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第七十一話 戦いを終えて

命の灯が消える寸前、ルアージュたちの前に現れたアンジェリカ。圧倒的な力でジキルや配下を蹂躙したアンジェリカは、最後のとどめをさすようルアージュに告げる。満身創痍で意識も朦朧とするなか、ルアージュはアリアから受け取った剣でジキルの心臓を貫き、ついに妹の仇を討ったのであった。

すべてが片づいたあと、アンジェリカは冒険者ギルドへ、アリアはルアージュを連れて屋敷に戻った。


ルアージュは瀕死の重傷を負っていたが、パールが聖女の力を使うとたちまち回復し、そのままぐっすりと深い眠りについた。



「とまあ、そういうことよ。イシスの人々を襲ってたのは市長を殺して成りすましていた吸血鬼とその配下ね」


冒険者ギルドの執務室でギブソンと向かい合うアンジェリカは、事の次第を簡潔に説明した。


「そうでしたか……。ではおそらく、市政に関わっていた者の大半も殺されていると考えてよいでしょうね……」


高い確率でそうだろう。あの場にいたジキル配下の吸血鬼たちは皆身なりのよい格好をしていた。おそらく殺されて成りすまされたと考えられる。


「犠牲になった冒険者たちの遺体もそのままだから、早めに何とかしてあげてちょうだい。あとは政治を立て直すための人材も必要だろうけど、それはバッカスが何とかするでしょ」


「そうですね。早急に行動を起こします」


ギブソンは目に強い光を携えて頷く。


「じゃあ私はこれで帰るわね。あとのことはよろしく」


「はい。アンジェリカ様。此度もこの国の問題を解決するのに手助けをしていただき、深く感謝しております。ありがとうございました」


ソファから立ち上がったギブソンは深々と腰を折って頭を下げる。


「気にしなくていいわ。吸血鬼がやらかしたことだし、こちらにも事情があったしね」


それじゃ、と告げるとアンジェリカはその場から姿を消した。




「うーん。大丈夫かなぁ……」


アンジェリカ邸の一室で眠り続けるルアージュの顔を心配そうに眺めるパール。


何があったの?ってくらいボロボロだったからなぁ。ほんとびっくりしたよ。


それにしても、女の子の顔をあんなに傷だらけにするなんて酷いよ! 私がその場にいたら魔導砲と魔散弾でもっと酷い目に遭わせてあげたのに!


ぷんぷんと静かに怒りを燃やす。


実際にはアンジェリカに両腕をもがれるなどかなり酷い目には遭っているのだが。



「パール、様子はどう?」


手ぬぐいと水が入った桶を携えたアリアが部屋に入ってきた。


「ぐっすり眠ってるよー」


「そう。はい、これ持ってきたわよ」


「うん、ありがとうお姉ちゃん」


パールは受け取った手ぬぐいを水で濡らし、ルアージュの顔や腕の汚れを拭き始める。


癒しの力で傷はすっかり元通りだが、自分の血や返り血で酷い有様なのだ。



「私がやるからいいのに」


コトン、とパールの隣に置いた椅子に腰掛けるアリア。


「だってお姉ちゃん人間嫌いでしょ?」


「うっ……」


図星であるため苦笑いを浮かべる。パールが冒険者として活動し始めてからさまざまな人間と関わる機会が増えたものの、アリアの人間嫌いは相変わらずであった。


「最近はかなりマシになってきたわよ」


たしかに、以前と比べれば「下等な人間ども」や「劣等種の人間ごとき」といった発言は減っている。


「ほんとかなー。私も人間なんだし、お姉ちゃんにはもっと人間を好きになってもらいたいよ」


「う……。努力する……」


かわいい妹にそう言われると従うしかないアリアであった。



「ただいま。ルアージュはどう?」


「ひゃっ!」


急に背後から声をかけられ、パールは思わず変な声を出してしまった。


「んもう、驚かさないでよママ。ルアージュさんの傷は治したから、今は眠ってるだけだよ」


「そう。さすがパールね」


アンジェリカはパールの頭をそっと撫でると、ベッドで静かに寝息をたてるルアージュへ目を向ける。


あれだけの戦闘を繰り広げたあとだ。まだしばらくは眠り続けるかもしれない。



「今はゆっくり休ませてあげましょ」


アンジェリカの言葉にパールは頷く。そのまま、とりあえずお茶にしようとアンジェリカに連れられテラスへ向かった。



テラスではすでにフェルナンデスが待機していた。アンジェリカやパールが着席したタイミングを見計らい、ティーポットからカップへ紅茶を注ぎ始める。


鼻に抜けるような爽やかな香りが湯気にのって広がる。


ああ、幸せな時間だわ。


アンジェリカは目を閉じて紅茶の香りをうっとりと楽しんだ。


カップに手を伸ばそうとしたとき、庭の奥から白銀の皮毛を揺らしながらアルディアスが近づいてきた。



『アンジェリカよ。ルアージュはどうなった?』


彼女は彼女でルアージュのことを心配していたようだ。


「危ないところだったけど何とかなったわ。彼女自身の手で仇も討てたしね」


『そうか……。本懐を遂げたのじゃな……』


アルディアスは空を見上げてぽつりと呟く。


『それにしてもアンジェリカよ。そなたも相変わらず素直ではないのぅ。助けるつもりなら最初から手助けしてやればよかったものを』


「べ、別にそんなんじゃないわよ。ただ、今回は一応同族が馬鹿なことをしてたみたいだし……」


照れ隠しなのか、紅茶を一気に半分ほど飲み干す。


『クックッ。パールよ、この母のようにならぬよう気をつけるのじゃぞ。素直になれぬ者は婚期も逃すからのぅ』


くつくつと愉快そうに笑うアルディアスとは対照的に、アンジェリカの眉間にシワが寄る。


「……なに、あなた私が婚期を逃してるって言いたいの?」


『別にそなたのことを言ったわけではないぞよ』


どこまでも愉快そうなアルディアスに、アンジェリカは忌々しげな視線を向ける。


『ただ、そなたの天邪鬼な性格がパールに移ったら婚期を逃しそうで心配じゃわ』


「いや、嫁になんてやらないし」


思わず本音が出てしまうアンジェリカ。


「ねーママ、婚期って何?」


「知らなくていいのよ」


うん。知らなくていい。パールが嫁に行くとか考えただけで発狂しそうだ。ああ嫌だ嫌だ。


ふるふると頭を振るアンジェリカを、パールは不思議そうに見つめるのであった。


と、そこへルアージュの様子を見守っていたアリアがやってきてこう告げた。



「お嬢様。ルアージュさんが目覚めたようです」


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