階での国盗りだ。かの国は背後に真祖がついてるという話もある」


「真祖だと? ばかな。真祖が人間の国などを庇護しているとでもいうのか?」


悪魔族の男、フロイドが目を剥く。


「あくまで噂だ。かの国は真祖に王族を滅ぼされておるしの」


「なら関係ないだろ。自分で王族を滅ぼしておいてその国を庇護するなんざ意味が分からねえ」


「そうだの。だが慎重に事を進める必要があるのは変わりない」


フロイドはその言葉に小さく頷いた。




「よ……おおっ……わわ……!」


「パールちゃんその調子だよ!」


アンジェリカ邸の庭では、キラがパールに飛行魔法を指導している最中だった。


少し離れた場所ではアルディアスが地面に体を横たえている。その足元では三頭の子フェンリルとアンジェリカ、ルアージュがくつろいでいた。


アンジェリカは子フェンリルのモフモフを堪能しつつ、パールが練習している様子を眺めている。



「お……おお! できた……かもーー!」


満面の笑みを浮かべて、地上から十メートルほどの高さを縦横無尽に飛行するパール。


だが、まだ魔力の調節が甘いため不安定さが見てとれる。


「パールちゃん! まだ無茶しちゃダメだよ! あと、パンツ見えちゃうよ!」


パールが着用しているのは膝丈のワンピースである。それで宙に浮けば……。


「あ! わわっ……! きゃあーーー!」


キラに指摘されハッとしたパールは思わず両手でスカートを押さえるが、途端に魔力の調節ができなくなり真っ逆さまに地上へ堕ち始めた。


「パ、パールちゃん!!」


キラは慌てて受け止めようとするが──



「……へ?」


地上まであと三メートルほどに迫ったあたりで、パールの体がふわりと風に包まれそのままゆっくりと地面に着地した。


振り返ったキラの目に映ったのは、子フェンリルを侍らせたアンジェリカが片手をこちらに向けている姿。アンジェリカが咄嗟に風を操ったのだ。



「あー……びっくりしたー」


パールは胸に手を当ててほっとしている。何事もなかったことにキラも安堵した。


「パール。あんな状態で気を抜いちゃ危ないでしょ」


地上に降り立ったパールのもとへ歩み寄ったアンジェリカがやんわりと注意する。


「はーい……」


「でも、初めてにしては上手だったわ。もう少し魔力をうまく調節できるようになれば飛行も安定するはずよ」


太陽の光を絡めて煌めく金色の髪を手櫛で整えたあと、軽く頭を撫でてあげるとパールはパッと嬉しそうな笑顔を見せた。


「うんうん。凄いですよぅ、パールちゃん」


相変わらずのんびりとした口調でルアージュも褒める。


『ほんに大したものじゃ。飛行魔法はかなり難易度が高い魔法じゃぞ。エルフのような魔法に長けた種族ならまだしも、人間の少女がこれほどあっさり習得するなど聞いたことがないわ』


子フェンリルを伴いパールのそばへやってきたアルディアスが驚いた様子を見せる。


「まあ私の娘だからね」


にんまりと口角を上げるアンジェリカ。相変わらずの馬鹿親ぶりである。


『ふむ。聖女ゆえの素質とアンジェリカの指導によるものと……』


アルディアスはじっとパールを見つめる。


たしかに、聖女は生まれつき膨大な魔力と魔法の才を宿すと聞いたことがある。だが、その力が顕現するのは十代の前半ではなかっただろうか。


パールはまだ十歳にもなっていない。にもかかわらず、癒しの力のみならず強力な攻撃魔法や堅固な防御魔法、果ては飛行魔法のような特殊魔法まで習得しようとしている。


どう考えても異常としか思えない。アンジェリカは自分の娘だから、と言うがそれだけでは到底説明がつかない。


アンジェリカは本気でそう考えているのだろうか。そもそも、パールの出自そのものが謎に包まれすぎている。


ちらとアンジェリカに視線を向ける。


「……? 何?」


『いや……何でもないぞよ』


まあ考えても仕方あるまい。パールとキラに首元や尻尾をモフられながら、アルディアスは空を見上げた。



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