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第六十四話 歪な強さ

ソフィアが吸血鬼ハンターを連れてきたことに不信感を抱くパールとキラ。一方、アンジェリカはルアージュの話を聴き、彼女が探している吸血鬼が真祖である可能性を告げる。

吸血鬼は太陽の下で活動できない。これはよく知られた話である。事実、一般的な吸血鬼は太陽の光を浴びると灰になってしまう。


また、十字架や聖水、銀の武器などを用いた攻撃も吸血鬼には有効である。


だが、これらが弱点となりうるのはあくまで()()()な吸血鬼に限っての話だ。たとえば、吸血鬼に血を吸われて吸血鬼化した人間、強力な個体に魔力で生み出された存在が該当する。


一方、純血の吸血鬼は太陽の光を浴びても灰になることはない。多少力の制限は受けるが普通に活動はできる。個体によっては十字架や聖水でもダメージを与えられないこともある。


真祖となるとさらに別格だ。


真祖に弱点らしい弱点はない。太陽の下でも力の制限を受けず、あらゆる攻撃への強力な耐性をもつ。


すなわち、純血の吸血鬼や真祖を敵にまわして人間が勝てる道理はまずないのだ。



「私の仇敵が……、真祖かもしれないと……?」


アンジェリカから衝撃的な言葉を告げられ愕然としたルアージュは、震えながらも口を開いた。


「真祖である可能性はかなり低いわ」


「え……?」


ぽかんとした顔でアンジェリカを見つめるルアージュ。


「あなたがどう思ってるかは知らないけど、真祖の一族が明確な理由なく他種族を殺害したり暴虐の限りを尽くしたりといったことはないわ」


「え、でも……」


「私も含め、真祖が相手を手にかけるときは悪意や敵意を向けられたとき、害をなそうとしたときだけよ」


国陥としの吸血姫と呼ばれるアンジェリカだが、彼女から一方的に攻撃を仕掛けたことは一度もない。


すべて、彼女に悪意や敵意を向け害をなそうとした結果である。


「それに、無力な人間の女の子を殺害するような者は私の家族にいないわ」


「そう……なのですかぁ」


ルアージュは少しほっとした顔を見せる。


「そういうわけで、あなたが探しているのはおそらく純血の吸血鬼ね」


血筋を辿ると真祖にいきつくのが純血の吸血鬼である。


「真祖には及ばないけど、個体によっては相当厄介よ。人間が勝つのは現実的ではないわね」


下唇を噛んで顔を歪ませるルアージュ。


妹の仇をとるために人生を捧げてきたのだ。勝つのは無理と言われて素直に諦められるはずはない。


「……アンジェリカ様。お願いがありますぅ。私と手合わせをしていただけないでしょうかぁ」


ルアージュが口にした言葉に場の空気が緊張する。


「自分の力が純血の吸血鬼に通用するか、私で試したいってわけ?」


「無礼なことを言っているのは分かってるんですぅ。でも……」


今にも泣きそうな顔で訴えてくるルアージュに、さすがのアンジェリカも嫌とは言えなかった。


「……分かったわ。あなたが仇を討てそうかどうか、私が見極めてあげる」




アンジェリカ邸の広大な庭で向かいあう二人。


『では、妾が立ちあってやろう。どちらかが危なそうになったら止めるからの』


アルディアスが審判をしてくれるようだ。


ソフィアやパールたちは少し離れたところから見守っている。


『では、はじめ!』


アルディアスの合図とともに、ルアージュは背中の武器を抜く。


見た目は何の変哲もない細身の剣である。


さらに、腰に装着していた小さなポーチに左手を突っ込み何かを取り出すと、それをアンジェリカに投げつけた。


避けるのは簡単だが、アンジェリカは敢えてそれを受ける。


「──ん?」


体に張っている結界が少し弱まった。


ルアージュは何かをアンジェリカへ投げつけるのと同時に素早く彼女との距離を詰め、高速の斬撃を放つ。


なんと、その一撃で結界が一枚破れた。


ルアージュはさらにその場で回転しながら高速の連撃を浴びせる。


弱まった結界は瞬く間に三枚目まで侵食された。



へえ。これは少し驚いたわね。


アンジェリカは素直に舌を巻く。


おっとりとしたお嬢ちゃんだと思ってたけど、これほどの強さとは思ってもいなかった。


おそらく最初に投げつけたのは聖水が入った小瓶か何かだろう。しかも、ただの聖水ではないはずだ。


彼女が今振るっている剣は多分素材に純度の高い銀を使用しているのだろう。


使用している武器といい戦い方といい、まさに対吸血鬼に特化している。



──(いびつ)な強さね。


アンジェリカは率直にそう感じた。


彼女が強さを発揮できるのは吸血鬼だけだ。純銀を練り込んだ剣も、吸血鬼には有効だがほかの魔物には通じない。


そもそも、純銀はやわらかすぎて剣の素材に向いていないのだ。


それにこの戦い方。


相手の懐に入り連続で斬りつける戦法は、吸血鬼の蝙蝠化を防ぐためだろう。蝙蝠化して逃げられないための高速連撃だ。


だが、自身の攻撃が届く距離は相手の攻撃も届く。リスクが高すぎる戦法だ。


まさに、吸血鬼を確実に殺すことだけを見据えた、それ以外はどうでもいいと言わんばかりの装備と戦い方である。



たしかに強い……が。


アンジェリカはルアージュの背後に転移すると、彼女の首を手で掴んだ。


「あ…………」


敗北を悟りへなへなとその場に崩れ落ちる。


「ルアージュ、たしかにあなたは強い。下級吸血鬼なら相手にもならないでしょうね。でも、純血の吸血鬼相手では厳しい戦いになるわ」


「…………」


「もちろん、純血とはいえ真祖には足元にも及ばない。でも、下級吸血鬼と比較にならないほど純血は強いわ」


ルアージュは地面に座り込んだまま大粒の涙を零した。


「それでも……、それでも私は……!!」


目の前でどんどん色を失う妹。血を吸い尽くした妹をボロ雑巾のように床へ打ち捨てたあの男。


あの日の光景が頭をよぎる。


あいつを殺せないのなら生きている意味がない。



ルアージュは地面に突っ伏すと、森にこだまするほどの大声をあげて泣きはじめた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] アンジェリカは血の繋がる親がいたような描写があり、この作品では真祖同士の子供は真祖になると思っていたので、真祖と純血の家系図にどんな血や経緯が混ざると真祖から純血にランク落ちするのか気…
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