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閑話 真祖と神獣 2

きれいに切り揃えた栗色の髪に整った顔立ち、男を魅了してやまないメリハリのある身体つき。10代の後半にしか見えない彼女は女性が羨むものをすべて備えていた。


アリア・バートン。


真祖一族に長く仕えてきたメイドであり、アンジェリカが自らの血を分けた眷属でもある。


アンジェリカが幼いころからともに時間を共有してきた相手であり、彼女にとっては姉とも親友とも言える存在だ。


その彼女が突然アンジェリカに牙を剥いた。



「どういうつもり? ……アリア」


アリアはその言葉に何の反応も示さず、再び戦闘態勢に入る。


明らかにおかしい。目には光がなく言葉のひとつも発さない。


──いつものアリアではない?


そう言えば、フェンリルには不思議な力があると聞いたことがある。


もしやこれは──


「精神操作……」


そこへ思い至ったとき、目の前に白く尖ったものが迫っていた。硬化させたフェンリルの毛だ。


体に張ってある常時結界で受け止めるが、5枚のうち2枚まで貫通した。何度も喰らうのはマズい。


──厄介な。


フェンリルだけでも手に余るのにアリアの相手までしなくてはならないとは。


しかも、アリアはただのメイドではない。血を分けた眷属である彼女の戦闘力は限りなく真祖に近い。


フェンリルにアリア、同時に相手しても負ける気はしない。だが、勝つ絵が見えないのも事実だ。



こうして、真祖とその眷属、フェンリルの三つ巴による三日三晩に及ぶ戦いの幕が開いた。



………………



もうどれくらい戦っただろうか。


月が2、3回ほど入れ替わった気がする。自分でもまさかこれほど面倒なことになるとは思わなかった。


幸いまだダメージはないが、幾度にもわたる強力な攻撃を受け続けたせいで結界もかなり削られた。


アンジェリカの視線の先では、相変わらずフェンリルが今にも飛びかからんと低い体勢のままこちらを睨んでいる。


なお、厄介なアリアは戦闘が始まって2日目には無力化した。魔法でダメージを与えてから拘束魔法で自由を封じた。今はその辺に転がっている。


ふう……。さて、どうしたものかしら。あちらのダメージも相当なものだと思うけど、まだ続けるつもり?


──ん?


……何この変な感覚。寂しいような哀しいような。今すぐ楽になりたい変な感じ。


ああ。私はもう楽になりたいのか。ならもういいか。結界も解いてしまおう。そうしよう。


それが自分の意思なのかそうでないのかすら分からぬまま、アンジェリカは結界を解除しようとしたが──


……はっ!?


私、今何をしようとしてた!?


いったいどうしたっての!?


あ、フェンリルの精神操作!


戦闘に次ぐ戦闘で心身ともに疲弊して、精神に干渉されやすくなってるんだ。


これはいよいよマズい。


もういい、フェンリルの毛は諦める。


アンジェリカはアリアが転がっている方向へちらと視線を送る。


『クックッ。真祖の姫君ともあろう者がまさか逃げようとはすまいな?』


うっさいわねー。どんだけ戦闘狂なのよこの女。


『まだ罰を与えきれておらん。妾の爪と牙にかかるがよい』


懐に飛び込もうとするフェンリルに、アンジェリカは魔法を放つ。


『クックッ。妾の皮毛に生半可な魔法は通じぬ』


よく知ってるわよ。でもこれなら──


閃光(フラッシュ)


アンジェリカの手から放たれた強烈な光がフェンリルの視界を白く染める。


これにはさすがのフェンリルも怯んだ。その隙にアンジェリカはアリアを回収し、肩に担いで一目散にその場を飛び去った。


『……逃したか……。ふぅ……。危ういところであった。精神干渉できずこれ以上戦いが長引いていれば妾もいよいよ覚悟を決めるところであったわ』


強がってはいたが、アルディアスも心身ともに相当疲弊していた。


アルディアスは寝ぐらにしている森へ戻ると、傷ついた体を労るように体を丸めた。


そのまま眠りにつこうとしたが──



『こうも連日客が来ようとは……』


何者かの気配に気づき体を起こす。やってきたのは数人の悪魔族だった。


「あんだけ派手にやり合ったあとだ。もう戦う気力も体力もないだろう」


「ああ。前に仕掛けた奴らは失敗したみたいだが、今ならいけるはずだ」


なるほど。真祖の姫とやり合って消耗した今なら妾を好きにできると。


馬鹿な悪魔どもじゃの。いかに消耗しているとはいえ、神獣がその辺の悪魔なんぞにどうこうされるわけがなかろうに。


……ん? 此奴ら先ほど前に仕掛けた奴らと言ったか?



『……愚かな悪魔どもよ。死にゆく前にひとつ聞かせてもらおう。そなたら、3日ほど前にも妾の毛皮を狙いに来たのか?』


「ああそうだ。まあ、あいつらは失敗したみたいだがな。お前が殺ったんじゃねぇのか?」


なるほど。そういうことか。


どうやら妾はとんでもない勘違いをしていたようじゃ。


あやつめ、先に言えばよいものを。あ。そう言えば言っておったな。


アルディアスは少し項垂れため息を吐いた。


「へへへ。観念したようだな。じゃあ、死にゆく前のお願いは聞いてやったから、あとはお前を殺してゆっくり毛皮を剥ぐとするか」


悪魔たちはニヤニヤしながらアルディアスを取り囲む。


『ふう。本当に愚かな者どもだ。死にゆくのは妾ではなくお主らじゃというのに』


──刹那、アルディアスの尾が一人の悪魔の胸を貫いた。


「な……ななっ!!」


さらに狼狽える悪魔たちを一人ずつ噛みちぎり引きずりまわし踏みつける。


瞬く間に辺りは血の海になった。


『お主らごときが神獣である妾を狩ろうなどと片腹痛いわ』


口の中に残った悪魔の血を大地に吐き捨てる。


それにしても……。


あの真祖……、アンジェリカには少し悪いことをした気がする。


まあ、あやつも毛を狙ってきたのだとは思うが。


妾の毛皮を剥いでいた悪魔を消したのもおそらくあやつらであろう。


『ふん……』


あやつと今後会う機会があるかどうかは分からぬ。


もしかするとこの先永遠に会わない可能性もなくはない。


だが……。



『もしいずれ会う機会があれば、そのときはあやつの望みを叶えてやるとするかの』


空に浮かぶ月へ目を向け、静かにそう呟くアルディアスであった。


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