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第五十六話 勢力争い

エルフの里でアルディアスの扱いについて話し合っていたアンジェリカたちだったが、突然森から大きな咆哮を耳にする。アルディアスに何か起きたのだと判断しすぐさま転移で向かうと、そこではおびただしい数のアンデッドがアルディアスに襲いかかっていた。

顔を顰めたくなる腐敗臭が鼻腔の奥を刺激する。視界に映るのは数多のゾンビやスケルトン。


アンジェリカはそれらを魔法で瞬時に淘汰した。人間にとって脅威であるアンデッドも真祖の前ではただの動くガラクタである。


視界の端に映ったパールに視線を向けると、少年のエルフと対峙しているところだった。もっとも、長寿種のエルフなので見た目通りの年頃ではないのだろう。


ただ、どのようなエルフだろうとパールに勝つのは困難だ。パールは強くなった。あっちは任せておこう。



「そろそろ出てきたら?」


目に映るアンデッドをひとしきり殲滅したアンジェリカは、一本の巨木に向かって声をかけた。


巨木の陰からのそりと何者かが現れる。頭までローブで覆っているため顔はよく見えないが、どうやら男のようだ。


「あなたは何者?このアンデッドもあなたの仕業なのかしら」


「……何者かとはこちらの台詞だ。なぜ我々の邪魔をする」


男は忌々しそうにアンジェリカを睨みつけた。


「あなたたちがフェンリルを殺すのを邪魔したってことかしら?」


「そうだ!」


なるほど。目の前の男は多分エルフね。あちらのエルフも仲間ってことか。


ということは、レベッカの父親が言っていたほかの里の者かしらね。


「小娘。邪魔をするのならお前もこの場で殺してやろう」


男が手に携えた杖を振ると、あたりの地面からアンデッドが複数出現した。


「ああ。死霊使い(ネクロマンサー)だったわけね」


納得がいった。フェンリルを襲うなどという無謀なことをなぜしたのか不思議だったが、死霊使いなら納得できる。


アンデッドにはフェンリルの精神干渉が効かないからだ。


おそらく、精神干渉が効かないアンデッドに襲わせている隙に近づき、仕留める腹づもりだったのだろう。それでも分の悪い賭けには違いないが。


「あなたたち、このあたりの里で暮らすエルフね。なぜ危険を冒してまでフェンリルを狙ったのか教えてもらえる?」


「クク。お前の言う通りこの森と周辺にはエルフの里が複数ある。だが、同じ種族とはいえ必ずしも関係性が良いわけではないのさ」


ふむふむ。


「我々がフェンリルを倒す、もしくは追い払えばこの地域における地位と権力が一気に高まる。ゆくゆくは我々の里がこの一帯のエルフをまとめることもできる」


ああ。要するに勢力争いか。面倒くさい。


「よく分かったわ。思った通りつまらない理由だったわね」


嘲笑するような視線と言葉を投げかけられたローブの男は目を剥いて激高する。


「な、なんだと!? もういい! おい、貴様ら早くこの小娘を──」


男が口にするより早くアンジェリカがその場で腕を横に薙ぎ払うと、アンデッドたちは次々と力なく崩れていった。


「な……! なぜ人間の小娘にこのようなことが……!」


「人間と間違われるなんて心外ね」


アンジェリカは呆れた表情を見せる。


「まあいいわ。あのフェンリルは娘のお気に入りだから、あなたたちの好きにされるのは困るの」


紅い瞳に鈍い光を宿したまま、アンジェリカはまっすぐ男に向かって歩いていく。


「──その紅い瞳……! まさか真──」


男が最後まで言葉を紡ぐ前に、アンジェリカは手刀でその首を刎ねた。


あっ! しまった。パールがいるのにこんな殺し方しちゃった……。あーあ。教育によくないよねこれ。


ちらとパールたちのほうへ目を向けると、そっちも戦いが今にも終わりそうなところだった。



「えー-い!『魔散弾(バレット)』!」


数えきれないほどの小さな光弾が次々とエルフの体に吸い込まれていく。


「ぐばぁぁぁぁぁっ!!」


情けない悲鳴をあげて吹っ飛ぶエルフ。


すかさず近づいたキラが、仰向けに倒れたエルフの腹を思いきり踏みつける。


「ぶふぉっ!!」


さらに勢いよく駆け寄ったパールがぴょんと飛びあがると、エルフの腹を両足の踵でズンと踏みつけた。


「ぐぎゃっ!!」


魔法を喰らったうえに二回も腹を思いきり踏みつけられたエルフは白目を剥いて気絶した。


自分の娘ながらずいぶんエグイことしてるな、と少し離れたところから見ていたアンジェリカは少し驚きの表情を浮かべる。


よっぽど腹立たしい相手だったのかしら? 首を傾げるアンジェリカ。


単純にエルフが嫌いなだけの話である。



「あー--すっきりした」


すっかりエルフに対し悪感情を抱いているパールは、不快な相手を完膚なきまでに叩きのめせたことに満足気な笑みを浮かべた。


「それにしても、こいつら何だったんだろね」


キラが口にした率直な疑問にはアンジェリカが答えた。


「はー--。面倒くさいですねエルフって」


キラにもエルフの血は混じっているのだが、価値観や考え方はどちらかというと人間寄りのようだ。


エルフに限らず勢力争いや権力争いなどはどこの種族でもよくある。


過去にはアンジェリカ自身そのような闘争に巻き込まれそうなことがあったが、それもひとつの要因となり一族と距離を置くことになったのだ。


「まあエルフのごたごたは私たちには関係ないわ。早く用事を済ませましょう」



幸いアルディアスに大きな怪我などはない。多少傷を負ってはいたものの、パールが癒しの力で回復したのだ。


そのパールがアルディアスへ一緒に魔の森へ行かないかと伝えると、彼女はすぐさま了承した。


『クックッ。パールたちと一緒なら楽しく暮らせそうじゃな。喜んで提案にのらせてもらうぞよ』


伏せたまま愉快そうに笑ったアルディアスは、鼻先をパールに擦りつけてじゃれついた。


すっかり仲良しである。


「それじゃ、私たちも冒険者ギルドへ報告に行かなきゃね」


「うん、そうだね。でも、ギルドマスターさんに何て報告しようか?」


森で発見したのはフェンリルでした。でも仲良くなって一緒に暮らすことになりました。これで納得してくれるかな?


パールはかわいらしく首を傾げながら考えにふける。


「あ。それならアルディアスさんはパールちゃんがテイムしたことにすればいいんじゃない?」


テイム? 何それ?


「テイムってのはね、魔物や獣を従えることだよ。テイマーって職業もあるんだよ」


ふむふむ。


「テイムした魔物は冒険者ギルドに登録しないといけないけどね。それに、その魔物が何か問題を起こすと主人の責任になる」


「そうなんだね。でも、アルディアスちゃんはそれでいいのかな」


ちらとアルディアスに目を向けると……


『妾はそれで構わんぞよ。パールには何度も助けられておるしの。今後は妾がパールを助けるのじゃ』


「ほんと!? やったー-ー!」



真祖の愛娘で聖女、Aランク冒険者のドラゴンスレイヤーで神獣フェンリルをテイムする六歳の美少女。


さらに属性が盛られていくパールであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ひと安心 [一言] エルフとの戦闘が続いたのでどうなるのかと思いましたが、これでひと安心。 赤ちゃん、何匹なのかも楽しみです。
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